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調査メモ:世界人口の動向(2022年版)

1. このノートの動機と目的

このメモは、過去に調べた世界人口を、今日現在における自分の視点で整理したものです。そもそもの動機は、継続的に行われている国連による世界人口推定が、時間とともに、どのように変化しているのを知りたかったからです。限られた範囲であるが、調べてみると、世界人口の増加スピードは、予想より減少している様に見えます。すると、次に気になったのは、世界人口増のスピードが落ちることは、どんな影響をあたえるのだろうか?でした。このメモの目的は、それらの検討を、クイック&ダーティーに整理し、記録として残すことです。従って、新しい見方に気づいたら、本メモを更新する(または、新しいメモを作る)つもりです。

2. 国連の人口推定結果を重ねて見ると

国連による過去4つの世界人口推定(2015年版、2017年版、2019年版、2022版)の中位推定を重ねてみました。図1は総人口数、図2は人口増加率です。図2に関しては、過去の人口増加率データが不揃いのため、2020年のデータをベースに、2000年以降のデータだけを重ねました。

図1(総人口数)には、IPCC5(Intergovernmental Panel on Climate Change)のRCP(Representative Concentration Pathways)シナリオが想定する2100年の世界人口数を追記しました。この追加は、「気候変動の真実」(スティーブン・クーニン著)の図表3-6を参考にしました。

図2(人口増加率)には、今までの人口問題の提起(人口爆弾説、成長の危機説、IPCC5のRCPシナリオ策定)がされた年を追記しました。RCPシナリオが前提としている人口推定を2000年頃の考え方とした根拠は、RCP6.0の解説に「The details of the scenario are described in Fujino et al. (2006) and Hijioka et al. (2008).」と書かれていたからです。すると、シナリオが使っている考え方は2006年より前のものであり、現実的には、更にその数年前だと仮定しました。(注意:RCPシナリオが国連の推定データだけに基づいているという意味ではありません)

 図1:国連による世界人口の中位推定(2015年、2017年、2019年、2022年)
図2:国連による世界人口の増加率の中位推定(2015年、2017年、2019年、2022年)

3. 考察:世界人口が予想より早く減速することの影響

3.1. 世界人口の予想の上振れ

2015年に堺屋太一氏はこう指摘しました:『2015年の人口は1億2660万人、35年前の予想の最小値をも大幅に下回っている。たった35年間でもこれだから、さらに長期となると狂いは大きい。人口推計は当たり易い」わけではない。50年単位でさえ大間違いをしているのである。これは日本だけではない。国際連合人口局でも地球人口の推計で大間違いをしている。』

過去4つの世界人口推定を比較する限り、新しい予想は、古い予想より下降修正されています。最新(2022年)の世界人口推定によれば、実は人口増加率は2020年に1以下となっていました。そして、2086年にマイナスとなります。つまり、世界人口は、2086年(今から64年後)に104億人でピークアウトすると予想されています。今後、実際の世界人口は、これよりもより少ない人数で、より早くピークアウトすることもあり得ます。

3.2. 気候変動の議論の過剰さ

スティーブン・クーニン氏は、その著書「気候変動の真実」(日本語版の101ページ)で以下と述べています:『歴史的に、(炭酸ガス)排出量のドライバーとして最も重要なのは「人口の増加」と「経済活動の増加」の2つだ。』

「人口爆弾説」や「成長の限界説」や「IPCC5 RCP 8.5」が2つのことを示しています。第一は、地球環境問題における最も大きなドライバーの一つは、世界人口問題であること、第二は、当時の最悪のシナリオは、外れることです。

IPCC5 RCP 8.5の主要ドライバーである世界人口は、2100年に120億人に達し、そこでまだピークアウトしないことを前提条件としています。これは、2015年と2017年の国連の推定と同じです。しかし、3.1節で述べた通り、最新の推定では、世界人口は2086年に104億人でピークアウトする可能性が高いので、RCP 8.5は現実的なシナリオではないと、考えるます。

しかし、メディアが述べる気候変動の言説は、このような前提となるシナリオが複数存在し、それによって危機の度合いが違うことを無視して、常に最悪な結果をイメージしているように思えます。

3.3. 新興国の成長時間は限られている

白饅頭氏は、民主主義の衰退(世界の10人に7人が強権国家に住み、民主主義はいまや3人未満)に関する新興国の考え方を以下と分析しています:『新興国は、高齢化・少子化が猛烈な勢いで進行する民主国家がいままさに直面している「シルバー・デモクラシー」のジレンマをよく観察しているので「私たちはああなるまい」と、いわば“逆張り”をはじめたということでもある。』

