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「コットンクラブ・アンコール(原題)」 未公開ならもったいない!コッポラの再編集版は35年前より遥かに素晴らしい傑作!The Cotton Club Encore (2019)

フランシス・フォード・コッポラ監督の「コットンクラブ」(84年)は、豪華だが大味なギャング映画として知られているが、この度再公開されたコッポラ自身によるディレクターズ・カット版「コットンクラブ・アンコール」The Cotton Club Encore は、圧倒的に良い映画に生まれ変わっていた!

アメリカでは、2019年ニューヨーク映画祭で上映され、10月11日にライオンズゲート配給で公開、その後12月10日にDVD/Blu-ray化されている。
ぼくが知ってる限り、日本では(香港でも)公開の話が聞こえてこない。だが、これは公開しないのは非常にもったいないコッポラのリストレーションであった。

ストーリーそのものは、84年版「コットンクラブ」と変わりはない。
1920年代、禁酒法下のNYハーレムにあるコットンクラブ。コルネット奏者のディキシー(リチャード・ギア)は、ギャングのボス、ダッチ(ジェームズ・レマー)の愛人ベラ(ダイアン・レイン)と愛し合う関係になる。"サンドマン"(グレゴリー・ハインズ)は兄(モーリス・ハインズ)と憧れのコットンクラブの舞台に立ち、そこで出会った混血歌手リラ(ロネット・マッキー)に一目惚れ。1930年の大恐慌が近づく中、ディキシーはハリウッド・スターとなり、弟のヴィンス(ニコラス・ケイジ)はダッチの子分としてギャングの抗争に明け暮れていた...

(コットンクラブ・アンコール 予告編)Reference YouTube

84年版との違いとコッポラの後悔

タイトルバックは、デューク・エリントンの“The Mooche“に乗って(音楽ジョン・バリー)、クレジットのみとなり、冒頭に短いシーンが追加されている。NYハーレムにあるコットンクラブのドアマン(ウディ・ストロード)が、客の連れの女性が「色付き」だと入店を拒否する。これによりコットンクラブは、黒人差別があることがわかる。客は白人のみ。黒人が入店できるのは、舞台のエンタテイナーとしてだけ(しかも、表玄関から入ることは許されない)。

このオープニングからわかるように、全編を通して、黒人差別が色濃く残っていた時代を忠実に描いている。そして、それでもその時代のアフリカ系アメリカ人が、力強く生きていたことも。

84年版は、出来上がった作品が、「長すぎる、音楽が多すぎる、黒人(の場面)が多すぎる」と製作者とオライオン・ピクチャーズからクレームが入り、公開されたものは、白人のギャング抗争に重きを置き、コットンクラブのショーと群像劇は脇に追いやられてしまった。

製作期間が5年にもなり、当初予算2500万ドルが、最終的に5800万ドルまで膨れ上がった製作費を回収するため、製作・出資者サイドは、黒人の登場シーンを減らし、コッポラの白人ギャングものを要求した。「ゴッドファーザー」(72年)「ゴッドファーザーPART II」(74年)という歴史に残る名作を世に出したコッポラは、もうギャングものは作りたくなかった。
だが、「ワン・フロム・ザ・ハート」(82年)の失敗で、自身のゾーエトロープ・スタジオが莫大な借財を抱えていたコッポラは、妥協せざるを得なかった。

コッポラは、この時、黒人キャストの素晴らしいパフォーマンスをカットされることと闘わなかったことに後悔があったという。
それが理由だと思うが、2019年に私財50万ドル以上を費やし、このレストア・再編集版を完成させた。これにより、当初コッポラとウィリアム・ケネディが書いた元の脚本に近づけることができた。

128分の本編を、114分に縮め、そこへ24分の未公開シーンを足し138分にした。今回新しく追加された未公開シーンは、黒人キャストの圧巻のパフォーマンスが主体となっている。
ロネット・マッキーの歌う「ストーミー・ウェザー」は、彼女のモデルがリナ・ホーンだということを知っていると、その歌声と場面が染みる。
グレゴリー・ハインズの歌と踊りもアウトテイクがあり、キャブ・キャロウェイ(ラリー・マーシャル)の場面に、ニコラス・ブラザーズが登場したりして、20〜30年代当時の、実在したコットンクラブのショーを再現している。

歴史に「もし」があったなら、このバージョンが84年に公開されていたなら、2003年に57歳の若さで他界した、グレゴリー・ハインズの評価は今よりも上がり(それでも、ミハイル・バリシニコフと共演の「ホワイトナイツ/白夜」も良かったが)、ロネット・マッキーの評価も違ったものになっていただろう。

「コットンクラブ」は、リチャード・ギアの白人兄弟と、グレゴリー・ハインズの黒人兄弟の2組を主軸に、ハーレムのゴージャスなコットンクラブを舞台に、ジャズを聴かせながら見せる見事な群像劇なのである。これでやっと白人/黒人のバランスが取れた。

1985年3月に日本公開された時、確か丸の内ピカデリーで観て、「なんかものたんない映画だなぁ...」と感じていたのは、題名が「コットンクラブ」で、せっかくタップダンスの名手グレゴリー・ハインズが出てるのに、ショーの場面がまるっきり少なかったからだ。今回この「コットンクラブ・アンコール」を観て、やっとお腹がいっぱいになった。
日本人で、ミュージカルやジャズ好きのぼくは、これを大画面で見たいなと切に願うのでありました。誰か配給してくれませんかね?

てなことで。

15-Oct-20 by nobu


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