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ガラス作家 時澤真美さん ロングインタビュー(リライト)。

インタビューダイジェスト

●虹の街「滋賀県」で見かける虹や琵琶湖の水辺などの自然風景が、創作意欲の源泉。

●白やクリアは落ち着くから好き。一方で、それらばかりを作っていると色の付いたものも作りたくなる。

●幼少期より何も無いところから想像力を形にする事が好きだった。「無いものは創る」主義。小説や絵をよく書(描)いていた。

●美術系の高校に進学し油絵に触れる。その際、創作に関して2次元よりも3次元の世界に興味が芽生え、「重ねる」的な表現をしてみたいと思った時にガラスを意識し始め、ガラスが学べる大学へ進学。

●プロトタイプ的な役割としてのデッサンなど、絵が描ける事が強みである一方で、それは立体(造形)の事を昔から学んでこなかった事だと認識。それにより何も考えずにガラスをやるとちょっとやぼったくなる気がし、それを防ぎ且つブラッシュアップする為にも制作前にデッサンを行っている。

●透明なものは写り込みがある為、自分の意図を超えた先までガラスが起こしてくれたりするのは(ガラスの)面白さ。絵の様に紙上で終わらない点がガラスの良さ。紙上で終わるものは紙上で完結しているので、その先があるガラスにいつも驚かされている。

●表現上で大事にしている事
①ガラスの「はかなさ」。「割れる」事は逆に「愛しさ」でもある。時間と手間を掛けて作る分、普段使いと特別な時との中間ぐらいの立ち位置として使って頂きたい。

②ガラスは「記憶」する物質。熱い状態のガラスは触れば触っただけ跡が付き、それをガラスが覚えてしまう。その性質の面白さを活かした制作をしたい。


インタビュー本編

のぶちか

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時澤真美「光の痕跡」

先ずは「光の痕跡」シリーズなんですけど、ガラスは派手に「これでもか」と多色を使って技巧を凝らすパターンも多い中で、こーゆー静かなアプローチというか、光を浴びてない時だと分からない、だけど光が入る事によってそういう表現が隠れていたというその辺りの静けさというか、でも主張というのが心にビンビンきて、もうすごい方だなぁと僕は思ったんですよ。

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時澤真美「光の痕跡」

時澤
いやとんでもないです。
そうですね、やってる事は全面削ってとかすごいゴリゴリした事をやっているので、最終的な印象が「静か」って嬉しいですねぇ、すごい。

のぶちか
(話が変わって)
滋賀県は「虹の街」と聞きました。

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時澤
そうですね、そう言われてて、日常的にまぁ萩も凄い海が近くて水がすごい近いんですけど、私が住んでいる所も滋賀県全体でいつも琵琶湖っていうものを見る機会があるので、その水辺であったりとか、やっぱり虹も凄い見る機会が多いので、そういうものに触れて創作意欲が湧くじゃないですけど、ちょっと影響されてる部分が多いかなぁと言う感じですね。

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のぶちか
身近にある自然風景とかそういうものが創作のきっかけになっているという事ですね。虹はまぁそういうアプローチで、虹を除くとアクセサリーもありますけど、割と白とか透明という表現が凄く強いというかお好きなのかなぁと思って。

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時澤
そうですね、白がやっぱりすごく好きでなんか落ち着くというか。あんまり自分の家でも持ち物でもあんまり色のついたものとか黄色とかを周りに置いていなくて、それは落ち着かないからなんですけど、なんかそういうとこが影響している気がしますけど、でも白とかクリアなものを作っていると、なんか逆にそういう虹色じゃないですけど色が入っているものを作ってみたくなっちゃったりして、まぁなんかバランスだなぁという感じはするんですけど。

のぶちか
両方あるといいですよね、相乗効果じゃないけど。JIBITAも(内装が)全面白いんですけどたまに暗い色に全部変えたいなぁと思う時もあったりするんですけど。
あとは白とかモノトーンの作品だけで展示をした時に違う色も展示してみたいなぁという時は、色のある作品を展示する事でそれが叶う訳ですけど、その辺りを(時澤さんは)御自身の作品の中で上手にコントロールされている感じですか?