ザックリ解釈として、世界人口が2086年にピークアウトするということは、世界経済における人口ボーナスによる成長分が2086年頃に無くなることを意味します。新興国が先進国並の水準に届くために残された時間は、今から約60年から70年程度しか無いのかもしれません。この時間は、日本が明治維新(1868年から1889年)から高度経済成長(1955年から1973年)までにかかった年数に等しいです。

日本の場合(および欧米各国も)、過去に色々と乱暴な加速をしたうえで、これだけの時間を要しました。今の時代、新興国は同様の無茶をできないので、70年間が十分な時間とは思えません。この時間制約のプレッシャー下、先進国が主導する「時間のかかる」民主主義に魅力を感じない、新興国の指導者がいても不思議ではありません。「民主主義は非効率だが、最善の制度である」という慣れ親しんだロジックは、時間的制約下でどれだけ説得力を持てるのでしょうか?(注意:そういう指導者の行為を正当化しているわけではありません)

3.4. 日本の人口減を外国人労働者で補うことの実現可能性

日本の人口が、世界人口よりも早く減少していることは、よく知られています(図3参照)。日本の人口減対策として、外国からの働き手を期待する案は、常に主流の一つです。しかし、3.3節で述べた世界的な人口減の時間枠を考慮すると、新興国においても、働く世代は、ますます貴重な資源となります。日本の労働市場は、そのような人たちを引きつけるだけの価値を提供できるのでしょうか?そのためには、何が必要なのでしょうか?

図3:日本の総人口の長期的推移

4. 追記

2022/11/10

イーロン・マスク氏も人口問題を重く受け止めているようだが、具体的な考え方をしりたい。

Population collapse due to low birth rates is a much bigger risk to civilization than global warming

https://twitter.com/elonmusk/status/1563020169160851456?s=20&t=1h6tkdVDA5RijMke4ZXssw 

2022/11/16

11月になって、突然世界人口のニュースがメディアに溢れ始めた。日本のメディアの印象は、相変わらず「世界人口が80億人に達するので、大変だ」という煽り系です。世界人口の推定規模が下がり続けているということには言及しません。BBCは、「世界の人口は20世紀後半に急増した。現在は増加ペースが落ち始めている可能性がある」と、日本のメディアと比較して冷静です。そもそも、国連の世界人口推定の2022年版は7月11日に公開されたので、「なぜ今頃?」と思って調べたら、COP27が11月に開催されていることを知りました。ということで、COP27と連動したキャンペーンだろうと推測しています。「メディア」→「イデオロギー」→「プロパガンダ」を再認識した次第。特に日本のメディアは。。。。

5. まとめ

このメモの要点は以下である

  • 国連による世界人口推定(2015年、2017年、2019年、2022年)を比較する限り、新しい推定は、古い推定を下回っています。つまり、想定される世界人口は、小さくなり続けています。

  • 2022年の推定では、それまでの推定を大幅に下回り、世界人口が2086年に104億人でピークアウトします。

  • 2022年の世界人口推定をもとにすると、IPCC5シナリオ RCP8.5(ワーストケース)は過剰であり、非現実的です。

  • 世界人口が今までの想定より小さく、早期にピークアウトするのは、地球環境にとっては良いが、地球規模の政治・経済には大きな影響があり得ます。

  • 新興国が先進国並みの水準に達するために許される時間が限られるかもしれません(約70年間)。これは、新興国指導者の統治に影響を与えるかもしれません。例えば、先進国が主導する民主主義に対する魅力の低下など。

  • また、新興国の状況の変化は、日本にとっても他人事ではありません。例えば、外国人労働者の供給に関する制約など。

本メモに関しては、以下の更新を検討したいと考えています。

  • IPCC5のRCPシナリオの代わりに、IPCC6のSSPシナリオを引用すること。

  • 次の国連の世界人口推定結果(2023年か2024年頃)た出た時。

  • 本メモにおける間違いを見つけた時。

主な参考資料

国連の世界人口推定:


RCPシナリオの定義:


人口爆弾説


成長の限界説


スティーブン・クーニン著:気候変動の真実


堺屋太一:人口推定は当たらない!:


日本における総人口の長期的推移(2021.2.21):

https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf


白饅頭日誌:10月19日「民主主義の衰退の本当の原因はなにか?」:


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