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耳をすませば 全セリフ集

ずっとどこかにまとめたいと考えておりました。
ジブリで一番好きな作品。
金ローをVHSに録画して
それこそテープが擦り切れるくらい
繰り返し観た作品。BGMも最高なので是非。


チャプター1

(Take Me Home, Country Roads)

♪ Country roads. take me home

♪ To the place I belong

♪ West Virginia. Mountain Mamma

♪ Take me home. country road


♪ Almost Heaven. West Virginia

♪ Blue Ridge Mountains. Shenandoe River

♪ Life is older. older than the trees

♪ Younger than the mountain

♪ Growing like a breeze

♪ Country roads. take me home

♪ To the place I belong

♪ West Virginia. Mountain Mamma

♪ Take me home. country road


♪ All the memories gather round her

♪ Mine is lady. stranger to blue water

♪ Dark and dusty. painted on the sky

♪ Misty taste the moonshine

♪ Teardrops in my eye

♪ Country roads. take me home

♪ To the place I belong

♪ West Virginia. Mountain Mamma

♪ Take me home. country road


雫「こんばんは。」

近所のおばさん1「暑いわね。」

雫「ただいま。」

お母さん「ありがと。」

お母さん「またビニール袋? 牛乳1本なのに。」

雫「だって、くれるんだもの。」

お母さん「断ればいいじゃない。あっ、私にもちょうだい。」

雫「お父さんは? 麦茶。」

お父さん「うん、もらう。今そっち行く。」

お母さん「ありがと。ワープロあいた?」

お父さん「今、プリントアウト中だよ。」

お母さん「やっぱり、ノートワープロ買おうかしら。はーっ、タバコくさい。」

お父さん「雫も柏崎へ行けばよかったのに。」

雫「いい。お姉ちゃんとだと疲れる。」

お父さん「そうだ。明日、出勤だった。」

お母さん「えーっ、お弁当?」

お父さん「いいよ。外食にする。」

お父さん「わが図書館もついにバーコード化するんだよ。準備に大騒ぎさ。」

雫「やっぱり変えちゃうの。私、カードの方が好き。」

お父さん「僕もそうだけどね。」

お母さん「ねえ、この文章おかしいわよ。」

お父さん「えっ、どこ?」

お母さん「1行抜けてんのかしら、ここ。」

お父さん「あっそうだ。いけね。」

お母さん「ああ、先貸して。急いでこれまとめなきゃ。教授うるさいんだから。」

雫「この人…」

お父さん「雫、本もいいけど適当に寝なさい。」

雫「うん、おやすみなさい。」

雫「やっぱり… 見覚えある名前だと思った。これにも…」

雫「すごい、この人。みんな私より先に借りてる。」

雫「天沢聖司… どんな人だろう。ステキな人かしら…」

お母さん「雫! いいかげんに起きなさい。私、出かけるよ。」

お母さん「なにあなた、そのまま寝てたの? お米、といどいてよ。」

雫「いってらっしゃーい。」

雫「あっ、もうこんな時間! 夕子と会うんだ!」

お母さん「お財布。」

雫「なに、また下まで降りちゃったの?」

お母さん「そう。おかしいなあ。」

雫「電話のとこは?」

お母さん「あった!」

雫「自分で置いたくせに。」

お母さん「ヒャー、遅刻する。戸締りしてよ。」

雫「そこつ。」

雫「ああっ。わあ、随分低い。今日はいいことありそう。」

雫「あーっ、暑い。」

犬「(ワン、ワン、ワン。)」

雫「ヤッホー。元気だね。」

野球少年「ほら、かっとばせ!」

テニス少女「オーイ、雫!」


チャプター2

雫「ヤッホー。がんばってね!」

雫「高坂先生います?」

高坂先生「あれ、月島じゃん。どうした?」

雫「先生、お願い聞いてくれます?」

高坂先生「なーに? 変なことじゃないだろうね。」

雫「図書室あけて下さい。」

高坂先生「図書室? 次の開放日まで待てないの?」

雫「みんな読んじゃったんです。市立図書館は今日、休みだし。」

雫「私、休み中に20冊読むって決めたんです。」

高坂先生「20冊!? 月島は仮にも受験生なんだよ。ほれ、早くしな。」

雫「えーと… あった!」

高坂先生「早く持っといで。ほれほれ、読書カードと貸出しカードを出す、出す。」

雫「お願いしまーす。」

高坂先生「いやあ、何これ。今まで1人も借りてないじゃん。」

雫「貴重な本なんですよ。市立図書館にもないんだから。」

雫「天澤(あまさわ)…」

雫「先生! この天沢って人、どんな人か知ってます?」

高坂先生「あーっ、失敗しちゃったじゃないか。」

高坂先生「寄贈した人だろう。そんな古いこと分からないよ。」

高坂先生「ベテランの先生に聞いてみな。」

夕子「雫! あーもう、こんな所にいた!」

夕子「11時に昇降口って言ったくせに。15分も太陽の下にいさせて。」

夕子「またソバカスが増えちゃうじゃない!」

雫「ごっ、ごめん。」

高坂先生「こらこら、騒ぐな。原田は気にしすぎなんだよ、ソバカス。」

夕子「先生! 私、真剣に悩んでいるんです。」

高坂先生「ああ、分かった、分かった。ほれ2人とも出た、出た。」

サッカー少年「あがれ、あがれ!」

雫「一応やってみたけど、うまくいかないよ。」

雫「やっぱり英語のまんまでやったら?」

夕子「♪白い雲 湧く丘を」

夕子「♪まいてのぼる 坂の町」

夕子「♪古い部屋 小さな窓」

夕子「♪帰り待つ 老いた犬」

雫・夕子「♪カントリーロード はるかなる」

雫・夕子「♪故郷へ つづく道」

雫・夕子「♪ウェストジーニア 母なる山」

雫・夕子「♪懐かしい わが町」

夕子「悪くないよ。」

雫「だめだ。ありきたり…」

夕子「そうかなあ。」

雫「こんなのも作った。」

夕子「♪コンクリートロード どこまでも」

夕子「♪森を切り 谷を埋め」

雫・夕子「♪ウエスト東京 マウント多摩」

雫・夕子「♪故郷は コンクリートロード」

夕子「アハハハ、何これ!」

雫「で、なによ相談って? 訳詞は、まだいいんでしょう?」

夕子「うん。雫、好きな人いる?」

雫「えっ?」

夕子「両想いの人がいたらいいなって思うよね。」

夕子「受験だし、励まし合ってがんばれたらって。」

雫「夕子、好きな人いるんだ。ラブレター、もらったの!?」

夕子「シッ! やだ。」

雫「いつ? どんな人? カッコイイ?」

夕子「他のクラスの子。少しカッコよかった。」

雫「付き合ってみたら? それでいやなら断る。」

夕子「でも…」