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時澤
うーん、コントロールしてるつもりはないですけど、(例えば)この光の痕跡だったらそれだけを作っていく作家さんももちろんいらっしゃるし、それがいいなと思う時もあるんですけど、私の性格でいろんなことがやりたくなっちゃったりとかするので自然とそういう風になりますねぇ。

のぶちか
創作に関しては何か小さい頃からクリエイトするという事はお好きだったんですか?

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時澤
そうですねぇ、別に親がそういう(アーティスト的な)人っていうわけじゃないですけど、そんなにあの裕福な家庭(というよりは)普通のおうちだったので、まぁなんか無いならないで自分で作ろうかとかそういう発想はあったかなぁと思ってて。まぁでもちょっと割とそうですね小説書いたりとか絵描いたりとかの方が最初はやっぱり興味があって。

のぶちか
文章と平面(絵画)?

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時澤
う〜ん、文章はまぁなんか下手なレベルで好きだったんですけど、絵もそうですけど、何か何もないところからワーっと想像力を形にできるみたいな感じはすごい好きだったというか、何も無いなりに想像力だけで補える遊びじゃないけど、で多分楽しかったんだと思うんですけど。

なんかすごい画材とかを買い与えられてるわけじゃないから、なんか余計にそういう発想というか、それが自然というかそれが別に不満でやってたわけじゃなくて。

のぶちか
1番理想的な状態ですね(両者 笑)!

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時澤真美「クリアカットグラス all yours」

時澤
今思えばですけどねぇ(笑)。

のぶちか
で高校は普通の?

時澤
いや高校が美術の学校で中学までは普通でしたけど。

のぶちか
そして高校で油絵を?

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時澤
はい。

のぶちか
もう1年生からいきなり油絵に入るんですか?

時澤
そうですね。変わった学校ですよね(笑)。

のぶちか
すごいなぁ! 高校っていう縛りだとあんまり…

時澤
だから昼までは普通の高校の授業をして、昼からはそれぞれのタイプのことをして絵を描いたりとか陶芸したり、そんな学校だったので。うーん、変わってますよねぇ。

のぶちか
油絵(の授業)は何か模写とか色々やるんですか?

時澤
模写はしなかったなぁ。普通に絵描いてましたねぇ。

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のぶちか
大学はどちらでどちらでしたっけ?

時澤
愛知教育大学ですね。

のぶちか
専攻がどちらでしたっけ?

時澤
はい、あの教育大学なので基本は教免を取る大学なんですけどそれとは別に造形文化コースっていうちょっと「はみ出し者」って言ったらアレなんですけど(笑)、ちょっと別の枠でコースがあって、そこも高校と同じようにガラスだったり陶芸だったり金属だったり織りだったりと言うのを選べるんですけど、まぁ本格的にそれを選んでや専攻に入るのは3年からなんですけど、まぁ1 、2年のうちからちょっとずつ触れてみたいな感じで。

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時澤真美「光の痕跡」

のぶちか
じゃあそこでガラスを選ばれて。
油(絵)は平面ですが、そこで立体に入っていきたいな、っていう気持ちに切り替わったきっかけは何かありましたか?

時澤
それはもう本当に大学はガラスがやりたくて選んだので、大学に入る前なんですけど…。きっかけは…、高校で油絵を描きながら、やっぱり二次元だったので私が選んだのは。そこで何かこう表現というか自分の創作と向き合う時に、何かをもうちょっと3Dみたいな事がしたいなぁとか、ちょっとこう「重ねる」みたいな表現がしたいなぁと思った時にガラスってどうなのかな?っていうのを頭の片隅に思ってきたことが最初です。

時澤真美「グラス 虹斫」

のぶちか
今お聞きしながら思ったんですけど、油(絵)って日本画や水彩と比べて塗料自体で立体感を出せるじゃないですか。塗り重ねて厚くする事もできますし、技法的に油絵の具を厚塗りする事で表現に奥行きを出すっていうのは意図的にある作業なのかなぁと勝手に想像してお話しているんですけど。
何かこれまでの作品にそういうアプローチのものもありましたか?

