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食べ物で遊んでも怒られない!?『Nour: Play With Your Food』は「ゲーム」か「アート」か

食べ物で遊んで怒られた経験はあるだろうか

遊んでるつもりがないのに怒られたことはないだろうか

 「食事」は空腹を満たすために、尊い命をいただく行為。現実では、その最中に遊ぶなんてことは許されることではない。じゃあ、現実でないなら。ゲームでならどうだろうか。今回は、そんなお話。



📃|『Nour: Play With Your Food』は挑戦的な作品

 『Nourヌール: Play With Your Food』は2023年6月19日PlayStation 4/5Steamでリリースされたフードアートシミュレーター

 開発はTerrifying Jellyfish。アメリカで活動しているゲームデザイナー兼デジタルアーティスト・TJ Hughesが中心となった制作集団と思われる。彼らにとって本作は、短期間でゲームを完成させるイベント・Ludum Dareにて制作された『Feesh.』に続く2作目となる。本作には「お腹が空くようにデザインされた実験的なフードアートゲーム」という説明があり、氏がテスト的にTwitterで投稿していたアートデザインを見て「お腹が空いた」という反応を得てから本格的に着手していったよう。「物理演算を活用したゲーム」は「キレイに並べる」か「大きく混乱させるか」のどちらかの要素を目標として持っているが、最高なのはそのどちらの要素もあることと語り、本作は確かにそれらを達成しようとしている信念を感じる出来だった。

▲英語の記事しかなく、機械翻訳で読んだので
ニュアンスは違っているかもしれない


⭕|食べ物を表現しきった圧倒的なグラフィックと音楽の組み合わせ

 本作のPVからも分かる通り、グッと引き込まれるような食べ物たちのグラフィックがすごすぎる。あらゆる種類の食べ物が乱雑にぶちまけられる風景は、異常ながらもかなり面白い。いや、異常だからこそ面白いのか。画面には余計なものはあまり表示されておらず、より食べ物が引き立つように邪魔なものは徹底的に排除されているように感じた

▲現実では見れない光景

 BGMは洗練されており、ビジュアルと相まってめちゃくちゃにオシャレ。ジャンルで言うとなんなんだろう。とにかく気持ちが良い。作曲はWIND MIRAGEという方のようだが、関連する情報が全く出てこなくて何者なのか本当によくわからない。他にリリースされている曲をSpotifyで軽く聴いたが、本作のものと同様にオシャレな曲調で、そういう作風の人ということはわかった。


⭕|簡単な操作でめちゃくちゃにできる

 基本的な操作は十字キーの上下左右〇□×△ボタン8パターンLボタンを押しながら同様の操作をする8パターン合計16パターンのボタン操作で画面上に「なにかしら」が起こる。

▲そこまで複雑ではない

 それは食べ物が降ってきたり、ステージ上にあるアイテムが動いたりと様々だ。他にもバーナー包丁ハンマーなどのアイテムもあり、中にはオブジェクトを巨大化させる光線銃なんてのもある。何もすることがなくなったら右スティックでカメラを引いていくことでステージから抜け出すことができる

▲「アイリスアウト」という演出の一種

 20種類ほどのステージでは何が起こるかはバラバラ。とにかくめちゃくちゃにボタンを押しまくるのでも、丁寧に考えて配置するでも、やることは自由。単純に「クリアするだけ」という目的なら、30分もしないですべてのステージを踏破することも可能なのではないだろうか。

▲ワクワク感はある

 リアリティのあるオブジェクトたちに反して、ファンタジックな「呪文」という要素もある。すべて燃やし尽くしたり、凍らせたりとマジで謎な世界観。いや、世界観なんてものはないのかもしれない

▲Ignite

💬|「ゲーム」なのか「アート」なのか

 議論を呼びそうなところはある。自分は、アート展のような場にありそうな「展示品」に近いものだと感じた。「ゲーム」として、多くの人がいつでも触れる機会を提供してくれているという点は非常に評価できる点だと思う。

 「ゲーム」とするにはあまりにも目的が無さ過ぎ、製作者側からの「ここを楽しんでほしい」というメッセージ性も薄いため、多くの人は「よくわからないゲームだった」という感想を抱きそうだ。その中で、トロフィーや実績といった部分が「目的」の1つになっていくのだろうが、それらの機能はゲーマーにとって副次的なものであり、モチベーションにはなり辛い。そのため、やはり「ゲーム」ではなく「アート」の一種であると考えた方が自然なのかなと思った


❌|分かりづらい「リズムゲーム要素」

 本作には「BGMに合わせてボタンを押す」というリズムゲームのようなシステムがある。開発側の思想として、画面上にはあまり余計な表示をさせたくないということだと思うが、説明も少なく、なんとも分かりづらい。そんな思想を正面から殴る方法。それはオプションで「リズムヘルパー切替」をONにすること。そうすることで、視覚的にかなり分かりやすくなる。