雫「さては、他に好きな人いるでしょう。」

夕子「え…」

雫「かくしてもだめ! ほーれ、白状しちゃえ。」

夕子「えっあっ、す…、す…。」

杉村「月島!」

杉村「俺のバッグ取ってくれる?」

雫「杉村!」

杉村「ねー、そこの青いスポーツバッグ。」

杉村「頼むよ、月島! それ投げて。」

雫「うるさいなあ、もう! 万年タマひろい!」

杉村「ひでえなあ。レギュラーで3回戦突破したんだぞ!」

雫「夕子!?」

杉村「わあっ!」

雫「杉村だったのかあ、夕子の好きな人って…」

夕子「どうしよう。分かっちゃったかもしれない。私、あんな…」

雫「大丈夫だって。あいつニブいから。」

雫「でもどうするの。ラブレターの方は。」

夕子「うん… もう少し一人で考えてみる。」

雫「そっか。」

夕子「いいなあ。雫ん家は、勉強、勉強って言わなくて。」

雫「あんまり言われないのも、つらい時あるよ。」

夕子「そうかなあ。」

雫「あっ、いっけない!」

夕子「どうしたの?」

雫「本忘れてきちゃった。私帰るね。」

夕子「乗っけてこうか?」

雫「いい。夕子、塾おくれるよ。」

夕子「また電話するね。」

雫「うん。」

雫「あ…」


チャプター3

雫「ああっ。そっその本。」

聖司「ああ… これ、あんたのか。ほらよ、月島雫。」

雫「名前、どうして?」

聖司「さて、どうしてでしょう?」

雫「あっ、図書カード。」

聖司「お前さ、コンクリートロードは、やめた方がいいと思うよ。」

雫「読んだなーっ!」

雫「やな奴、やな奴、やな奴! やな奴、やな奴、やな奴!」

雫「やな奴!」

雫「“コンクリートロードは、やめた方がいいぜ” なによ!」

お姉ちゃん「ただいま。ああ。」

雫「お姉ちゃん! 今日だったの。」

お姉ちゃん「あーっ、疲れた。」

お姉ちゃん「ちょうどこっちへ車で帰る人がいたんで、乗せてもらっちゃった。」

お姉ちゃん「お母さんは?」

雫「夏期集中講座だって。お父さんは出勤。」

お姉ちゃん「雫、少しはかたづけな。晩ごはんのしたくは?」

雫「お米、といどくの。」

お姉ちゃん「なあにこれ、雫! ちらかしっぱなしじゃない!」

雫「今やるとこ。」

お姉ちゃん「お母さん大変だから応援しようって、決めたでしょう?」

お姉ちゃん「お米といだら洗濯物しまって。シャワー浴びたら、私がごはん作るから。」

お姉ちゃん「おばさんが、高校生になったら雫も来いって。」

雫「うん。」

お姉ちゃん「勉強、進んだ?」

雫「うん。」

お姉ちゃん「うちの親は何も構わないからって、安心してるとヒドイことになるからね。」

雫「してるよ!」

お父さんたち「ハハハハ」

お姉ちゃん「でね、おしょうゆまで持たせようとするのよ。」

お母さん「おばさんらしいわね。」

お母さん「確か、去年もそんなことあったじゃない。」

お姉ちゃん「そう、おミソ持たされてさ。重かったよ。忘れないわ。」

お母さん「2キロぐらいあったわよねえ。」

雫「ううーん。」

お姉ちゃん「雫、いいかげんに起きな。自分のとこ掃除機かけなさい。」

お姉ちゃん「シーツ洗うから出して。フトンも干すのよ。」

雫「うーん… お母さんは?」

お姉ちゃん「とっくに行った。」

お姉ちゃん「さっさと片付けて、そのお弁当、お父さんに届けてあげて。」

雫「えーっ。」

お姉ちゃん「なによ、その声。図書館に行くんでしょ。」

お姉ちゃん「かわりに私が行こうか?」

お姉ちゃん「雫がトイレと風呂場に玄関掃除して、生協に行ってくれるのよね。」

お姉ちゃん「フトンを取り込んで、買い物をして、晩ごはんのしたくするのよ。」

雫「いってきまーす。」

お姉ちゃん「雫! これポストに出しといて!」

雫「なあに?」

お姉ちゃん「ポ・ス・ト!」

雫「ああっ、ああっ。あ…」

お姉ちゃん「見なくていいの! クリップごと出すんじゃないよ。」

雫「彼氏?」

お姉ちゃん「バカ!」

車内放送「えー次は、杉の宮、杉の宮。お出口は同じく左側です。」

雫「ネコ君、ひとり?」

雫「どこまで行くの?」

雫「外、おもしろい?」

雫「オーイ、答えてよ。」


チャプター4

雫「私ここで降りるの。君は?」

雫「じゃあね。ネコ君。」

雫「あーっ。」

少年1「あっ。」

少年2「あーっ、ネコ!」

雫「図書館の方へ行く!」

雫「あーあ、せっかく物語が始まりそうだったのに…」

雫「いたーっ!」

雫「あっ、ああっ。」

雫「すごい坂… どこまで上るのかしら…」

雫「ハァ、ハァ、ハァ… あっ!」

雫「ネコくーん。ネコくーん。」

雫「このあたりに住んでいるのかしら…」

雫「キャッ!」

雫「ネコくーん、どこ行くの? この辺に住んでるの? あっ。」

雫「丘の上にこんな所があるなんて、知らなかった。」

犬「(ワン、ワン、ワン。ワン、ワン、ワン…)」

雫「あー、性悪。犬をからかってまわってるんだ。」

雫「うーん、私のことをからかっているのかも。」


チャプター5

雫「こんなお店が丘の上にあるなんて、知らなかった。」

雫「ステキな人形… あなたは、さっきのネコ君? ハッ!」

西「やあ、いらっしゃい。」

雫「あ、あの…」

西「あ、いやそのまま、そのまま。」

西「自由に見てやって下さい。男爵も退屈してるから…」

雫「男爵って、このお人形の名前ですか?」

西「そう。フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵。すごい名でしょう。」

西「あー、すまん。ありがとう、もう大丈夫だ。」

雫「立派な時計ですね。」

西「あるお城で眠ってたんだよ。すっかりさびついていたんだ。ごらん。」

雫「あーっ、きれい。これ、何ですか?」

西「フフフ… できあがってのお楽しみ。」

雫「わあ。よくできてる! ドワーフですね。」

西「よくご存知だ。そうか、お嬢さんはドワーフを知ってる人なんだね。」

西「文字盤を見てごらんなさい。うまくいくかな?」

雫「エルフ!」

西「ガラスが光るね。ここへ来なさい。」

雫「はい。王女さま?」

西「そうだね。」

雫「二人は愛し合ってるの?」

西「うん。しかし住む世界が違うんだ。彼はドワーフの王だからね。」

西「12時の鐘を打つ間だけ、彼女は羊から、もとの世界へ戻れるんだよ。」

西「それでも彼は時を刻むごとにああして現れて、王女を待ち続けるんだ。」

西「きっとこの時計を作った職人が、とどかぬ恋をしていたんだよ。」

雫「それで二人とも、なんだか悲しそうなのね。」

雫「あーっ!この時計、すすんでますよね。」

西「うん、でも5分ぐらいかな。」

雫「たいへん!」

西「おおっ。」

雫「私、図書館に行かなきゃ。さよなら。」

雫「おじいさん、また来ていいですか?」

西「ああ。図書館なら左、行った方がいいよ。」

雫「きゃあ。」


チャプター6

雫「わあ、図書館の真上。」

雫「フフフ… いいとこ見つけちゃった。物語に出てくるお店みたい。ステキ!」

聖司「月島。月島雫!」

聖司「これ、お前んだろう?」

雫「えっ? ああっ!」

聖司「忘れっぽいんだな。」

雫「ありがとう。でも、どうして…」

聖司「さて、どうしてでしょう。」

雫「ネコ! そのネコ、君の?」

聖司「お前の弁当、ずいぶんでかいのな。」

