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2020年版「透明人間」"The Invisible Man"は良質のエンタテインメント!! ➕ 「透明人間」古典映画の話

H Gウエルズが1897年に書いた「透明人間」は、人間が消えるというアイデアが秀逸なため、その後も手を変え品を変え、創作され続けてきた。今回の2020年リー・ワネル監督・脚本版「透明人間」"The Invisible Man"は、その中でも最高に面白い部類に入る出来だ。

作り方が非常によろしい。透明人間を表現するために、吐いた息だけ見せたり、ガラスの手形で表現したり、少しだけ透明を不透明にして観客を怖がらせる。
やがて物語は、この大金持ちで天才科学者のDVにあっていた、被害者で元カノのエリザベス・モスが直面する理不尽な戦いにどう向き合っていくのか、ということに観客の興味を集中させる。

ストーリーは、オフィシャルHPに書いてあるものをそのままのっけておく。
サイコ・サスペンス・スリラーなので、これ以上書くのは野暮というものだろう。すげえ面白かった、とだけ書いておく。

富豪で天才科学者エイドリアンの束縛された関係から逃げることの出来ないセシリアは、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出を図る。失意のエイドリアンは手首を切って自殺をし、莫大な財産の一部を彼女に残した。セシリアは彼の死を疑っていた。偶然とは思えない不可解な出来事が重なり、それはやがて、彼女の命の危険を伴う脅威となって迫る。セシリアは「見えない何か」に襲われていること証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。

せっかくなので、大昔の同じ題名の「透明人間」の映画の話も書いておこう。ルーツを探るという意味で、この2020年版と比較してみるのも一考かも。

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1933年「透明人間」”The Invisible Man”

ユニバーサル映画の古典である本作は、当時としては画期的な特撮を駆使した面白い作品に仕上がっている。
その後の透明人間のアイコンとなった、包帯をぐるぐる巻きにしたミイラのようないでたちはこの映画から。
包帯をとると、透明に変わる。これは、真っ黒なベルベットスーツを着て、同じベルベットの背景に立ち撮影したものを、他の画面に合成させて作ったもの。当時は驚愕の映像だったようだ。

クロード・レインズ(「カサブランカ」のルノー署長ですね)扮する科学者は、血と骨と肉が消える薬を開発し、透明人間となったが、「モノカイン」という薬の副作用により精神が錯乱してしまい、マッド・サイエンティストになっていく。イギリスを舞台に、街中の騒動を描く。

今回2020年版「透明人間」では、この古典映画を参考にしてるし、リスペクトもあった。なので好感が持てた。

1954年「透明人間」監督 小田基義

こちらは、我らが円谷英二が特撮を担当した東宝映画。「ゴジラ 」(54年)の後に製作された。
戦争中、旧日本軍サイパン特殊隊の実験で、透明人間になってしまった帰還兵の悲劇。男は正体を隠すために、チンドン屋のサンドイッチマンとなり、ピエロのフェイス・ペインティングをしている。

安アパートの住人は、祖父と暮らす盲目の少女や、薄幸のホステスなど、戦後の貧困と悲哀がいっぱい。50年代映画にかかせない、ギャングやピストルも出てきて、活劇を繰り広げる。だが、正直カタルシスを得ないまま終わってしまった。

クライマックスの石油備蓄タンクでの格闘は、ギャングの撃ったピストルで、タンクが燃え上がる中で繰り広げられるが、なんせ見えない透明人間との闘いなので、役者は一人芝居で大変である(笑)

円谷英二は、光学合成などにより男の姿を透明にしていった。その他、ピアノ線でモノを動かし、ベスパが勝手に道路を走行するのだが、これなぞ、2020年の今、中国のシンセンで走ってる配達ロボットみたいだな、と思ってしまった(笑)

主人公が、ピエロの格好で広告屋をしているところや、安アパートのホステスに恋心をいだくが、透明人間の自分じゃダメだと思うところなど、設定がホアキン・フェニックスの「ジョーカー」(19年)に似ている。

健気に生きる盲目の少女まりちゃんのために、オルゴールを買ってあげたいという、透明人間のピエロのおじさんのやさしさが悲しい。その甘悲しさが全編を包んでいた。

両方の古典は、Amazonプライムでも見れます。

てなことで。


最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!