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◆~やりたい事に素直に~ 玄窯(熊本) 齊藤博之さん インタビュー

こんにちは、のぶちかです!

さて今回は玄窯 齊藤博之さんへのインタビュー記事です。

玄窯さんとの出会いは某陶磁器フェア。

そこで拝見した多岐にわたる作風が目を引き、2019年からお取引をスタートしました。

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また、玄窯さんには2020年10月31日(土)~11月8日(日)の期間でJIBITAでの初個展を行って頂くのですが、その前に先日色々とインタビューをしてきたので記します。

異ジャンルから陶芸への転身のきっかけや御自身にとって未開領域へ挑戦され続ける姿勢が、お聞きしていてとても快活です!

これから陶芸に挑戦してみたいという方や、踏み出したいけど踏み出せないでいるという方にとっては、勇気や刺激を頂けるエピソードが多いのでぜひ読んでみて下さい♪


◆インタビュー(2020年2月21日)

⇩玄窯さんのインスタはこちら⇩

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のぶちか
「陶芸をされる前は何をされてたんですか?」

齊藤
「前職はお花屋さん(熊本)でした。仲卸だったので市場から店舗へ配達したり。その前は東京でイベント関連だったりとか色々やってました」

のぶちか
「東京を離れたきっかけは何かあったんですか?」

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齊藤
「30歳位の時に将来について色々と考えたんです。このまま勤めながらやっていくのか?それとも自分で何かするか悩んでて。
丁度その時、ちょっと人間関係にも悩んでたんでしょうね(笑)。なんか自分1人で物を作って買ってもらって喜んでもらって完結するような仕事が良いなと思って。
そこから作り手に興味を持ちながら、普段の生活をしていました。」

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のぶちか
「陶芸だった理由は何かありますか?」

齊藤
「一番最初はハンス・コパーでした。よく見ていたNHKの「日曜美術館」でルーシーリーとハンスコパー展の特集を見た時、ハンスコパーの作品に触れて『陶芸ってすげぇカッコいい!』と思ったんです。そこからですねぇ、『やってみたい』と思ったのは。」

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のぶちか
「きっかけが海外の作家というのが面白いですね。」

齊藤
「当時は逆に日本の作家を知らなかったし、まだ若かったしちょっと自分の感性に自信があったんです(笑)。今はまだ作れないけどやっていけば良い物が作れる自信があった。ただ実際やり始めて色々な作家さん見てみると、若手でも自分が知らなかっただけで凄い人いっぱ居るなと思って(笑)。(そいう意味で最初は考えが)甘かったです。ただ知らなかったからこそ入れたというのもあると思うんですよね。無知ゆえのって感じですかねぇ(笑)。」

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のぶちか
「でもなんか全然悪い印象というか・・・、ミーハーとも思わないし・・・、萩焼の場合だと世襲がほとんどなので自分の風土にそういうのが流れてるからそっちに向かうのが普通な感じになってますけど、そうじゃない中で陶芸を始めたれたっていうのは凄いと思うし、特に作品を拝見して余計にそう思いますし、面白いきっかけだったし、(陶芸家に)なってくれて良かったなぁ、と。」

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齊藤
「ハハハハハ(笑)。まぁなんと言うかベースというか自分にはよりどころが無い、例えば(師事した)先生がいるとか何々焼というのは(一般的には)原点じゃないですか。だから悩んだ時にそこに戻れるみたいな事がないんですよね。だから常に制作の対象がいるという感じです・・・。色んな人と一緒にやってきて、その人が好きな色を聞いたりとかお話を聞いてその人が大事にしている部分を聞いて、それらを器に込めていくというか。その繰り返しで自分の引き出しを増やしてきました。これからそのスタンスを継続するかは分からないが今はそんなスタンスで制作しています。
よりどころは自分の技術とか知識ではなくて人に置いているところがある。新たな人と出会う都度、新たなものを作ってきましたが、それを作る為に必要な技術をその都度学んだり練習したりしてきました。」

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のぶちか
「技術的に最初に教わったのはどなたでしたか?」

齊藤
「焼き方ですね、灯油窯の。順を追って話すと、陶芸やりたいと思いつつ花屋さんが忙しくてできなくて、そしたら病気になってしまって。そしたら命的にも危ない状況になってICUまで入って。その時が31、2歳だったんですけど、もう退院したら「陶芸やろう!」と思ったんですよね。仕事辞めてでもすぐやろうと思って。このままやらずに死ぬかもしれないっていうのを意識して(笑)。で、すぐに仕事辞めて取り敢えず陶芸体験に行ってからしばらく教室に通ったんですよね。そしたらそこの先生とそりが合わなかったので、ほとんど土練り位しか学ばずやめました。