雫「え… 違う!」

聖司「♪コンクリートロード どこまでも…」

雫「違うのー。コラーッ!」

お父さん「あれ、来てくれたのか?」

お父さん「どうしたんだ? こわい顔して。」

雫「ちょっと説明しようがないの。」

お父さん「ほう…」

雫「とてもいいことがあって、洞窟で宝物みつけた感じだったの。」

雫「それが心ない一言で生き埋めになった気分。」

お父さん「ハハ… それは複雑だ。今日も借りていくかい?」

雫「うん、あと7冊は読まなきゃ。」

お父さん「相変わらずだね。メシどうする?」

雫「売店で済ます。」

お父さん「そうか。じゃ、ありがとう。」

雫「6月16日、すごい… 天沢って人、この本も読んじゃってる。」

雫「どんな人なんだろう。」

雫「違う。お前なんかじゃない!」

お母さん「雫、早くしな!」

お母さん「うわー、遅刻! カサ、ガサとって!」

お母さん「新学期なのに雨ばっかりね。」

雫「文句、言わない。あなたは好きで、勉強しているんでしょう!」

お母さん「はーい。」

雫「しっかり勉強しなさい。」

お母さん「まかしといて!」

夕子「雫!」

雫「ヤッホー。」

夕子「早く、遅れるよ。いやねえ、テストばっかりで。」

雫「毎日なんかかんかあるね。あれ返事した?」

夕子「ううん。」

雫「何も言ってこない?」

夕子「うん。私、やっぱり断る。」

雫「そっか。うん、その方がいいかもね…」

雫「杉村!」

杉村「ギリギリだぞーっ。」

雫「分かってる!」

先生1「はい終わり。集めて。」

先生1「午後は通常だからな。」

生徒1「こっち来いよ。飯食うぞ!」

生徒2「今行くよ。」

夕子「雫、高坂先生のとこ行こ。」

雫「うん、その前に職員室よっていい?」

夕子「いいよ。」

杉村「月島。聞いて、聞いて!」

雫「なによ。」

杉村「ばーっちしヤマ当たり、すっげえの。」

雫「この幸せもの。」

杉村「休み時間に見た所が、そのままドンピシャだぜ!」

雫「ただの野球バカじゃなかったんだ。」

雫「ヤマ張りなら夕子、得意だよね。今度、一緒に勉強したら?」

杉村「原田が!?」

男子「杉村、杉村。」

杉村「なんだよ?」

男子「これ見たか。」

夕子「行こう、雫。」

雫「わっ」

夕子「ムリヤリくっつけようとしないで!」

雫「分かった?」

夕子「私、ヤマなんか当たったことないもの。」

雫「ごめーん。」


チャプター7

雫「失礼します。」

先生2「本の寄贈者?僕に分かるかなあ。」

雫「すみません、お食事中に。この蔵書印なんです。」

先生2「ん?えーっと… ほう、天沢さんじゃないか。」

先生2「これ僕も読んだよ。いい本でしょう?」

雫「はい、とても。」

雫「それでこの天沢さんという方は、どんな人なんですか?」

先生2「何年か前に、確かPTAの会長をされていた方だよ。」

雫「PTAの… あの、その方の名前は分かります?」

先生2「名前… えーと。木村先生。」

先生2「天沢さんはなんていいましたっけねえ。天沢医院の、ほら…」

木村先生「天沢さん? たしか航一ですよ。天沢航一。」

雫「天沢航一…」

木村先生「月島、同じ学年に天沢さんとこの末っ子がいるじゃないか。知らないのか?」

雫「ええっ!? あっ、あの… ありがとうございました!」

夕子「失礼します!」

先生3「わっ!」

雫「あっ、すみません!」

夕子「雫! どこ行くの。」

雫「ハアー、ハアーッ、ああ、おどろいた。」

夕子「おどろいたのはこっちよ。ちゃんと説明してもらいますからね。」

雫「あ、ごめーん。」

夕子「雫、どっち行くのよ?」

雫「なによ。完璧に無視してくれちゃって!」

夕子「雫、誰あいつ? どこへ行く気?」

雫「アイツやな奴なの。逃げるのやじゃない。」

絹・メガネ女子「アハハハ… カァワィー。」

夕子「私、雫のお弁当、持って走り回ってたのよ。」

高坂先生「月島に男がねえ…」

絹「先生、雫にもようやく春が来たんですね。」

雫「違うって言ってるのに!」

絹「本当は本の王子さまに会ったんでしょ。」

メガネ女子「ハンサム?」

雫「だからどんな人かと思っただけ。」

絹「ねえ、夕子はその人の名前知ってんでしょ。教えなよ。」

雫「夕子!」

夕子「それが、とっさのことでさ。」

夕子「“マ”がついてたんだけど、マサキだっけ。アマ… ねえ雫。」

雫「さあね。」

高坂先生「でもさ、話を最後まで聞かずに、飛び出してくるなんて、月島らしいね。」

絹「知りたいけど知りたくないのよね。揺れる心が苦しくてうれしい。」

メガネ女子「まあ、ロマンチックですこと。」

雫「そうやって、からかってればいいでしょ。」

雫「せっかくカントリーロードの詩、書いてきたのに。」

夕子「できたの?」

絹「見せて、見せて。」

夕子「雫さま、大詩人さま。もう、しませんのでお見せ下さい。」

雫「よろしい。本当は自信ないんだ。」

雫「故郷って何か、やっぱり分からないから、正直に自分の気持ちで書いたの。」

絹「カゲキねー、これ。」

夕子「♪カントリーロード」

夕子・絹・メガネ女子「♪この道 ずっとゆけば」

夕子・絹・メガネ女子「♪あの街に つづいてる」

夕子・絹・メガネ女子「♪気がする カントリーロード」

夕子「雫、いいよ。私好き。」

雫「歌いにくくない?」

絹「なんとかなるんじゃない。」

夕子「後輩にあげるだけじゃつまらない。私達も謝恩会で歌おうよ。」

雫「ええっ。謝恩会!?」

メガネ女子「気が早い。」

絹「ここ、いいな。“一人で生きると 何も持たず町を飛び出した さみしさ押し込めて 強い自分を守っていた。”」

高坂先生「諸君、予鈴だよ。」

雫・夕子・絹・メガネ女子「はーい。」

雫「あーっ、晴れた、晴れた。」

夕子「雫! コーラス部に、ちょっとよってかない? あの詩、見せるの。」

雫「いい。図書館に行かなきゃ。」

夕子「ええっ、明日もテストあるよ。」

雫「図書館でやるもん。」

夕子「好きねえ。」

雫「じゃあね。」

夕子「バイバーイ。」


チャプター8

杉村「原田。あのさ、悪いんだけどちょっといいかな。」

夕子「うん。」

雫「やっぱりお休み… お花に水は、やってあるのかな。」

雫「男爵がいないわ。買われちゃったのかしら。」

雫「西司朗。あいつも西っていうのかな…」

雫「は、はっ…」

お姉ちゃん「雫。雫!」

お姉ちゃん「夕子ちゃんから電話!」

お母さん「耳悪くなるよ、雫。」

雫「夕子? えっ何? 聞こえない。」

雫「うん。今すぐ行くから。うん。じゃ切るよ。」

お母さん「どこ行くの?」

雫「すぐそこ。」

雫「どうしたの。夕子。」

夕子「雫…」

雫「どうしたのよ。あっ、何その顔!?」

夕子「雫、どうしよう。」

夕子「杉村が友達に頼まれて、あの手紙の返事くれって。ウウッ…」

雫「ええっ、あちゃー…」

夕子「なんで杉村がそんなこというのよ!」

杉村「おい…」

雫「あいつニブいからなあ…」

雫「でもさ、杉村だって夕子の気持ち、知ってるわけじゃないし…」

夕子「杉村には謝る。」

夕子「でもこんな顔じゃ学校、行けないから、明日は休むね。」

雫「テストも?」

夕子「うん。」

雫「そっか…」

雫「(バ~カ)」

杉村「(なんだよ)」

メガネ女子「うまくいったらしいよ。」

