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NHKスペシャル「香港 激動の記録〜市民と”自由”の行方〜」 【香港在住者の感想】

昨夜(2020年10月18日)放送された、NHKスペシャル「香港 激動の記録〜市民と“自由“の行方〜」を見た。
国家安全法施行後の香港の現状をレポートしている良い番組だった。

なぜ良かったかというと、今の香港を覆っている「無力感」「無常観」というものがよく描かれていたから。

香港在住者として、この空気感は、言葉にするよりも映像を見てもらったほうがいい。そういう意味で良い番組だと思ったのである。

国家安全法が、2020年7月1日に施行され、すでに100日を超えた。その間に香港では、様々な変容が起きている。

デモは許可が出なくなり、民主派の活動は抑えられ、9月6日に予定されていた立法会選挙も一年延期された。「三権分立は香港にはない」と行政長官に宣言もされた。

民主の機運は、日に日に小さくなっている気がする。昨年(2019年)の大掛かりなデモ活動も、今や思い出になってしまっている。理由も告げられず逮捕される民主派の市民も増えた。

番組内で、洋服屋を営む2代目の主人が、自分の父親に諭される場面がある。「民主主義で飯は食えない」
民主派を支持していた主人は、国安法制定後、親中派へと変わってしまった。

父親は、文革時に本土から脱出し、香港へ来た。そして繊維業で成功し、ハッピーバレーの競馬場が見える超高級物件に住んでいる。
相続税のない香港では、息子もいずれその家がもらえる。みすみすそれを手放す必要はない。ならば今の状況を肯定し、商売に精を出せばいいではないか。

それを打算と呼べるのか?それが現実なのである。

香港市民は、昨年(2019年)以降「黄色」と「青色」に分断されてしまっている。黄色は(雨傘運動の傘の色)民主派、青色は(警察の制服の色)親中派である。

黄色の人たちの多くは、自力で(高くなりすぎた)家も買うことができない人たちだ。政府の公営住宅に入居することさえも難しい。
青色の人の多くは、自分の財産価値が落ちるような、経済の失速を招くデモ活動に落胆し反対していた。

英国政府の香港市民の受け入れ政策(BNO)も、保険という意味でパスポートを保持する人たちと、経済的に英国へ行けない人たちに分かれている。

番組に登場する学生フリー記者も、いずれ取材ができなくなってしまうだろう。
若者たちが、自分たちの手で変えたかった香港の未来。それは手の届かないものになってしまったかもしれない。だが希望だけは失ってほしくない...

イデオロギーよりも経済。自由よりも自分の利益。合理的な香港人がそれを選んだ。残念だがそれが現実だ。そのことを改めて思い知らされた番組だった。香港が好きな在住者の一人として、やるせない気持ちになった。


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