時澤
最後の高校の時に描いた作品は結構盛ってましたね(笑)。

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のぶちか
もしかしたら盛る事でここに高さ出すと絵なのにちょっと立体感出るなぁ、みたいな気付きがあったんですかねぇ?それをきっかけに平面(油絵)から立体造形に入っていったらもっと(時澤さん自身が本来したい表現に)近付くのかなあ、って思われたりしたのかなぁと(想像して)。

時澤
うーん、なんか描いててすごい歯がゆいというか、歯がゆさをすごい感じてて、なんかその時は分かんなかったんですけど、その立体を触る事でそれがすごい気持ちのモヤモヤがすごくスッと晴れたんですよね、その後に。だからそこが何かうまく言えないですけど、、、 。

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のぶちか
あるきっかけで立体に触れた時に「こっちかも」みたいな感覚を得たって事ですかねぇ。
なんとなくその、1回平面をやられた事っていうのは今の作品に対してすごく影響があるんじゃないかなと思っていて、要はあのいきなり立体に入った人よりも表現に引き出しが増えるというか、その辺に関しては御自身ではどの様に思われてますか?

時澤
そうですねぇ、あの単純に例えば誰かから注文の何かを作って欲しいって言われてサラっと描いて提案できるっていうのはかなりの強みだと思うので、そういうその自分で描いた図面でそれを立体に起こせると言うのはかなり自分にとっても他人にとっても手段として分かりやすいかなぁと。

時澤真美 a bottle レシピ
☝時澤さん直筆の「a bottle」制作フロー

まぁ、(富山) ガラス工房のスタッフとして働いてたりもしたので、例えば「何か提案してよ」って「ここにオブジェで何万円で」とかって言われた時に、やっぱりその画力があるっていうのは結構強みですよねぇ。っていうのは単純にあるんですけど。
でもまぁ何か自分で作りたいと思った時に紙の上でいろいろ試せるというか、考えられると言うのはやっぱり、あるかなぁ。

のぶちか
じゃあ直接的にその絵を描いた事が制作に対してという事よりはプロトタイプを平面上で先に作れちゃう、っていうイメージですかねぇ?

時澤
分かんないですけどねぇ…、なんかあんまり絵描かない人は逆にじゃあどうやって作ってるんだろうって私は分かんないんで、皆さんどうしてるのかなあ?っていうのはありますけど。

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のぶちか
絵については素人ですけど、やっぱりよく観察してそしてそれをいかに忠実に平面に起こせる力があるかどうかは大事だと思っていて。
だから「模写」ってお聞きしたのはその事だったんですけど。その時に例えばこのクリアのものをイメージだけで描くと(素人感覚では)透明なんだからそもそもアウトラインを描くだけで終わりそうですけど、一方で入り込んだ光だとか影を(イメージに侵されず)視覚に入ってくる情報のみに従って描く事ができる人だと、イメージのみをデッサンする時でさえそういうリアリティのある表現が可能になるのかなぁ、と想像しますが。

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時澤
でも今のお話を聞いて思うのは、それこそ透明なものって写り込みとかがあるので、自分が意図してない先までガラスが起こしてくれたりするのは(ガラスの)面白さかなぁって言うか。 紙上で終わらないっていうか、それがガラスの良さでもあると思うんですけど。

のぶちか
そうかぁ(←大きく納得)。

時澤
紙上で終わるんだったらたぶん紙上で終わってる話だから。
そこの先があるっていうのでいつもガラスには驚かされたりとか。

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時澤真美「a bottle」

のぶちか
確かにそうですね。イメージはイメージですもんね。
これだって(「a bottle」を見ながら)どんな厚みにするかで取り込む光の量が変わるでしょうし、表情も刻々と変わっていくでしょうし。

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時澤真美「a bottle」

時澤
話は変わりますが、例えば吹きガラスでよく言われるかどうか分からないですけど、私が思ってるのは人によって気持ちいいサイズがあって作ってて、私結構大きめなんですよそれが。で、まぁすごい昔絵を描いていた事を(のぶちかから)褒めて頂くんですけど、逆にそれはあんまり立体のことを昔から学んでこなかったという事なんで、ちょっとコンプレックスもあるんですよ逆に。そんなに立体の部分では洗練されてないんじゃないかぁっていうとこもあって。だからそれとその自分の気持ちいい形を、って何も考えずにガラスをするとちょっとやぼったくなる気がしてて。それを防ぐ為っていうか、もう少しブラッシュアップする為にも最初に絵だったりとか大きさだったりをしっかり考えて作る方がいいかな?っていつも思ってます。