絹「あっ、雫、今日も図書館?」

雫「夕子のとこ行ってみる。」

絹「あっそうか。よろしくね。」

雫「うん! バイバイ。」

絹「バイバーイ。」

杉村「月島!」

杉村「待てよ。原田のことなんだけど…」

杉村「そしたらさ原田の奴、急に泣き出して…」

杉村「なあ俺、何か悪いこと言ったかな。」

雫「杉村さ、夕子はあんたがどうして、そんなこと言うのって言ったんでしょう。」

杉村「うん。だから野球部の友達に頼まれたって。」

雫「違う! それって、杉村にはそんなこと、言われたくないってことよ。」

雫「この意味、分かるでしょう。」

杉村「分かんないよ! はっきり言ってよ!」

雫「もう、本当ににぶいわね。夕子はね、あんたのことが好きなのよ!」

杉村「えっ!? そんな俺、困るよ!」

雫「困るって、かわいそうなのは夕子よ。ショック受けて休んじゃったんだから。」

杉村「だ… だって俺… 俺、お前が好きなんだ。」

雫「えっ…!? や、やだ… こんな時、冗談言わないで。」

杉村「冗談じゃないよ。ずっと前から、お前のことが好きだったんだ。」

雫「だめだよ私は… だってそんな。」

杉村「俺のことキライか? つきあってる奴がいるのか?」

雫「つきあってる人なんかいないよ。」

雫「でも… ごめん!」

杉村「待てよっ! 月島、はっきり言え。」

雫「だって、ずっと友達だったから。杉村のこと好きだけど、好きとかそういうんじゃ…」

雫「ごめん、うまく言えない…」

杉村「ただの友達か? これからもか? そうか…」


チャプター9

犬「(ワン、ワン、ワン。)」

雫「ふーっ、バカ! ニブいのは自分じゃないか!」

近所のおばさん2「月島さん、ちょっと待って。お届け物あずかってるの。」

お母さん「あっ、いつもすみません。」

近所のおばさん2「悪いわね。いつも、もらっちゃって。」

お母さん「いいのよ。うちじゃ食べきれないから。」

お母さん「帰ってたの。雫?」

雫「ヤッホー。君も閉め出されたの?」

雫「君はこのうちで飼われているの? お腹へってない?」

雫「君もかわいくないね。私そっくり。」

雫「どうして変わっちゃうんだろうね…」

雫「私だって前は、ずーっと素直で、優しい子だったのに。」

雫「本を読んでもね、この頃、前みたいにワクワクしないんだ。」

雫「こんな風にさ、うまくいきっこないって、心の中で、すぐ誰かが言うんだよね。」

雫「かわいくないよね。」

聖司「へえ、月島かあ…」

雫「あっ!」

聖司「よくムーンが触らせたな。おいムーン、よってかないのか。」

雫「あのネコ、ムーンっていうの?」

聖司「ああ、満月みたいだろ。だからムーンって俺は呼んでるけどね。」

犬「(ワン、ワン、ワン…)」


チャプター10

雫「ムーンは君んちのネコじゃないの?」

聖司「あいつをひきとめるのはムリだよ。」

聖司「よその家で、お玉って呼ばれてるのを、見たことあるんだ。」

聖司「他にもきっと名前があるよ。」

雫「ふーん、渡り歩いてるんだ。」

雫「そうか! ムーンは電車で通勤しているのね。」

聖司「電車?」

雫「そうなの。ひとりで電車に乗ってたの。それで後をつけたら、ここへ来てしまったの。」

雫「そしたらステキなお店があるでしょう。物語の中みたいでドキドキしちゃった。」

雫「悪いこと言っちゃったな。ムーンにお前かわいくないねって、言っちゃった。」

雫「私そっくりだって…」

聖司「ムーンがお前と? 全然、似てないよ!」

聖司「あいつはもう半分、化け猫だよ。」

聖司「おまえ。」

雫「あの。」

雫「おじいさん元気? ずーっとお店、お休みだから元気かなって。」

聖司「ピンピンしてるよ。この店変な店だから、開いてる方が少ないんだ。」

雫「そうなの、よかった。」

雫「窓からのぞいたら男爵が見えないんで、売れちゃったのかなって…」

聖司「ああ、あのネコの人形か。見る? 来いよ。」

聖司「ドア閉めて。」

雫「わあ… 空に浮いてるみたい…」

聖司「高所恐怖症?」

雫「ううん、高い所好き。ステキ…」

聖司「この瞬間が一番きれいに見えるんだよ。こっち。」

聖司「ちょうどいいや。そこに座って。」

雫「時計がない!」

聖司「ああ、そこにあったやつ? 今日、届けに行ったんだ。ここへ来いよ。」

雫「売れちゃったの。」

聖司「もともと修理の仕事だもん。」

雫「そっか、もう一度、見たかったなあ。」

聖司「3年がかりでさ。月島が弁当、忘れた日にできたんだよ。」

雫「あっ! あのお弁当…」

聖司「分かってるよ。お前のじゃないことぐらい。」

聖司「ここへ来て、ネコの眼ん中を見てみな。」

聖司「早くしろよ。光がなくなるぜ。」

雫「わあ!」

聖司「エンゲルスツィーマー、天使の部屋っていうんだ。」

聖司「布張りの時に、職人が偶然つけた傷で、できるんだって。」

雫「きれいね…」

聖司「男爵はなくならないよ。おじいちゃんの宝物だもん。」

雫「宝物?」

聖司「何か思い出があるみたいなんだ。言わないけどね。」

聖司「好きなだけ見てていいよ。俺、下にいるから。」

聖司「電気そこね。つけたかったらつけて。」

雫「ふしぎね。あなたのこと、ずーっとセンから、知っていたような気がするの。」

雫「時々、会いたくてたまらなくなるわ。」

雫「今日はなんだか、とても悲しそう…」


チャプター11

聖司「ああ… もういいの?」

雫「うん。ありがとう。」

雫「ねっ、それもしかして、バイオリン作ってるの?」

聖司「あ… ああ。」

雫「見ていい?」

聖司「うん。こうなるんだよ。」

雫「わあ! これ全部、自分で作ったの!? 手で?」

聖司「あたりまえだよ。」

雫「信じらんない。」

聖司「バイオリンは300年前に、形が完成しているんだ。」

聖司「あとは職人の腕で、音の、よしあしが決まるんだよ。」

雫「あれも全部、作ったの?」

聖司「まさか。ここでバイオリン作りの教室も、やっているからさ。」

雫「でも、あなたのもあるんでしょう。」

聖司「うん…」

雫「ねえどれ? どれ?」

聖司「あれ。」

雫「わあ、これ?」

雫「すごいなあ。よくこんなの作れるね。まるで魔法みたい。」

聖司「お前なあ、よくそういうはずかしいこと、平気で言えるよな。」

雫「あら、いいじゃない。本当にそう思ったんだから。」

聖司「そのくらいのもの誰でも作れるよ。まだ全然だめさ。」

雫「ねえ、バイオリン弾けるんでしょ。」

聖司「まあね。」

雫「お願い! 聴かせて。ちょっとでいいから。」

聖司「あのなあ。」

雫「お願い、お願い、お願ーい!」

聖司「よーし! そのかわりお前、歌えよ!」

雫「えっ!? だっ、だめよ私、オンチだもん。」

聖司「ちょうどいいじゃんか。」

聖司「歌えよ。知ってる曲だからさ。」


チャプター12

雫「♪ひとりぼっち おそれずに」

雫「♪生きようと 夢みてた」

雫「♪さみしさ 押し込めて」

雫「♪強い自分を守っていこ」

雫「♪カントリーロード この道」

雫「♪ずっとゆけば」

雫「♪あの街に つづいてる気がする」

雫「♪カントリーロード」

雫「♪どんなさみしい時だって」

雫「♪決して 涙はみせないで」

雫「♪心なしか 歩調が速くなっていく」

雫「♪思い出 消すため」