▲メニュー画面

 左上に円形の図が表示され、BGMに合わせてもう1つの円が動く。動いている円が、内側の円に重なるタイミングで押したり、逆に広がりきったタイミングでリズムよく繰り返し押し続けるとコンボが発動する。テキトーにやっててもコンボが決まったりするけど、狙った通りにコンボができるようになるとちょっと面白い

▲トロフィー取得のガイドだが、
リズムコンボについて分かりやすく解説されている


🏆|おそらくバグっぽい、正攻法では取得がほぼ不可能と思われるトロフィー

 本作の「作品自体の評価」からはちょっとズレた視点になるが、一番苦労したポイントなので言及する。最難関とされるトロフィーが「コルヌコピア」というもの。

▲どこがシルバーやねん

 これは「ゲーム中に登場するクラゲに、全種類の食べ物や食器などを回収させる」という条件で取得できるもの。クラゲは「一度回収したものはもう回収しない」という法則があるものの、ゲーム内でカウントされたり、何が回収されたのかを管理するような情報もないため、プレイヤーが個人個人でメモして記録していくしかない同じ食材でも色違いで「別物」として回収されるものもあり、把握するのが極めて難しい

 海外のフォーラムではリリース後の約10ヶ月後にプラチナトロフィー取得者が3人しかいないことに疑問をもち、Googleスプレッドシートでアイテムを一覧化して情報を募っている方もいた。しかし、それでも取得が難しく、ゲーム側になにか問題があるのではないかと考えられるようになった。PS5版では、PS5専用の機能として回収した個数がカウントされているようで、一度セーブデータを消しても引き継がれるという仕様を利用して取得している人がいたようだ。でも、PS4版ではそんなものはなく、同様にプレイしてもトロフィーは獲得できない

 そこで編み出されたのが「クラゲがアイテムを回収するチュートリアルを繰り返す」という攻略法。チュートリアルではトウモロコシを1個回収させて終了となるのだが、回収した直後にリスタートすると「回収のカウントはされた状態でチュートリアルをやり直す」という状態になる。なので、これをトロフィーが取得できるまで約150回繰り返すことで解決する。少し進みすぎると回収後でセーブされて戻れなくなるので、ボーッとしてるとやり直す羽目になる。まぁ、十数回やってからの失敗なら、あとは正攻法で全部回収させれば規定個数まで届くとは思うけど、それでトロフィーが取れなかったときの絶望感は半端ないだろうから、トロフィー狙いならチュートリアルループが安定だろう。おそらくこの作業は2時間程度で完了する

▲本当に取得できるのかわからない中、
念の為正の字でプレイ回数をカウントしてた

⭐|出オチ感があり、ゲームとして楽しむには目的が無さ過ぎる挑戦作

 「ゲーム」としてはかなり挑戦的で、楽しみ方がユーザーに委ねられているように感じた。「シミュレーター系」の作品はこんなものなのかな。現代の技術をふんだんに活かした、「食べ物で遊ぶ」というコンセプトは非常に面白く、独自性のある作品

 一方で、それが「面白いのか」と言われるとそうではなくて、大多数が最初のビジュアルだけで満足して、深くはプレイしてくれなさそう。本作の最大武器は「身近な題材を最上級のグラフィックで表現した」ところで、良くも悪くもその1点しかない。

▲おなかがすく

 ゲームとして評価するなら、本作の問題点を2つ挙げる。

 1つは「明確な目的」や「ストーリー性」が無いため、継続してプレイするモチベーションが保てないこと。なんだかんだ、それらが無いと終始ふわっとした状態でプレイし続けないとならず、点と点が一生線にならないストレスがじわじわと精神を蝕んでいく。

 もう1つはステージのバリエーションはあるものの、結局はやることが同じことの繰り返しになるので「次はどうなるのだろう」という関心や探求心が生まれにくいこと。最初は面白いのだが4ステージくらいで飽き飽きとしてくる。そこでなにかアクセントとなる変化があれば良かったのだが、特別無いので興味が薄れていってしまう

 いろいろなゲームを触ってきたけれど、それらの要素が一定以上満たされていないとユーザーを引き留めることは難しいのだなと痛感したし、無意識にそういった要素に引っ張られていたんだなと再認識した

 正直、2000円ほどの金額を出して買うには結構キツい作品だと思う。この記事の公開時点ではPSPlusのゲームカタログに入っているので、加入している人はお試しで触ってみてはいかがだろうか。

▲引力

 次回作があるかはわからないが、もしあるならもう少し目的があったり、パズルのようなゲーム性のあるシステムを組み込んだ、より「ゲーム」らしさのある作品になることを祈る。コンセプトやグラフィックは最高なのだから


 それでは。

 おわり。

▲手間はかかるけど、難易度はかなり低い

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