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時澤真美「クリアカットグラス all yours」

のぶちか
作品を拝見して受ける印象の中にちょっと…、パキッと感というか、そういうのは何か感じるところがあったんですよね。それは決してその遊びが少ないからいけないとかそういう話ではなくて。真面目さというか…。
それはだから事前のデッサンというか、イメージがカチッとしてたからかもしれないですねぇ。


時澤
うーん…、カチッとした方が好き、というかデッサンとかでも結構エッジの利いたLINEを引いちゃうので…。そういうのが好きな分もあり、ホワッとしたようなデッサンを描く人に憧れもあります。ガラスも然りですけど。なんかフワッとしたラインで終わるような作品の人にも逆に憧れますけど。

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時澤真美「鉢 虹斫」

のぶちか
現する上で大事にしている事とか、楽しいなぁと感じる事はありますか?

時澤
ずうっと思っているのは、ガラスって割れる素材なので、その「はかなさ」だったりとかそういうものを。ちょっとウィークポイントではあると思うんですけど「割れる」って、ただそこが逆に「愛しい」というか、そこは大事にしていきたいなって。ちょっと私の器って、まぁすごい時間を掛けて作っている部分もあるんで、普段使いというよりは意識しているわけではないんですけど、普段使いと特別な時との中間ぐらいの(立ち位置)ももしかしたらあるのかなぁと思ってて、どっちかに行けないかなぁと模索していた時期もあるんですけど、まぁでも最近はそこの中間で良いんじゃないかなぁって思う様になってきたんで、その辺のラインをさっき言った「はかなさ」だったりを大事にしていければなぁ、というのがひとつあるのと、ガラスってすごい「記憶」する物質で実は…。あったかい状態のガラスを触れば触っただけ跡が付くしガラスが覚えてしまうというのを聞いた事があって、その面白さっていうのを活かせばいいかなぁと思っています。

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時澤真美「ピアス tablet」

のぶちか
焼物でもロクロをグルグルまわして(土が)戻ろうとするとか、ロクロでアウトライン作って、でも焼き上げてしまうとフォルムが変わってるとかってよくありますけど。で、ガラスもロクロじゃないけど、こうグルグルっと回転して(作り)ますよねぇ?

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時澤真美「クリアカット 小鉢」

時澤
はいはい。

のぶちか
なんか記憶するっていうのは、今言った話みたいな事はガラスにも起こっているって事なんですかねぇ?

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時澤
そうですねぇ、あの冷ます時に厳密にはちょっと縮んでるっていうふうになってるので、たぶんでも見た目そんな分かんないですけど。あとは今のお話聞きながら思ってたんですけど、まあガチガチに加工しますけど最後(私の作品)は火であぶってファイヤーポリッシュって言うんですけど、火であぶって表面をツルっとさせて終わるので、その時のどうしても「揺らぎ」が出たりしてしまうので、でもそこをコントロールしたいわけじゃないし、逆に面白いと思っているので、その辺はなんかガラスが自己主張すればいいじゃん、っていうか…。なんかそこまでガシっとしたものを作りたい訳じゃないので、その辺の「揺らぎ」と一緒に遊べればというかコラボレーションじゃないですど、(火による「揺らぎ」と)一緒に作品ができればいいんじゃないかな、って思います。

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時澤真美「ピアス tablet」

のぶちか
どこかマシンメイドみたいなガチガチの冷たさは感じない不思議な所はあるなぁとは思っていて、それが言語化できずにこの感覚は「なんだろう?」と思ってたんですけど、ファイヤーポリッシュでほんのり表れる「揺らぎ」に冷た過ぎない優しさみたいなものを感じていたのかもしれないですねぇ。

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時澤真美「クリアカットグラス all yours」

終わり




◆時澤真美 略歴

1978 京都府生まれ
1997 京都市立銅駝美術工芸高校 卒業
2004 愛知教育大学造形文化コースガラス専攻 卒業
2006 富山ガラス造形研究所造形科 卒業
2006 富山ガラス造形研究所 助手勤務(~2009)
2009 富山ガラス工房 所属(~2013)

2005 現代ガラス大賞展(富山)入選
2006 美の祭典越中アートフェスタ2006 佳作(富山)
2007 Young Glass 2007(デンマーク)入選
2008 日本クラフト展(東京)奨励賞
2009 日本クラフト展(東京)入選
   KOGANEZAKI・器のかたち・現代ガラス展 入選
   工芸都市高岡クラフトコンペティション 入選

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