雫「♪カントリーロード この道」

雫「♪故郷へつづいても」

雫「♪僕は 行かないさ」

雫「♪行けない カントリーロード」

雫「♪カントリーロード 明日は」

雫「♪いつもの僕さ」

雫「♪帰りたい 帰れない」

雫「♪さよなら カントリーロード」

雫たち「アハハハ…」

西「愉快、愉快。」


チャプター13

雫「月島雫です。この間は、ありがとうございました。」

西「いや、お嬢さんには、また会いたいなあと思ってました。」

西「この二人は僕の音楽仲間です。」

南「ナイスボーカル! 例の時計が完成した時にいあわせた、幸運な方ですな。」

北「聖司君に、こんなかわいい、友達がいたとはねえ。」

雫「ええっ、聖司!?」

雫「あなた、もしかして天沢聖司?」

聖司「ああ。あれっ? 言ってなかったっけ。俺の名前。」

雫「言ってなーい! だって表に西って出てた。」

聖司「あれは、おじいちゃんの名前だよ。俺は天沢。」

雫「ひどい。不意討ちだわ。洞窟の生き埋めよ。」

雫「空が落ちてきたみたい。」

聖司「なにバカなこと言ってんだよ。名前なんて、どうだっていいじゃないか。」

雫「よくなーい! 自分はフルネームで、呼び捨てにしておいて!」

聖司「お前が聞かないからいけないんだろ。」

雫「聞く暇なんか、なかったじゃない。」

雫「ああ、天沢聖司って私てっきり…」

聖司「なんだよ。」

雫「優しい、静かな人だと思ってたの!」

聖司「お前なあ、本の読みすぎだよ。」

雫「自分だって、いっぱい読んでるじゃない。」

西たち「ハハハハ…」

雫「ほんとに楽しかった。みんないい人達ね。」

聖司「また来いよ。じいちゃん達、喜ぶから。」

雫「聴くだけならなあ。歌うのはつらいよ。」

雫「でも天沢君、バイオリン上手だね。そっちへ進むの?」

聖司「俺くらいの奴は、たくさんいるよ。」

聖司「それより、俺さ、バイオリン作りになりたいんだ。」

雫「そうかあ。もうあんなに上手だもんね。」

聖司「イタリアのクレモーナに、バイオリン製作学校があるんだよ。」

聖司「中学を出たら、そこへ行きたいんだ。」

雫「高校、行かないの?」

聖司「家中が大反対。だからまだ、どうなるか分からないけど。」

聖司「おじいちゃんだけが、味方してくれてるんだ。」

雫「すごいね。もう進路を決めてるなんて。」

雫「私なんか全然、見当もつかない。」

雫「毎日なんとなく過ぎちゃうだけ。」

聖司「俺だって、まだ行けるって、決まっちゃいないんだぜ。」

聖司「毎日、親とケンカだもん。」

聖司「行けたとしても、本当に才能があるかどうか、やってみないと分からないもんな。」

聖司「送ってかなくていいの?」

雫「うん、もうそこだから。じゃあね。」

聖司「あ… 月島!」

雫「ん? なに。」

聖司「お前さ、詩の才能あるよ。」

聖司「さっき歌ったのもいいけど。俺、コンクリートロードの方も好きだぜ。」

雫「なによ、この前はやめろって言ったくせに。」

聖司「俺、そんなこと言ったっけ?」

雫「言った!」

聖司「そうかあ?」

雫「今日はありがとう。さよなら。」

お姉ちゃん「雫、スタンドちゃんと消しな。昨日、つけっぱなしだったよ。」

雫「お姉ちゃん、進路っていつ決めた?」

お姉ちゃん「えっ?」

雫「進路!」

お姉ちゃん「あんた、杉の宮、受けるんでしょう?」

雫「そうじゃなくって。」

お姉ちゃん「それを探すために大学へ行ってるの。」

雫「ふーん。」

お姉ちゃん「おやすみ。」

雫「おやすみ。」


チャプター14

雫「ハァ、ハァ、ハァ。」

雫「お母さんってば、自分が休講だからって、起きないんだから!」

雫「ハァ、ハァ、ハァ。」

杉村「おはよう!」

雫「おはよう。」

杉村「もっと、早く走れ!」

雫「先、行っていい。」

雫「はぁーっ、助かった…」

夕子「雫、雫! ひどい顔ねえ。」

雫「そういう、あなたは立ち直り早いわね。」

夕子「ゆうべ、よそのクラスの男の子と、歩いてたって?」

雫「ええっ、誰がそんなこと言ったの?」

夕子「ウワサよ。恋人同士みたいだったって。」

雫「そんなんじゃないよ。」

杉村「原田、あのことだけど俺の方から断っとく。ごめんな。」

夕子「ううん。私こそごめんね。」

杉村「いいよ。」

メガネ男子「おい。ゆうべのサスケ見たか。すげえんだ。俺、感動した。」

数学の先生「この公式は中間に出すからね! よく覚えておきなさい!」

クラスの生徒たち「ええーっ!」

数学の先生「終わります。」

聖司「あのさ、月島いるかな。」

3年5組男子「天沢じゃん。何?」

聖司「月島って、このクラスだろ。」

3年5組男子「月島? ああいるよ。」

3年5組男子「オーイ、月島。面会だぞ。オトコの。」

3年5組男子「ほら、あそこだよ。」

雫「聖司君。」

聖司「月島、ちょっといいかな。」

雫「はっ、はい。」

3年5組の連中「わーい、月島に男がいたぞーっ。」

3年5組の連中「オトコ! オトコ!」

雫「違う! そんなんじゃないわよ!」

雫「何、いったい?」

聖司「行けるようになったんだ。イタリアへ。」

雫「えっ…」

雫「あっち行こ。」


チャプター15

聖司「どこへ行くんだよ。」

雫「屋上!」

雫「あーっ。」

聖司「すげえなあ…」

雫「だって… あんなに、たくさん人がいる所で、呼び出すんだもん…」

聖司「悪い、いちばん先に、雫に教えたかったんだ。」

雫「誤解されるぐらいかまわないけど…」

聖司「おやじが、やっと折れたんだよ。ただし条件つきだけどね。」

雫「えっ、なあに?」

聖司「じいちゃんの友達が紹介してくれた、アトリエで、2ヶ月見習いをやるんだよ。」

雫「見習い?」

聖司「その親方はとっても厳しい人なんで、見込みがあるかどうか、見てくれるって。」

聖司「それに俺自身がガマンできるかどうかも、分かるだろうってさ。」

聖司「だめだったら、おとなしく進学しろっていうんだ。」

聖司「俺、そういうの好きじゃないよ。逃げ道、作っとくみたいで。」

聖司「でもチャンスだから行ってくる。」

雫「いつ? いつ行くの?」

聖司「パスポートが取れしだい。」

聖司「学校とは今日、おやじと話をつけるんだ。」

雫「じゃあ、すぐなんだ…」

雫「よかったね。夢がかなって。」

聖司「ああ。とにかく一生懸命にやってみる。」

雫「あの…」

聖司「お。」

聖司「雨あがるぞ。」

雫「ほんとだ。」

雫「わあ、あそこ見て! 虹が出るかもしれない。」

聖司「うん。」

雫「クレモーナって、どんな町かな。ステキな町だといいね。」

聖司「うん。古い町だって。」

聖司「バイオリン作りの職人が、たくさん住んでるんだ。」

雫「すごいなあ。ぐんぐん夢に向かって進んでいって。」

雫「私なんか、バカみたい。」

雫「聖司くんと同じ高校へ行けたら、いいなあなんて。ハハハ…」

雫「てんでレベル低くて、やんなっちゃうね。」

3年5組男子「シーッ。いる、いる。」

3年5組男子「いたぞ。」

聖司「俺、図書カードで、ずーっと前から、雫に気がついてたんだ。」

聖司「図書館で何度もすれ違ったの、知らないだろう。」

聖司「となりの席に座ったこともあるんだぞ。」

雫「ええーっ!」

聖司「俺、お前より先に、図書カードに名前書くため、ずいぶん本、読んだんだからな。」

