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陶芸家 二階堂 明弘さんを訪ねて。

こんにちは、のぶちかです。

さて先日、JIBITA初となる二階堂 明弘さんの個展が終わりました。
続いて12月1日よりオンライン個展に移るのですが、と、その前に実は2021年9月に二階堂さんの伊豆にある工房へ妻のこーすけと共に訪問したので、その際に伺ったお話をnoteにまとめました。

作品鑑賞の御参考になれば幸いです。

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⇧富士山の見える場所に案内してくれる二階堂さん。

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また今回の記事はいつもと違いダイジェスト的な構成となりますが、のぶちかフィルターを通じた二階堂さんを少しでも皆様にお伝え出来たらと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

※インタビューではその他サイトにて既出の内容以外をお聞きしたかったので、本文以外の内容については他サイトを御参照下さい 汗。

◆二階堂 明弘さん 初インタビュー(ダイジェスト)

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◆独立前
文化学院芸術専門学校陶磁科を卒業後に勤めていた伊豆の陶芸教室が、夜は自分の作業をさせてもらえる環境だったで、その時間にひたすら作っていた。

◆基礎土
「益子土(例:錆器)」
もともと使っていた別の土があったが、益子で独立してからは益子の土を単味で使い始めた。土は益子の中でも火に弱く崩れやすいものを選択したが他の土を混ぜずに使っている(※成分調整目的で複数の土を混ぜる事は陶芸あるあるだが)。混ぜない理由は、混ぜずにその土地の土を使って出来上がったものが器本来の姿だと思うから。

「その他の土(例:焼き締め系)」
益子以前からもともと使っていた土。特徴は赤くて焼いた時にそれなりに雰囲気のある質感が出やすいから。焼き締まりは良いが火には弱い。

「土鍋の土」
年に1回、野村友里さんとの土鍋企画の時のみ使用(制作)。

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◆化粧土
・益子の赤土
・伊豆の土➡化粧にのみ使用。
・白土

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⇧伊豆土で化粧し、まだ磨かれる前の状態。まだ表面がツブツブザラザラして荒っぽい。

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◆ロクロ(のぶちか注目ポイント)
※のぶちかが二階堂さんのロクロ実演を拝見中に、ほぼ削らずアウトラインを決めて糸切り(ロクロから糸で制作物を切り離す作業)をした二階堂さん。そこに驚いたのぶちかからの「削らないんですね!」という問いを受けて以下、二階堂さん。

できるだけ削りは少なくしたい。理由はフォルムの問題。できるだけロクロの回転でできたラインを大切にしたいから。でもその分(薄いから)、ヘタって落ちちゃう(形が崩れる)事もある。厚みはノリで決めてます(笑)。しかし、削りでアウトラインを決めていないので予め一定範囲の厚みにおさまります。

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⇧高台内の削り(アウトラインとは別です)。この時の削りがとても速く(ロクロの回転速度含め)驚きました。速さの理由に「せっかちなんで」と答えられたのが印象的でした。

トンボ(サイズ計測用の道具)は当てないです。トンボを当てるとそのサイズ、径に収めようとするのでロクロの伸びやかさみたいなものがどうしても死ぬ様な気がして。既製品に近い雰囲気にどうしてもなってしまうのでそれをやめました。だから注文の時にサイズが合ってなくて作り直した事もありますが(笑)、それでもトンボは当てずに作りました。一方で蓋物や細工物はどうしても当てざるを得ないパターンもありますが、それ以外は全てトンボを当てないです。

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◆磨き
器は焼き上げた後に砥石、ペーパーやすりで磨いて仕上げるが、特に伊豆の土で化粧をするタイプは表面のザラつきがとても強い為、磨く時につんざく様な音が発生する事や、磨き自体にも長い時間が掛かる点から全工程で一番辛い朝業。機械的な磨きも色々試してみたが、やはり手磨きが一番良いと思い、結局はこの辛い手磨きを選択している。

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◆土鍋
土鍋制作は土も違うし窯も少し違う上に、パーツもの(例:ボディと蓋に2パーツ)なので作った時のスペースもかなり取られる事から、定番アイテムと並行して制作しようとすると調整が困難。その為、もともとは販売用ではなく、単純に自分が欲しいと思って作り始めた。だんだん自分が料理で使う時に「どんな形が良いか?」という事から考え出し、趣味の領域から自分が欲しい土鍋を作り始めた。

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◆使い易さと造形とのバランスについて
※実際に料理を頻繁に作る方が調理道具の使い易さを(人間工学的にも)追求し続けて作り上げたフォルムというものは、結果的に用に長けるだけでなく見た目の美しさも備わっている気がしている、というのぶちかの考えを受けて以下、二階堂さん。

