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”Digital Bank Run"✕GPT?

 ここ数日、SVBと直接取引のあった海外ファンド関係者、バンカー、スタートアップ関係者、クリプト周辺の人などと色んな話をしたので、おぼろ気な雑感をまとめてみました。一部、今後頻発するだろうタイプの危機=”Digital Bank Run"とその先について、雑な想像を交えています。

1."Digital bank Run"

 シリコンバレーバンク(SVB)が破綻した理由について。半分は彼ら自身のミスだが、半分は気の毒だという話。
 理由の前半は、彼らのリスク管理のせいである。債券ポートフォリオを急膨張させたが、リスク管理が追い付いていなかったところに、金利上昇が来て含み損の深手を負ってしまった。
 しかし残りの半分は、彼らのせいとばかりとばかりは言い切れない。今回、SVBからは1日で420億㌦(5兆2千億円)超の預金が引き出されたといわれるが、こうした事態が起こったのは、①SNSで引出し推奨の情報が加速的に増幅した、②ネットで大口資金が実際に簡単に移動できてしまった、という事情がある。一気に過電流が生じてブレーカーが落ちたようなもの、と思えばいいのかもしれない。こうした電撃的な銀行破綻を海外では「デジタル銀行の取り付け」="Digital Bank Run"と呼んでいるようだ。
 そもそも、「キャッシュ」である預金がこの規模で動くのはインターバンク市場や為替市場など、プロ中のプロの大口投資家の間だけというのが常識だった。一般投資家が参加する市場では上場株取引市場があるが、取引されているのは「株式」であって「預金」ではないし、キャピタルゲイン・ロスという評価上のバリューの変化が大きくても、それらの得失は銘柄分散されているので、金融システムが瞬時に壊れる、といったことにはならない。ところが、今回、一般預金者のキャッシュが一か所から一斉に本来あり得ないほどの規模で引き出されるという、今までにない事態が生じた。Digital Bank Runはこれからの時代、きっかけが何だろうといつでも起こり得ると思っていいだろう。たまたま、SVBが第1号だっただけだ。
 "Digital Bank Run"を既に2019年に予言した論文はこちら

2.BloombergからChat、Chatから銀行へ

 金融危機は、「間違った情報✕恐怖の増幅」で拡大する。
 いままでは、それがBloombergなどのプロの金融端末→通信社→ネットのニュース→大衆メディア、だった。それがどんどん加速するという流れだった。
 しかし、今後はもうニュースになる暇さえなくなる。大口預金を持っている富裕層やPEファンド、VC、スタートアップ企業などの間でChatで噂が広がり、スマホやPCで開きっぱなしになっている銀行端末であっという間に一斉に資金が移動されてしまう。SNS上の情報操作や、サイバーテロ集団による巧妙な噂の散布もきっかけになりうる。銀行の資金繰り部署が異変に気付くころには、引出しのインストラクションでサーバーがパンクし、障害が発生して預金が引き出せなくなり、流動性危機が自己実現してしまうことになる。この場合、通常のシステムの冗長化構成だのバックアップだのは機能しない。なぜなら、「アクセスしてるのに預金が引き出せない」という事象だけで、噂を聞きつけた預金者がさらにシステムに押し寄せてくるからだ。おそらく金融当局にも苦情が殺到するだろうが、あまりに急激な事態に、当局の担当者も事実関係さえ把握できないし、ヤフーニュースにも金融端末にもまだ出ていないし、「何がどうなっているんだ!?」という事態が起こり得る。
 ただ、この辺は、すでにここ数年予兆はあった。銀行ではないが、米ロビンフッド証券で個人投資家とPEがゲームストップ株を巡って対決した件などは、まさにSNSが金融市場を攪乱したケースとして記憶に新しい。SNS上で一斉に「同期化」した一般投資家の資金やノイズの入った情報の洪水に短期的に勝てる術はないという証左だった。

3.パラレル・フィナンシャル・ワールド

 流出した預金はどこに行くのか?
 もちろん、他行に預け替えられるものが大半だろう。しかし今回SVB以外の銀行も危機に見舞われているように、危機が連鎖する恐れもある。当然、目端の利く人々の資産は、クリプト、商品など、既存の金融システムと相関の低い世界にどっと流入してこれらの市場の価格が急変する。実際にクリプトや金価格は反転上昇している。それ自体がさらに二次被害(や莫大な利益)を生む。従来、こうしたオルタナティブ(代替商品)は専門のファンド以外投資できないものだった。金融当局は、TierⅠの金融システム(銀行)はかろうじて守れるかもしれないが、これらの"Parallel financial world"(Shadow system)をカバーできないので、バケツは穴が空いたままとなる。
 すると、よくわからない波及経路をたどって、ネットワークの弱い部分が直撃され(今回でいえば、クレディ・スイスのような病人)、平時なら比較的安全と思われていたTierⅠの傷口が予想以上に広がってしまう事態がありうる。

4.預金の保護vs銀行の保護、分散金融の現実

 欧州に突如飛び火した危機は、単に出来の悪い銀行の問題、ではなくて、いまの銀行の仕組みの深刻な限界を示している。世界中の国々で、預金は(部分的に)保護されるといっているのに、実際にはそれは民間の各銀行の信用に基づいて発行されていて、企業(銀行)別に会計上の自己資本で健全性を担保しよう、というのがもう土台無理なのだ。SNSでニュースにもならないうちからDigital Bank Runを起こす人々にとって、平時の会計上の健全性など何の意味もないからだ。唯一、あまねく常に全額保護されることになっていれば別だが、そうなると銀行別に発行される預金は無差別になり、社会全体で膨大な無駄・モラルハザードが発生するだろう。雑な議論だが、本来、分散型金融によって実現される世界は、こうした中央機関(中央銀行)がなくても安全性と効率性が両立するはずだったではないか。ただ、実際に今わかってきたことは、ツブツブの個人をそのまま分散型金融に放り出すと、むしろ一斉に同期するか、一部の結節点に大金を持っている勢力に振り回されて、市場が不安定化するという現実だ。これを防ぎながら、預金の保護もカバーするには、いわゆるCBDCなどに移行したほうがいいのかもしれないが、もうその辺になると議論が拡散しまくることになる。今はやめておこう。

5.そしてGPT  

 今回のSVB危機のさなか、GPT4が登場した。
 僕の周りですら、すでに猛烈な、本当に猛烈な勢いでAIの現場実装が爆発的に進んでいる。すぐに、GPT4やその進化版による投資ツール、最適資金配分ツール、自動資金移動ツールが出てくる。世界中の情報を収集して、当のGPTが投資家自身すら考えていないほどの危機を察知し、勝手に・一斉に資金移動し出すかもしれない。そんなの大げさ、馬鹿な、と思うかもしれない。しかし、実際にGPT4を触ってみればいい。GPTへの質問への答えは、今でさえ、すでに凡人より優れているよね?投資判断も、あっという間にそうなる。これからの金融危機は、もう人の手すら離れていく時代が、目の前にきている(現に、株取引の大部分はもうだいぶ前からHFTによって人手を離れている)。これは「煽り」でもなんでもない。だからどうした?日常の暮らしに関係があるのか、その先の答えはもちろんまだ全然わからない。

 雑な考察ですが、あまりにも動きが速いので、とりあえずはここまで。僕は評論家じゃなく、ファイナンスの実務家なので、考えて終わり・書いて終わりじゃなく、この潮目をビジネスとしてどう超えていくか、これが本題。いっしょに乗り超えていきましょう。その参考になれば!

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