新建築住宅特集 2020年9月号レビュー

今月は、これからの間取り・キッチン特集。

これから先の住宅のあり方とは何なのか。コロナ禍の現在、都心のオフィス空間の必要性や郊外の働く場所の在り方、地方でテレワークする可能性、ワーケーションなど、職と住宅を取り巻く様々なディスカッションが散見される。
今号の建築実践は、当然ながらもっと前から企画されたものだが、現状に新たな可能性を示唆してくれる多くの建築に勇気付けられる。施主による住宅の意味の拡張と、それらを設計で後押しする建築家のコラボレーションが見られた。

「西村浩/ワークビジョンズ+竹味佑人建築設計室+黒岩建築構造設計事ム所:神水公衆浴場はとても面白いプログラム。これは家ではなく施設である、という事実を伝えてくれるのれんとライティング。小さな規模ながら日常の入浴体験以上の心地よさを提供してくれる空間的操作は、上部からの光と空間の高さ、そして構造体のダイナミックさだろうか。ダイナミックな階高が生み出す2回からの視線の抜けは、住宅部分に快適性を生み出す手法でもあった。

「杉下均+出口佳子/杉下均建築工房:稲沢長堤の家」は、圧巻の土間空間。中なのか外なのかわからない地面の間と呼ばれる空間。リビングダイニングや個室など、用途が決まった空間が住宅内に配されることの限界に対して、これほど用途のない空間は何かの可能性を感じる。これを享受した施主は、きっと既存の住宅が持っている用途とは違う可能性の使い方を示してくれるのだろう。一体どう使うのか興味深い。

「田中亮平/G ARCHITECTS STUDIO:岸家」は、住宅と旅館の空間が逆転していて面白い。母屋と離れの関係の逆転。つまり、住宅としての部分を最小限にして、それ以外を他者を受け入れる場所としている構成で、家族以外の他者が普通に入れる場所が大部分を占める。田舎の大きな家で、こういった構成の逆転が上手なものが多くなると、管理が行き届かなくて空き家になるものが減っていくのかな、と全く違う対象地に思いを馳せながらながら妄想させてもらった。

色々な登場人物との中に、家の本来性があるのかもしれない。
夫婦と子供、親。そして、それ以外の、生活を取り巻く様々な人が訪れる場所。それが本来的な家なのであろう。
集落では、今でも、鍵を閉めずに帰って来たら魚がおいてあったとか、野菜がおいてあったとか当たり前である。人がきたら玄関に座り、来客対応をして、すぐに家の中でお茶が飲める。当たり前に、それらの行為を受容する建築がある。そんな、人を受け入れることができる余地を有するものが、本来的な家なのではないか。他者を受け入れる空間を忘れてしまった現代住宅へのラブレターのような号であった。

他者を受け入れる家のあり方の様々な可能性。

家はもっと、自由で良い。

(教員・佐藤)

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