➡使い易さを追求した先に生まれた造形には実用の美がある。しかしそれがいき過ぎると「使っていて楽しい」という美や、「使い続けられる楽しさ」という点が薄まる気がする。だから器には使い勝手だけでなく視覚的な楽しみ、喜びも必要だ。
例えばそのまま卓上に持って来た時に、土鍋の形だけどサラダボウルとしても成立するような感じ。
土鍋は特にそのあたりの微妙なバランスがある。特に米炊き釜は毎日使うものだからそのへんの面白さがあると同時に悩ましいというか。だから米炊き釜は普通の釜と違ってマイナーチェンジし続けている。

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◆オンライン販売と抹茶茶碗
もともとはオンラインでの販売自体をしていなかったが、コロナ禍で解禁せざるを得なくなった。しかしその中でも(購入前に確認しなければならない情報量が多い)抹茶茶碗は、事前に手に取って確認する事ができない為、ほぼオンラインでは販売してこなかった。

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◆均一化の苦痛と今後
コロナ禍でオンライン販売が中心となった時に、どうしてもなるべく個体差の無い状態での制作が多くなって、凄くそれがストレスとなった。本来はその差があって、それを選ぶのが面白い所なのにその個性を均一化させる作業というのが苦痛でしかなかった。もう2年位になるのでそれが板についてしまった部分があるけど、しかしそれは作家にとってデメリットの方が大きいと感じるので、そろそろ元(個体差を楽しめる作陶)に戻していこうとしている。

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◆益楽(ましら)

「益楽(ましら)」とは「猿(ましら)」にかけて「猿の真似事として楽家(千家十職 茶碗師)由来の楽茶碗をやらせてもらっています」という謙虚な意味を含めて、益子時代に付けた名称で、楽茶碗同じく手びねりにて制作。
窯は小さいレンガの炭の窯を毎回作ってその都度、崩す(焼成するもののサイズ感がその都度違う為)。

引き出し(※ゆっくり冷まさず熱い状態を窯から急に引き出して急冷させる方法)た後は一旦軽くももみ殻で燻して水冷していたが、益子時代はもみ殻から放射能溶出の可能性を危惧し、現在はもみ殻をやめて別の方法(秘密事項☝)で燻す様に。

引き出しという技法自体は同じなので、同じ雰囲気になりにくい様に燻し方や水冷させるタイミングをできるだけバラバラにし、表情に変化が出る様にしている。

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⇧益楽のぐい呑み

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のぶちかの所感

【益子土と錆器の薄さ】
益子の陶土は一般的に砂が多く、きめが粗く、粘りも少ない為、ロクロもひきにくければ、焼成後も割れやすいというどちらかというと陶芸に不向きな特徴を持っているので、一般的な益子焼の多くが厚く成型する事やその他の土を混ぜて成分調整する事でその特徴を補ってきたそうです。

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しかし、二階堂さんは以前まであの薄い錆器を益子の土単味で形作っておられたとの事で驚きました。

現在は粘土屋さんが以前と同じ性質で納品してくれる事が無くなったので、成分調整の為に他の土を添加されている様ですが、それでもベースは益子の土。ましてや粘土屋さんが不安定な土を納品するとなると、その添加自体も毎回調整が必要な訳で安易ではない筈です。

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余談ですが、陶芸談義をしていると磁土と陶土のロクロ技量比較が話題になる事があります。それはつまり両者に粘性の差(磁土の粘性は低い)がある為に生まれる話題なのでしょうが、陶土にも備前(粘性高い)もあれば益子もあってそれぞれに粘性の差があり「陶土なら何でもロクロをひきやすい」という話にはならない訳です。

またその様な素材で薄くひくという事はその形を保持する為のロクロ以外の技術や経験も必要になります。

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ちなみに、焼成前の段階で形を保持する為には、

「厚くひいて薄く削る」

という方法があります。

しかし二階堂さんは、

できるだけ削りは少なくしたい。できるだけロクロの回転でできたラインを大切にしたいから」

という理由でそれをほとんどされません。

一方で実際は薄くひく事で耐え切れずに崩れ落ちるものも出るそうなのですが、それでも厚くひく事をはしないとの事。

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そして薄作りの次の難関は焼成。

いくら焼成前に形を保持できても薄いと焼成時には変形しやすくなる為、熱に弱い益子の土単味であの薄さに焼き上げる事は更に難しさを増すのですが、しかしそこに対しても温度や焼き方を何度も試行し、薄く焼き上げる事に成功されています。

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⇧錆器リム皿 伸びやかなロクロ目には生命感すら感じます。

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「器の本来の姿」を思考した結果、例え扱いにくくてもその土地の土(※伊豆でも益子土は使用)を使う事から逃げずに試行し、また自らが求めるアウトラインにこだわりロクロとの調和をはかりながら削りを極力行わず薄くひき続ける姿勢。

錆器の薄さにその様な背景がある事を知ると、錆器を手に取る時の意識が器を手に取るそれとは異なる心情になるので不思議です。

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⇧錆器ボウル ロクロ目が認められつつも無駄のないアウトラインと薄い口造りが端整な印象を与える。

