序文 太陽の下、栄冠は輝かない
序文
夏の全国甲子園大会予選、埼玉県大会の決勝へと向かう前のバス。
OB会の差し入れという名の、強制配布の弁当を取ろうと段ボール箱の中へ手を伸ばす。
「……意地でも差し入れを断る勇気が俺にあれば、こんな後悔はしなかったのかな」
誰に話しかけるでもない。
俺は自嘲気味にそう呟いた。
去年の夏を、それ以降の激動の日々を思い出す。
自分の半身、彼女も去った。
大きな家で独りぼっちになったのは、自分の弁当を差し置いて……。
いや、言い訳はやめよう。
失った大切なものは、もう帰ってこない。
今は前を向いて投げ抜き、約束を果たすことに全てを注ぐしかないんだ。
俺は苦い思いを噛み締め、弁当箱を手に取る――。
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