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そこからヤフオクで2万円の電動ロクロを買って(笑)、実家の2階にブルーシート敷いてやってたんです。その後、電気窯も買って制作していたら大きな花器の注文を頂いたんですけど、それがきっかけで大きい窯が必要となったんです。そこで人づてに当たっていったら、趣味でやってる方が窯を貸してくれる事になって。その時その方が『自分はもう年だから窯を引き継ぎませんか?』というお話を下さったので「やります」という事になって。そこから窯の癖を知る為に半年間位、窯炊きを一緒にやらせてもらって。だから人に教えてもらったのは土練りと焼き方だけですねぇ。」

のぶちか
「陶芸を初められて丸7年経ちます。期間の割には幅の広い制作内容や習熟度を感じますが、この期間でそこに至られたのには何かきっかけがありましたか?」


齊藤

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「やり出して2年目にパリのイベントと関連ギャラリーから出品の話を頂いた時に、全然腕が追いついてなくて。そこで借りていた工房に3か月位引きこもって制作に没頭しました。近くのスーパー銭湯に行って風呂に入ったら2~3時間くらい仮眠して、また工房で制作みたいな生活をして。その時が一番技術が乗った時かと思います。その経験があったから今も朝9時から動いて、昼の陶芸体験が終わったら16時位から夜中12時位まで作業しています。今の時期(2月)は食べると寝る以外はずっと陶芸をやってます。基本的に教わっていないので、制作上分からないところはYouTubeに動画が上がってないか探してみたりするんですが(笑)、そういう生活をしていたらようやく最近作りたい形をある程度自分で作れる様になってるかなと思います。

のぶちか
「素晴らしいですね。やっぱり追い込む時期とか必要に駆られて動くって(自分の力を引き上げるのに)重要ですよね。」

齊藤

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「そうですね(笑)。窯の経営もそうですけど、何かを待った事が無いですね。満を持してやった事が無いんです。全部バタバタしながら『やばいやばいやばい』って言いながら(やってきました笑)。でもいずれそうなるんだったら先にやった方が良いだろうと思って先に追い込んできました。
最初は正社員だった花屋さんを週3日のバイトに切り替えてダブルワークで。もう30歳超えてたんですけど朝10時から5時までバイトして、6時から夜10時までバイトする日を週に3日作って、土日月火の週4日だけを陶芸の時間に充てました。でも最初は売り方も分からないので最初は『教室をやってみよう』と思って生徒さんを集めて始めてみました。

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その後は陶芸教室の売上がいくらになったらバイトをやめる、という感じではなく、妻には反対されましたけど「(安定収入が無くなるのは)やばいけど陶芸で食べていくから(バイトを)もうやめる)」と言ってやめて(笑)。でもそんな中でもバタバタしながらどうにかなったりとか。この工房も一生陶芸をやっていくなら自分の工房を構えないとと思って決して余裕があった訳ではなかったんですけど、本当に先行投資でやってる感じで(笑)。そこに状況を合わせていくしかないという感じで、本当になんとかやってきたという感じで。ただ変化は年々必ず良い方に向かって行っているので、あとはどれだけこなしていけるかという感じです。
ありがたい事に今は陶芸体験が凄くて現状では落ち着いて制作できない状況なんです。これから指導員をまた増やしていければ僕が制作する時間ができるので、じっくり腰を据えて作っていけるかと思っています。

のぶちか
「今後の展望はいかがですか?」

齊藤

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「JIBITAさんもそうですけど、こうやって色々な場所で企画をする事で多くの方の目に触れる機会が増えるので、なんとかこう出て行きたいですよね、アグレッシブに(笑)。今までは陶芸ができて生活できてればいいぐらいの感じでしたけど、今後は自分の窯元としての組織をしっかり安定させて、自分の個人作家みたいなところでどんどん出ていきたいです。やっぱり陶磁器フェアとかも色んな方が出られるし良い刺激にはなるんですけど、ずっと同じフィールドで同じ人達と居ると、なかなか抜け出せなくなるというか・・・。そこから突拍子もない世界には行かないと思っているので、あくまでフェアとかは窯のPRとしての位置付けにして、個人は個人で頑張っていきたいなと思っています。