聖司「俺… イタリアへ行ったら、お前のあの歌、歌ってがんばるからな。」

雫「私も…」

3年5組男子「押すな。バカ!」

3年5組女子「ヒャア!」

雫「コラーッ!」

3年5組男子「うわっ、月島が怒った!」

3年5組男子「わあっ、来た!」

お姉ちゃん「はい。」

お父さん「ああ、すまん。」

雫「ごちそうさま。」

お母さん「雫、もう食べないの?」

雫「夕子と待ち合わせ。」

お母さん「駅の方へ行くなら牛乳、買ってきて。」

雫「えーっ。」

お姉ちゃん「雫が、ガブ飲みしたんでしょう!」

お姉ちゃん「この頃てんでたるんでるんだから、あの子。」

雫「ごめーん。さぼらした?」

夕子「いいよ。」

雫「もう頭ぐじゃぐじゃ。」


チャプター16

夕子のお母さん「あら雫ちゃん、いらっしゃい。」

雫「こんばんは。」

夕子のお父さん「おかえり。」

雫「失礼します。」

夕子のお母さん「お茶入れるから取りに来なさいね。」

夕子「はーい。」

夕子「お父さんとケンカしてるの。口きいてやらないんだ。」

夕子「男の子って、すごいなあ…」

雫「2ヶ月で帰ってきても、卒業したらすぐ戻って、10年ぐらいは向こうで修行するんだって。」

夕子「ほとんど生き別れじゃない!」

夕子「でもさ、こういうのこそ、赤い糸っていうんじゃない? ステキだよ。」

雫「相手がカッコよすぎるよ。同じ本を読んでたのに。」

雫「片っぽはそれだけでさ。」

雫「片っぽは進路をとっくに決めてて、どんどん進んでっちゃうんだもん。」

夕子「そうかあ…」

夕子「そうよね。絹ちゃん1年の時、同じクラスだったじゃない。」

夕子「天沢君ってちょっと、とっつきにくいけど、」

夕子「ハンサムだし、勉強もできるって言ってたわ。」

雫「どうせですよ。」

雫「そう、あからさまに言わないでよ。ますます落ち込んじゃう。」

夕子「なんで?好きならいいじゃない。告白されたんでしょ。」

雫「それも自信なくなった…」

夕子「ふーっ… 私、分かんない。」

夕子「私だったら、毎日手紙書いて、励ましたり励まされたりするけどな。」

雫「自分よりずっとがんばってる奴に、がんばれなんて言えないもん。」

夕子「そうかなあ…」

夕子「雫の聞いてるとさ、相手とどうなりたいのか分からないよ。」

夕子「進路が決まってないと、恋もできないわけ?」

夕子「雫だって才能あるじゃない。」

夕子「カントリーロードの訳詞なんか、後輩たち大喜びしてるもの。」

夕子「私と違って、自分のことはっきり言えるしさ。」

雫「“俺くらいの奴たくさんいるよ。”」

夕子「えっ?」

雫「ううん、あいつが言ったの。あいつは自分の才能を確かめにいくの。」

雫「だったら私も試してみる。決めた! 私物語を書く。」

雫「書きたいものがあるの。あいつがやるなら、私もやってみる。」

夕子「でも、じき中間だよ。」

雫「いいの。夕子ありがとう。なんだか力が、わいてきた。」

夕子「帰る?」

雫「うん。」

雫「おじゃましました。」

夕子のお母さん「お母さんによろしくね。」

雫「はい。」

雫「夕子もがんばってね。」

夕子「うん…」

雫「夕子の良さ、きっと杉村にも分かるよ。さよなら。」

夕子「さよなら。」

雫「そっか、簡単なことなんだ。私もやればいいんだ。」

雫「ムーン?」

女の子「ムタ! ムタ!」

女の子「お母さーん。ムタまた行っちゃったよ。ムタ!」

雫「ムタだって…」

西「ほう、バロンを主人公に…」

雫「お許しをいただけますか?」

雫「聖司くんから、このお人形がおじいさんの、宝物だと、うかがったものですから。」

西「ハハハハ… それでワザワザ。」

西「いいですとも。ただし条件が1つある。」

雫「はい。」

西「僕を雫さんの物語の、最初の読者にしてくれること。」

雫「あっ、あの…」

西「どうですかな?」

雫「やっぱり見せなきゃだめですか?」

雫「だって、ちゃんと書けるかどうか、まだ分からないから…」

西「ハハハ… それは私達、職人も同じです。」

西「初めから完璧なんか期待してはいけない。」

西「そうだ、いいものを見せてあげようかな。」

西「これ、これ。見てごらん。」

西「雲母片岩という石なんだがね。」

西「その割れ目をのぞいてごらん。そう、そうして…」

雫「わあ、きれい。」

西「緑柱石といってね。エメラルドの原石が含まれてるんだよ。」

雫「エメラルドって宝石の?」

西「そう。雫さんも聖司も、その石みたいなものだ。」

西「まだ磨いてない自然のままの石…」

西「私はそのままでも、とても好きだがね。」

西「しかし、バイオリンを作ったり、物語を書くというのは違うんだ。」

西「自分の中に原石を見つけて、時間をかけて磨くことなんだよ。」

西「手間のかかる仕事だ。」

西「その石の一番、大きな原石があるでしょう。」

雫「はい。」

西「実はそれは磨くと、かえって、つまらないものになってしまう石なんだ。」

西「もっと奥の小さいものの方が純度が高い。」

西「いや、外から見えない所に、もっと良い原石があるかもしれないんだ。」

西「いやあ、いかん、いかん。年をとると説教くさくて、いかんな。」

雫「自分に、こんなきれいな結晶が、あるのかどうか、とても怖くなっちゃった。」

雫「でも書きたいんです。書いたらきっと、おじいさんに最初にお見せします。」

西「ありがとう。楽しみに待ってますよ。」


チャプター17

雫「原石… ラピス・ラズリの鉱脈…」

バロン「いざ、お供つかまつらん! ラピス・ラズリの鉱脈を探す旅に。」

バロン「恐れることはない。新月の日は空間がひずむ。」

バロン「遠いものは大きく、近いものは小さく見えるだけのこと。」

バロン「飛ぼう。上昇気流をつかむのだ!」

バロン「急がねば。小惑星が集まってきた。」

雫「わあっ。ああっ。」

バロン「いいぞ。気流に乗った!」

バロン「このまま、あの塔を一気に越そう。」

雫「あんなに高く!?」

バロン「なあに、近づけば、それほどのことはないさ。」

雫「行こう! 恐れずに。午後の気流が乱れる時、星にも手が届こう。」

お父さん「あれ?」

お父さん「へえ、めずらしいなあ。雫が物語以外の本を探してるなんて。」

雫「この人、牢屋でバイオリン作ってるんだ。」

雫「あ… 聖司君! もう行っちゃったのかと思ってた。」

聖司「おじいちゃんに聞いて、ここじゃないかと思ったんだ。」

聖司「会えてよかった。明日、行く。」

雫「明日…」

聖司「いいよ。雫が終わるまで、ここで待ってる。」

聖司「送れなくて、ごめんな。」

雫「ううん。来てくれて、とてもうれしかった。」

雫「見送りにはいけないけど、帰りを待ってるね。」

聖司「うん、たった2ヶ月さ。」

雫「私… 泣きごとばかり言ってごめんね。私もがんばるね。」

聖司「じゃあ、いってくる。」

雫「いってらっしゃーい!」

バロン「私と、いいなずけのルイーゼは、遠い異国の町に生まれた。」

バロン「その町にはまだ魔法が生きていて、」

バロン「魔法使いの血をひく職人達が、工房を連ねていたものだった。」

バロン「私達を作ったのは、見習いの貧しい人形作りだった。」

バロン「しかし、ルイーゼと私は幸せだった。彼が人を愛する思いを込めてくれたから。」

バロン「ところが…」


