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不器用な僕ら

「生」と「他人」に対して、執着のない友人が、いる。
こだわりと芯の強さは持っているが、自己の主張を他人に押しつけることをせず、彼自身の中だけで、彼自身のロジックを完結させている。

そんな不器用な友人が、僕にはいる。




彼とは、かれこれ7年近く交友関係を持っており、共通のコミュニティも多く、かなり近い位置にいるはずなのだが、決してお互いのすべてを知り尽くすような間柄ではなく、未だに距離感も手探りな部分がある。

僕は、どちらかと言えば彼とは対向の性格をしているが、唯一共通している「総じて不器用」という点を踏まえれば、恐らく、この付かず離れずの関係性が、今の僕たちには最適なのだろうと感じている。




僕はそんな彼をかなり愛している。それが伝わっているかどうかは、彼に聞くほかないのだけれど、きっと彼をよく知らない人でも、彼を嫌いになることはない。

彼が他人に執着をしないのは自他共に認めているが、他人に興味が一切ないわけではなく、現にどうしようもないこの僕に対して、明らかな親切を働いてくれていたりする。

そして彼は、きっとそのことに気が付いていない。




「他人には適切なアドバイスができるのに、自分のことはあまり理解できていない」といった理論をよく聞くが、彼はまさにその典型的な例で、それも、彼の心根にある純粋さと、その美しさみたいなものにてんで疎い。


初めは、極端なネガティヴ思考なのかと思って、僕も若干、かける言葉を錯誤していた時期もあったのだが、少しずつ人間の深層心理を突くような話を重ねていくうちに、彼のネガティヴと思われた部分が、単純に、彼自身が自分の良さを認識していないためだと、7年目にして理解できた。




自分で言うのもなんだが、僕は交友関係と人情みたいなものに大変アツいタイプで、僕と言葉を交えてくれるひとりひとりに対して、並々ならぬ有り難さを感じている。

こういうことを正直に言うと、皆決まって「そんな大それたことしてないって」と笑うのだが、彼もご多聞に漏れず、「君それよく言うよね」と真面目な顔で返してくる。

それどころか、「なんでそう思えるの?」と真正面から曇りなき眼で問うてくることすらある。
謙虚とはまた違う、本気で知らない分野の話をされているような顔をするのだ。

僕がそれに対して自分の解釈を告げることで、彼の自己肯定(認知)に繋がるかというと、そういうわけでもないのだろうし、もっとも、僕のこうした考え方は、彼へのエゴイズムに過ぎないのだが、
たまにぽつりと、「俺と話しててもそんなに面白いことないでしょ」と呟いたりするので、そんなわけはないと断言したい。




少々脱線するが、僕は、この歳になっても尚、小学校低学年レベルの友情観を持ち続けていて、会話において、自分の中にある一定のラインを超えた時点で、その相手を「親友」だと思っている。

それが「親友」との共通認識とは限らないので、思わず不安になることもあり、我ながらなかなか幼稚なココロだと感じるが、少なからず彼は僕の親友であるとはっきり言えよう。

そうでなければ、何だというのだ。
他人に関心がないと言いながらも、その他人である僕の良いところも悪いところも、ありのまま受け入れてくれるなんて、優しさあってのことじゃないのだろうか。




彼は自分を、自己主張が苦手だと言う。
無論、一緒に過ごしてきた僕も、それは重々承知だ。
しかし、では芯がないかと言われると、全くそんなことはなく、むしろ頑固なまでのこだわりを持って生きていると思う。


それって、ありきたりなようで案外難しいことで、周りの目を気遣って簡単に流されていく者もいる中で、自分の向き不向きを理解しながら、本質的な事実だけを表明できるのは、何にも代え難い彼ならではの「美学」だと僕は思う。

この美学こそ、僕や彼を生きづらくさせているのも事実なのだろうが、それによって僕らが豊かになっていることもまた事実なのだ。




僕がこうやって何の気なしにベラベラと話してしまうデリカシーの薄さを、彼は否定しない。
僕の特性として、認めてくれている。
そして僕も同様、彼の冷静沈着でロジカルな性格をとても好きでいる。

これまで構築してきた関係性の中で、都度、彼のあたたかみに触れてきたから言えることだ。




あとは彼自身が、それを彼のかけがえのない長所だということに気付いてくれたら、きっと僕らは本物の親友になれるんじゃないかと思う。

いざという時に、確実に手を取り合える仲になれるんじゃないかと。

そしてこの先の未来に、少しでも希望を抱いてもらえるんじゃないかと。



そして彼も、それを望んでくれていたら嬉しいなと、僕はつくづく思う。




不器用な君へ

僕は言葉が上手くないので、脈絡などおかまいなしの文章しか綴れないけれど、

せめて僕が生きているうちは、いつもみたいに、隣で話し相手をしていておくれよ。

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