今日も夜更けに玉ねぎの皮をむく

私はしばしば自分の感情の「どうしてそう思ったか」を深掘りする遊びをする。玉ねぎの皮むきとも人は言う。今日も夜更けに皮をむく。

さて大好きだった元彼のことを考えている。
顔も体も好みじゃないし(ごめん)話はつまんないし(ごめん)私にはよく分からん激務の仕事してたし(ごめん)服装はダサいし(ごめん)高校で運動部入ってないし(私は高校で運動部やってた奴は信頼できるという謎理論を持っている。完全な偏見でほんとごめん)、話も波長も価値観も合わなくて、あんまり、いや全然好みでは無く、出会って一年くらいは全然ピンとこなくてつまんない男だと思っていたのに、いつのまにか自分でも意味が分からないくらい、大好きになっていた。
彼と私の弁明のために一応言うと、あんまり感情を表に出さない人だったけど、たまに楽しそうに笑ってくれるのが嬉しかったとか、私より頭が良い(多分)ところが好きだったとか、チャラついてない素朴な感じが好きとか、そんな理由がある。

どうしてあんなに好きだったのかをずっと考えていたのだけれど、近頃おおむね一つの結論に至った。
思うに私は、彼のことが好きというより、それ以外の全てが嫌だったのかも知れない。

恥を忍んでここに記そう。マジで我ながらドン引きなのだが、週末彼に会いに行って、日曜の夜彼の家から帰るときに毎回べそをかいていた。彼も「別に今生の別れってわけでもあるまいに…」と呆れていた。

その頃の私は生活が大変上手くいっておらず、精神状態が芳しくなかった。彼と一緒にいる土日の2日間が幸せで、うまくいかないお先真っ暗な現実に向き合いたくなくて、幸せな夢から醒めたくなくて泣いていた。車で2時間半くらいの遠距離だったのだが、帰りたくなさすぎてずるずると長居して、深夜に眠い頬をつねりながら帰路についた。

ぼんやりとトンネルの壁が迫ってくるのを見ながら、居眠り運転でトンネルの壁に突っ込んで死ねたらどれだけ幸せかと毎回考えた。私を取り巻く現実との今生の別れにしたいと願っていたわけだ。色んな人に多大な迷惑がかかるし、痛いことは嫌なので結局実行は出来なかったが。
あの頃の私は情けないことに、彼と過ごす時間が、現実逃避になっていた。

その頃書いたnoteがこれ。

https://note.com/nobody_1s_there/n/nf3d7f7105e81

あああ弁明させてください、私ってそんなんじゃないんです、もっと強気でタフで元気なはずなんです。


彼に会ってるときは甘えたで何も出来なくて、挙句帰りたくない〜ってべそかくような最悪の姿を見せてしまったけど、普段はそうじゃないんです…思い出すだけで恥ずかしくて情けなくてのたうち回りたくなる。

自分のライフワークに失敗して、他に打ち込めることが無くなって死にそうだった時に彼のこと好きになったから、例えようもなくたまらなく好きになってしまったのだろう。
自分の恋心を否定するわけではないが、失礼だけど自分の精神状態が正常ならきっとあれほど好きにはならなかったと思う(本当に失礼だな、ごめんね)。

「自分が一人で立って歩けないような時に恋愛をしてもうまくいかないよ」などとどっかの誰かが言っていたが、その通りだなふと思った。
その彼より前の人とお付き合いをしていた時は、その彼が何にも出来ない子だったので、「私が守らなきゃ」と思い彼の衣食住の世話をし、(のちに気付いたが世間ではその男をヒモと呼ぶのだった)自分のライフワークにも全力で精力を注げていて、おかげで業績も出せていた。別れたのはその人の浮気未遂が原因だったのだが、スパッと未練なくスッキリ別れることが出来た。
一方で私がめちゃめちゃ好きになってしまった彼のときは、彼がしっかり者でちゃんとお勤めしていて、私が無力で何も出来なくて、付き合っている時はずっと辛かった。挙句最終的には私が癇癪を起してものすごく最低な別れ方をしてしまって、反省している。
ただ、充実した恋愛をする為にはまず自立しろという理屈は理解できるが、納得はしていない。
寂しさを埋めるためとか、誰かを愛することで自分の価値を見出したいとか、うまくいかない生活を誤魔化したいとか、はたまた性欲を発散したいとか、そういう一人ではどうにもままならないものを解消するのも充実した恋愛と言えるんじゃないかと思うし、それで上手くいっている人も少なからずいる。ていうか大多数の人がそうじゃないの?自立して一人で楽しく生活できていたら、恋人なんて必要としなくなるのでは?

だから、自分が一番辛かった時に、この短い生涯で一番好きな人がいたことは、もしかすると人間として至極当たり前のことだったりするのじゃないだろうか?

ううん、好みでもないのに好きになってしまった理由をこねくり回してどうにか成仏させようとしたのに、腹立たしさや苛立ちややるせなさの皮を一枚ずつ剥き剥き、やっぱりあれは良い恋愛だったという結論にたどり着いてしまった。
ここに書けないような最低なことを沢山したしされたし、人生史上最もはちゃめちゃな体験だったけど、あれは、苦しくて醜くて弱くて最低で、だけど最高の恋愛だった。

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