チャプター18

夕子「雫、雫、雫!」

英語の先生「どうしたんだ? 月島。」

雫「分かりません。聞いてませんでした。」

英語の先生「しっかりしろよ。大事な時だぞ。」

雫「すみません。」

英語の先生「原田、かわりに読め。」

夕子「はい。」

夕子「えーっ、また4時まで起きてたの!?」

雫「平気だよ。全然、眠くならないもん。」

夕子「でもさ、雫この頃ポーッとしてること多いよ。さっきだって…」

雫「考え込んでただけよ。書きたいことが、ありすぎて、まとまらないんだ。」

雫「なんか食欲ない…」

お母さん「雫? いるんじゃない。」

お母さん「やあね、あかりもつけないで。」

お母さん「あーあ、洗濯物ぐらい、しまってくれればいいのに。」

お母さん「雫! ちょっと来なさい。雫!」

お父さん「雫は? いるんだろう。」

お母さん「欲しくないって。」

担任の先生「あっ、お待ちしてました。」

お母さん「お手数おかけします。」

担任(英語)の先生「さあ、こちらへ。進路指導室、あいてるだろう?」

他の先生「ああ。」

担任(英語)の先生「どうぞ。」

お母さん「ただいま。」

お姉ちゃん「おかえりなさい。」

お母さん「今日は早いのね。汐。」

お母さん「はーっ、疲れた。」

お姉ちゃん「コーヒー飲む?」

お母さん「頼むわ。」

お姉ちゃん「お母さん、ちょっと相談があるんだけど。」

お母さん「なあに。」

お姉ちゃん「私、家出ようと思うんだ。」

お姉ちゃん「もう部屋見つけてあるの。」

お母さん「でもお金かかるんでしょう。」

お姉ちゃん「大丈夫。バイトで貯めたし。」

お姉ちゃん「塾の先生の口みつけたから、なんとかやっていける。」

お母さん「そうか。汐には手伝いばかり、やらせちゃったもんね。」

お母さん「がんばりな。お父さんに話しとく。」

お姉ちゃん「ほんと! うれしい。」

お母さん「春までは何かと物入りだけど、卒業したら私も働けるから。」

お母さん「そしたら少しは応援するね。」

お姉ちゃん「うん、期待してる。ごめんね、修士論文で大変な時に。」

お母さん「ありがと。データの整理、手伝ってくれただけで、大感謝してる。」

お姉ちゃん「部屋が広くなって、雫も少しは勉強に集中できるよ。」

お姉ちゃん「あの子この頃、変だもの。」

お母さん「やっぱりそう思う?」

お母さん「今日、学校に呼び出されたの。これ見て。」

お姉ちゃん「なあにこれ。信じらんない!」

お姉ちゃん「100番も落っことしてるじゃない。」

お母さん「あの子、机にかじりついて、何やってるのかしらね…」

お父さん「あっ、こんばんは。」

近所のおばさん1「おかえりなさい。すいませんね。」

お姉ちゃん「あんな成績で、いったいどんな高校に行くつもりなの!」

雫「いいわよ。高校なんか行かないから!」

お姉ちゃん「高校、行かない? 世の中、甘くみるんじゃないわよ!」

お姉ちゃん「中学、出ただけで、どうやっていく気?」

雫「自分の進路ぐらい自分で決めるよ!」

お姉ちゃん「なまいき言うんじゃないの! 雫のは、ただの現実逃避だよ。」

お姉ちゃん「2学期で内申、決まるの、分かってるでしょう。」

雫「勉強するのが、そんなにえらいわけ?」

雫「お姉ちゃんだって、大学入ったら、バイトしかしてないじゃない!」

お姉ちゃん「私は、やるべきことはやってるわ!」

お姉ちゃん「今やらなきゃいけないことから、逃げてるのは、雫でしょう!」

お姉ちゃん「それが分からない?」

雫「逃げてなんかいない。もっと大事なことがあるんだから!」

お姉ちゃん「大事なことって何よ! はっきり言ってごらん。」

お父さん「汐、雫、もうよしなさい。」

お姉ちゃん「だって、お父さん、雫ったらひどいのよ。」

お父さん「うん… 二人とも、こっちに来てワケを話してごらん。」

お父さん「雫、ちゃんと服をきがえておいで。」

お姉ちゃん「早くしな。」


チャプター19

お父さん「なるほど… 雫、汐の言ったとおりかい?」

雫「テストがどうでもいいなんて思ってない。」

お姉ちゃん「さっき高校、行かないって言ったじゃない。」

雫「だって、お姉ちゃんが、どこへも行けないって言った。」

お父さん「汐、雫と二人で話をするから、席をはずしてくれないか。」

お姉ちゃん「はい。」

お父さん「母さんは?」

お姉ちゃん「田中さんとこ。」

お母さん「ただいま。」

お姉ちゃん「おかえりなさい。お母さん。」

お母さん「お父さん帰ってるの?」

お姉ちゃん「うん。」

お父さん「母さんも、ここへ来てくれないか。雫のこと汐から聞いたとこなんだ。」

お母さん「はい。」

お父さん「さて… 雫。今、雫がやっていることは、勉強よりも大切なことなのか?」

お父さん「何をやってるのか話してくれないか?」

雫「言える時が来たら言う。」

お母さん「雫、それって今すぐやらなきゃ、いけないことなの?」

雫「時間がないの。あと3週間のうちにやらないと…」

雫「私、その間に自分を試すって、決めたんだから。やらなきゃ…」

お母さん「試すって何を? 何を試してるの?」

お母さん「だまってちゃ分からないでしょう。」

お母さん「お父さんやお母さんには、言えないことなの?」

お母さん「あなた。」

お父さん「あ… すまん、ついな。」

お父さん「雫が図書館で一生懸命、何かやってるのを見てるしなあ。感心してたんだよ。」

お父さん「雫のしたいようにさせようか、母さん。一つしか生き方がないわけじゃないし。」

お母さん「うーん。そりゃあ私にも身に覚えの、一つや二つはあるけど…」

お父さん「よし雫。自分の信じるとおり、やってごらん。」

お父さん「でもな、人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。」

お父さん「何が起きても、誰のせいにもできないからね。」

お母さん「それから、ご飯の時は、ちゃんと顔を出しなさい。」

お父さん「そうだ、家族なんだからね。」

雫「はい。」

お父さん「汐を呼んできて。」

お母さん「お茶、入れるわ。」

お父さん「うん。」

お姉ちゃん「雫。お父さん、ああ言ってるけど、本当は勉強してもらいたいと、思ってるんだからね。」

雫「分かってる。背中に書いてあるもん。」

お姉ちゃん「私、今度の日曜日に引っ越すからね。」

お姉ちゃん「部屋、一人で使えるよ。」

雫「お姉ちゃん、家、出るの?」

お姉ちゃん「そう、しっかりやんな。」

バロン「早く、早く。早く!」

バロン「本物は1つだけだ。」

雫「どれ? どれが本物?」

バロン「早く、早く。早く!」

雫「ああ。キャーッ!」


チャプター20

西「ルイーゼ、来てくれたのか。」

西「私は、すっかり年をとってしまったよ。」

西「雫さん。さあ、どうぞ。」

西「いやあ、すっかり眠ってしまった。」

雫「すみません。あの… 物語を書いたので持って来ました。」

西「おお… それで、できたんですね。」

雫「約束です。最初の読者になって下さい。」

西「これは大長編だ。」

雫「あの、今すぐ読んでいただけませんか? 何時間でも待ってますから。」

西「しかし、せっかくの作品だから、時間をかけて読みたいがなあ。」

雫「つまらなかったら、すぐやめていいんです。いえ、ご迷惑でなかったら。」

