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「パラサイト」でアカデミー賞受賞のポン・ジュノ監督の前作「オクジャ/okja」(‘17)は食肉産業批判映画

今年(2020年)アカデミー賞の歴史的サプライズは韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞はじめ監督賞、脚本賞、国際映画賞と主要部門を総なめにしたことであった。

そのポン・ジュノ監督の前作『オクジャ/okja』(‘17)は、エンタテインメント性の強い作品ながら、現在の食肉産業を批判した映画である。

あらすじ

食肉産業の一大コングロマリットであるミランダ社のCEOルーシー(ティルダ・スウィントン)は、中南米で見つかった新種のブタを世界26カ国の農家に配り、10年後にどの国のブタが一番大きくて食肉としておいしく育ったかを決めるコンペを行うと発表する。
韓国の山村で暮らす少女ミジャ(アン・ソフィン)は、巨大に育ったブタ オクジャと仲良く暮らしていた。ある日大人たちがやってきて、オクジャを連れて行ってしまう。悲しんだミジャは、一緒に暮らすおじいちゃんの静止を振り切りオクジャを取り戻すためにソウルへ向かう。
そこでミジャはオクジャをめぐる大きな秘密と陰謀の渦に巻き込まれてしまうのだった。

Reference: YouTube

ちとネタバレありの解説です

スーパーピッグと呼ばれることになるブタは、めっちゃ大きくてブタというよりカバに近い(笑)食肉用として非常に効率のよい大きさとなるとあのような形になるのだろう。
その大きなブタと大自然の中で戯れる少女ミジャの絵面は『となりのトトロ』を連想させる美しいシーンだ(←ポン・ジュノ監督もその影響を認めている)。

だがここで描かれる世界は、おそらく近い将来に現実になるかもしれない危険性をはらんでいる。食肉用に作られた自然界には存在しない動物。それをおいしいおいしいと食べる人間たち。加工された食品そのものの中身は何なのか?そんなことも検証せず、大企業が製造したからと無自覚に買い求める消費者たち。

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出典 Wikipedia 

地球温暖化の一番大きな原因が畜産業にあることは、レオナルド・ディカプリオが製作者として名を連ねるドキュメンタリー『COWSPIRACY: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』を見れば一目瞭然である。が、そのことはあまり知られていないのが現状だ。

この映画のスーパーピッグは、地球に優しいブタとして登場するわけだが、それはビッグサイズなのに排泄物が少ないという点が理由なのだ。世界の地上面積の大きな部分が食肉用の家畜生産に使われ、その糞の処理をしないためメタンガスが上空に上がり地球温暖化が加速的に進んでいる。

このスーパーピッグ・プロジェクトが成功すれば、映画に登場するミランダ社は世界の食肉加工全てを牛耳ることができる。エサ代も抑えられ、効率もよく味もよい。人間の食べたがる肉を作ってしまえばいいからだ。すでにそのような研究は世界中の大企業では行われているかもしれない。この映画はそのことを警告しているようにも思える。

映画としての見せ場も十分あり、ひとつ間違えれば堅苦しく、説教臭く、重いテーマをエンタテインメントとして見せるのはボン・ジュノ監督の力量と思う。

オクジャを家族のように思い、心から愛しているミジャの無鉄砲なまでの行動は、歳を取ったおっさんの自分にはとても健気で、見ていてすごく応援したくなる。大人たちの汚れた利己的な考えとは裏腹の、純粋な気持ちに心打たれてしまった。

この作品はNetflixの配信として製作された。カンヌ映画祭では配信という理由で正当な評価をされなかったのでは?と物議を醸した過去がある。『パラサイト 半地下の家族』がカンヌでパルムドールを取ったのは、ポン・ジュノにとってはリベンジだったのかもしれない。

てなことで。


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