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【益楽に思う】
実は私が二階堂さんの作品で注目していたシリーズに「益楽」があります。
理由として、「益楽」はその他の器に比べるとはるかに制作数は少ない様なのですが、初めてネットで拝見した時、普通とは違う何かを感じたからです。

ところで、本阿弥光悦が残した名椀に「乙御前」があります。
楽茶碗そして光悦ファンならこの名椀を嫌いと言う人などいないのではないかという程、これまで多くの目利きの先輩から「光悦なら乙御前」と高く評価する声を聞いてきました。

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⇧本阿弥光悦 赤樂茶碗 「乙御前」 重要文化財 江戸時代(十七世紀) 個人蔵   参考  メトロポリターナトーキョー 

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そんな名椀「乙御前」で実は二階堂さんが茶を飲まれた事があるというお話を聞き、二階堂さんの益楽茶碗がなぜ私を強く魅了するのかについて腹落ちした気がしたのです。

無論、センスや技量は前提としても、その先に光悦という本物に触れた経験があるという事実が、益楽制作に大きく影響を与えているのだと。

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⇧二階堂 明弘 「益楽 黒茶碗」 2020年制作

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⇧二階堂 明弘 「益楽 赤茶碗」 2020年制作

抹茶茶碗は約束事の多い器物。
しかし自由な器物でもあるが故に、その両者をバランス良く保つ事は容易ではありません。

ではそのバランス感をどう鍛えるか?
それには「名椀に触れる」という経験が挙げられると考えます。

なぜなら今から約20年前、私が初めて15代楽吉左衛門先生の焼貫茶碗を手に取らせて頂いた時に、その重要性を強く感じたからです。

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⇧15代楽吉左衛門 「焼貫黒樂茶碗 銘 氣昏雨已過 突兀山復出」
参考 佐川美術館
https://www.sagawa-artmuseum.or.jp/plan/raku/collection.html
今でも多くの茶陶作家が15代の焼貫に強い影響を受けている。

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余談ですが、実は15代が焼貫茶碗を発表されて業界を驚かせていた当時、修業に入りたてで眼の利かない私は、歴代楽茶碗とはあまりにも異なるその意匠に違和感を感じ、無意味に拒否感を抱いていました。

それからほどなくして、岡山天満屋主催で行われた岡山国際ホテルでの特招会に家業として出展した際、他業者様の出品ラインナップに15代の焼貫茶碗を発見します。

価格は1千万円超。

初めての現物。
直感でこれが最初で最後の触れられるチャンスと感じた私は、競合他社様の看板作品に触れようとする厚顔無恥さを申し訳なく思いながらも、手に取らせて頂けないかお願いし、いよいよその時を迎えます。

しかし、手に取る瞬間までの心中はやはり興奮や崇敬ではなく、

「なぜこの意匠なのか?」

という冷静な違和感に埋め尽くされていたのですが、そっと両掌に抱き観るとそんな私の思いは一瞬で破壊され、15代から「ようこそ」と寛容に導かれている様な感覚に陥ったのです。

この斬新な意匠からどうしてこれほどまで安らぎを感ずる手取りが生まれ得るのか?

とても否定的な感覚から入ったにもかかわらず、手に取った瞬間にひっくり返されたこの経験から、それまでの違和感に強い恥を感じた一方、いかに触れぬままの鑑賞が鑑賞たり得ないか、という事を抹茶茶碗に関して強く意識付けられた瞬間でもありました。

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⇧上 二階堂 明弘 「益楽 黒茶碗」高台
 下 二階堂 明弘 「益楽 赤茶碗」高台
抹茶茶碗と銘打ったものの中には、高台脇より上部は整っていても、高台脇から畳付きまでが抹茶茶碗としての格を備えていないものが少なくありません。この現象はきっと食器と抹茶茶碗の高台の違いを理解し表現する事の難しさを表しているのだと思いますが、理解という意味では経験的にどれだけ多くの高台を観てきたかが重要に思います。その上で模写でもなく奇をてらう訳でもなく独自性を感じさせる格の備わった高台を生み出す事は至難の業と想像しますが、二階堂さんの高台にはそれを感じます。

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抹茶茶碗は最終的に唇に触れて茶を飲む器であるが為に、二階堂さんが「乙御前」に「触れる」にとどまらず「飲む」という鑑賞行為で得た衝撃は、抹茶茶碗制作者にとって計り知れないものであっただあろうと想像します。

「乙御前で茶を服す」

この得難い経験の下支えから「益楽茶碗」が生まれている事を思うと、ただでさえ普通とは違うと感じていた茶碗が益々力を帯びて観えるのは当然の事で、欲を言えば今後更にどの様な茶碗が生まれて来るのか楽しみでなりません。

―終―


◆二階堂明弘 オンライン個展 
2021年12月1日 21時Start

終了しましたJIBITA初個展では、益楽茶碗を2点御用意頂きました。
黒茶碗は既に旅立ちましが、赤茶碗はオンライン個展に登場しますので、茶陶ファンの皆様はどうぞお楽しみに。

⇩お買い物はこちらから
https://jibita.shop/





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