雫「あの… ドキドキして、とても…」

西「分かりました。すぐ読ませてもらいます。」

西「さあ火のそばへ。今日は冷え込む。」

西「これでジャマ者は来まい。」

雫「あの… 私、下の部屋で、待ってちゃだめでしょうか?」

西「ん?」

雫「平気です。ちっとも寒くありません。」

西「うーん、構わんがしかし…」


チャプター21

西「こんな所で… 雫さん、読みましたよ。ありがとう。とてもよかった。」

雫「ウソ! ウソ! 本当のことを言って下さい!」

雫「書きたいことが、まとまってません。後半なんかメチャクチャ。」

雫「自分で分かってるんです!」

西「そう、荒々しくて率直で、未完成で。聖司のバイオリンのようだ。」

西「雫さんの切り出したばかりの原石を、しっかり見せてもらいました。」

西「よくがんばりましたね。あなたはステキです。」

西「慌てることはない。時間をかけてしっかり磨いて下さい。」

雫「ワァーッ! ウッ、ウッ…」

西「さあここは寒い。中にお入り。」

雫「私… 私、書いてみて分かったんです。書きたいだけじゃ、だめなんだってこと。」

雫「もっと勉強しなきゃ、だめだって…」

雫「でも聖司君が、どんどん先に行っちゃうから、無理にでも書こうって。」

雫「私、怖くて、怖くて…」

西「聖司を好いてくれてるんだね。」

雫「フーッ、フーッ。」

西「味はどうかな?」

雫「おいしいです。」

西「聖司のときはラーメンだったな。最初のバイオリンができた時さ。」

西「それもジャンボ大盛りだ。」

雫「フーッ、フーッ。」

西「いやあ、ありがとう。さてどこまで話したかな?」

雫「ドイツに留学して、町のカフェでバロンを見つけたって…」

西「そうそう、メランコリックっていうのかな、この表情にひかれてね。」

西「店の人に、是非ゆずってほしいと、申し出たんだ。でも断られた。」

西「このネコの男爵には連れがいる。恋人同士を引き離すことはできないってね。」

西「ちょっとした修理に職人の元へもどしてある、」

西「貴婦人のネコの人形の帰りを、バロンは待ってるっていうんだ。」

雫「それって、まるで私の作った物語と…」

西「そうなんだ。不思議な類似だね。」

西「帰国の日も迫っていたし、僕はあきらめようと思った。」

西「その時ね、一緒にいた女性が申し出てくれたんだ。」

西「恋人の人形が戻ってきたら、彼女がひきとって、二つの人形を、きっと一緒にするからって。」

西「店の人もとうとう折れてね。僕はバロンだけを連れて、ドイツを離れることになった。」

西「必ず迎えに来るから、それまで恋人の人形を預かってほしいと、その人に約束してね。」

西「二つの人形が再会する時は、私達が再会する時だと…」

西「それからすぐ戦争が始まってね。僕は約束を果たせなかった…」

西「ようやく、その町に行けるようになってから、ずいぶん探したんだ。」

西「しかし、その人の行方もバロンの恋人も、とうとう分からなかった。」

雫「その人、おじいさんの、大切な人だったんですね。」

西「追憶の中にしかいなかったバロンを、雫さんは希望の物語に、よみがえらせてくれたんだ。」

西「そうだ、あれを…」

西「さあ、手を出して。」

雫「あの。」

西「その石は、あなたにふさわしい。さしあげます。」

西「しっかり、自分の物語を書きあげて下さい。」

雫「はい。」

雫「ありがとうございました。さよなら!」


チャプター22

雫「ただいま。」

お母さん「おかえり。」

雫「お父さんは?」

お母さん「お風呂。あなた、今何時だと思ってるの?」

雫「ご心配をおかけしました。今日からとりあえず受験生に戻ります。」

雫「ご安心下さい。」

お母さん「あら、じゃ、“試し”とやらが終わったのね。」

雫「とりあえずね。」

お母さん「ごはんは? カレーあるよ。」

雫「いい。」

お母さん「はーっ、とりあえずか…」

雫「ふーっ。」

お父さん「雫、入るぞ。風呂に入れ。」

お父さん「戦士の休息だな… よいせ…と。」

雫「はーっ。はっ! うそ!」

雫「待ってて。」

聖司「奇跡だ! 本当に会えた!」

雫「夢じゃないよね。」

聖司「飛行機を1日早くしたんだ。乗れよ。」

聖司「あっ、ちょい待ち。それじゃ寒いぞ。さあ乗った。」

雫「私、コート取ってくる。」

聖司「時間がないんだ。さあ乗って。しっかりつかまってろ。」

聖司「雫に早く会いたくてさ。何度も心の中で呼んだんだ。“雫!”って。」

聖司「そしたらさあ、本当に雫が顔、出すんだもん。すごいよ、俺達!」

雫「私も会いたかった。まだ夢みたい。」

雫「クレモーナはどうだった?」

聖司「見ると聞くとは大違いさ。でも俺はやるよ。」

聖司「明るくなってきたな。」

雫「降りようか?」

聖司「大丈夫だ。お前を乗せて坂道のぼるって、決めたんだ。」

雫「そんなのズルイ! お荷物だけなんてヤダ! あっ。」

雫「私だって役に立ちたいんだから!」

聖司「分かった。頼む。もう少しだ!」

雫「ハァ、ハァ、ハァ…」

聖司「ハァ、ハァ、ハァ…」

聖司「雫、早く乗れ!」

雫「うん。」

聖司「間にあった。」

雫「わぁーっ。」

聖司「持とうか?」

雫「平気。」


チャプター23

聖司「こっち」

雫「すごーい、朝もやでまるで海みたい。」

聖司「ここ、俺のヒミツの場所なんだ。もうじきだぞ。」

聖司「これを、雫に見せたかったんだ。」

聖司「おじいちゃんから、雫のこと聞いてさ。」

聖司「俺、何も応援しなかったから。自分のことばっかり考えてて…」

雫「ううん、聖司がいたからがんばれたの。」

雫「私、背伸びしてよかった。自分のこと、前より少し分かったから。」

雫「私、もっと勉強する。だから高校へも行こうって決めたの。」

聖司「雫、あのさ…」

聖司「俺… 今すぐってわけにはいかないけど。」

聖司「俺と結婚してくれないか?」

雫「えっ。」

聖司「俺。きっと一人前の、バイオリン作りになるから。そしたら…」

雫「うん。」

聖司「ほんとか!?」

雫「うれしい。そうなれたらいいなって思ってた。」

聖司「そうか。ヤッター!」

雫「待って。風、冷たい。」

聖司「雫。大好きだ!」


チャプター24

(カントリーロード)

♪ひとりぼっち おそれずに

♪生きようと 夢みてた

♪さみしさ 押し込めて

♪強い自分を守っていこ

♪カントリーロード

♪この道 ずっとゆけば

♪あの街に つづいてる

♪気がする カントリーロード


♪歩き疲れ たたずむと

♪浮かんで来る 故郷の街

♪丘をまく 坂の道

♪そんな僕を 叱っている

♪カントリーロード

♪この道 ずっとゆけば

♪あの街に つづいている

♪気がする カントリーロード


♪どんな挫けそうな時だって

♪決して 涙は見せないで

♪心なしか 歩調が速くなっていく

♪思い出 消すため

♪カントリーロード

♪この道 故郷へつづいても

♪僕は 行かないさ

♪行けない カントリーロード


♪カントリーロード

♪明日は いつもの僕さ

♪帰りたい 帰れない

♪さよなら カントリーロード


参照

こちらのサイトを参照させて頂きました。
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