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あとは、

陶芸を始める前に知り合いのおじさんに陶芸を始めたい気持ちがある事を伝えたら、そのおじさんの知り合いの陶芸家に本当に陶芸ができるか聞いといてやると言われて。そしたら「陶芸やるのにいくらかかるかわかってるのか?」って、まだやり始めても無いのにネガティブな事ばかり言われて結構閉ざされてきたんですよね(笑)。窯を借りたかった時も、公民館にある事を知って相談したんですけど、公民館は陶芸クラブの人が管理して使っているから貸せませんとか…。(陶芸界隈の)そういう閉塞感が嫌で、もうちょっと新規参入というか『陶芸やりたい』と思った時に『こういうルートもある」みたいなのを、自分を実験台にしてやれるんだよという事を証明したい気持ちはあります。」

◆インタビューを終えて

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齊藤さんの印象は現状では陶芸家というよりは経営者なのだろうと。
しかし、なぜ経営者寄りなのかと言えばそれはやはり

「やりたかった陶芸をする為」

だったからです。

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何の後ろ盾も無くただ陶芸をやりたい気持ちだけで前に進み、自分なりに

「陶芸で身を立てていく為にはどうすれば良いか?」

を考え、自分なりの仮説の下に力強く切り開いていく。
そんな姿は同じ経営者として非常にタフさを感じます。

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陶芸をやり続ける為に、陶芸を通じて稼ぐ事(陶芸体験・教室)を考え実践し、その稼ぎをもって自らの陶技を磨く為に投資する。

この循環を生み出す事は、齊藤さんの様に完全なる素人から始められた場合、口で言うほど簡単な事ではない筈です。

「陶芸をやりたい」

という夢を、陶芸を介してのみ達成されている。
そんなところが、個人的には斎藤さんのとても格好良いところだと感じます。

齊藤さんの苦悩

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この度の会期中に齊藤さんがある事を打ち明けてくれました。
それは、

「何を作れば良いか分からない」

というものでした。

ちなみにこれまでのアウトプットの源泉は

「お客様からの依頼」

がほとんどだったとも。
逆を言えば依頼が無ければインプットの機会を失い、それに伴いアウトプットもなされません。

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一方で陶芸教室や体験はどんどん反響が大きくなり、経営としては安定しつつもそちらの業務に追われ、自身の制作時間やインプットの時間を作れないとの悩みも抱えているとの事。

「このままではいけない」という思いとは裏腹に、「自分なりの作品を作るにも何をどうすれば良いか分からない」とまで打ち明けて下さった齊藤さん。

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ならばと、僭越ながらのぶちかも真剣にもの作りに関して日々考えている事をお伝えし、どうしていけば良いか齊藤さんと話し合ったのです。

すると、

まもなく齊藤さんの表情と声色が変わったのを感じました。

「なんか見えた気がする」

齊藤さんはそう言ってくれました。

今後の事

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齊藤さんはその後、

「一度、これまでのアウトプットのあり方を時間を掛けて見直したい。
だから、今回の作品に関する注文に応える事は極力控えたい。」

と申し出てくれました。

もちろんギャラリーとしてはお客様からのオーダーは嬉しい事ですし、お答えできない事に何の得もありません。

しかし、

現代の様にファッションだけでなく工芸の世界にさえコモディティが進んでくると、今後はきっと

「なぜこれを作るのか?」

という問いに対し作り手自身が明確な答えを持っている事は重要だとも考えています。

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その視点からこの度の齊藤さんからの申し出は、まだまだ長い陶芸人生の中でとても重要な事だと捉えていますし、この時間を経た後の齊藤さんの「陶芸家」としてのアウトプットにも期待が持てるものと考えています。

そういう訳で、玄窯さんのアイテムを11月14日からオンライン販売を行いますが、今回掲載分の作品に関する御注文はお受け致しかねますので、何卒御了承の程、お願い致します。

そして皆様にはこれからまた、経営者寄りの齊藤さんからより本格的な「陶芸家」としての齊藤さんの新たな世界(作品)が見られる日を楽しみにお待ち頂ければ幸いです。

もちろんJIBITAも楽しみに待っていますので。

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◆告知 「玄窯 陶展」

会期:2020年10月31日(土)~11月8日(日)
   平日は13時~18時
   土日祝は10時オープン

         オンライン販売
    11月14日13時スタート 


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