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建築はこう見る!~建築の見方・楽しみ方

通訳ガイドが知っておくべきテーマには、さまざまなものがあります。
日本の伝統文化である茶道、着物、宗教、美術、工芸、相撲などから、現代のマンガ、アニメ、アートなど幅広い知識が求められます。

その中でも建築は、寺社仏閣や城郭だけではなく、世界的な日本人建築家の近現代建築を見たいという方も多く、人気のテーマとなっています。
最近は、日本でも有名な近現代建築を見て回る「建築ツアー」をよく目にするようになりましたし、テレビでも建築を紹介する番組が増えてきたように思います。

しかし、建築をいざ鑑賞しようとすると、どこに目をつければよいのか、わからない場合が多いのではないでしょうか?

この記事ではそのような建築の見方・楽しみ方について、基本的なポイントを解説します。

建築の見方が変わった体験

私も通訳ガイドになる前は、建築に対する興味・知識は、あまりありませんでした。
2016年に東京・上野公園の「国立西洋美術館」が、近代建築の巨匠ル・コルビュジエの手がけた作品として、世界遺産に登録されたことで、ある通訳案内士団体において、上野公園にある東京国立博物館など、名建築を解説するガイドとなったことがきっかけとなりました。

それからは建築を案内するために、本やネット、ときには建築家など専門家の話を聞いて勉強し、何度も足を運んで実物を見ることを繰り返し、建物に対する理解を深めていきました。
その行動を通して、それらの建築の素晴らしさを理解するとともに、何に注目すればより深い鑑賞体験が得られるか、わかるようになりました。

そして建築に対して見方が変わることで、何気なく見ていた街の景色が違って見えるおもしろさに気づきました。

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国立西洋美術館(竣工:1952年、設計:ル・コルビュジエ)

建築の見方その1:建てられた時代(年代)

建築にもその時代を反映した流行があります。
西洋建築は、パルテノン神殿に代表される、ギリシャ・ローマ時代の建築様式がベースになっています。

そして時代が下るにつれ、ゴシック、ルネサンス、バロック、ネオルネサンス、ネオバロック、ゴシックリバイバルなど、外観が華やかなスタイル(様式)が、それぞれの時代の建築に取り入れられています。

20世紀になると、モダニズム建築と呼ばれるシンプルな建物が主流になります。
そして、コンピューターが設計に使用される現代は、従来では考えられなかった、複雑な形の建物が造られるようになっています。

建物内外の形やさまざまな意匠の装飾や、色使いなどのデザインから、建てられた年代を推測し、その当時の街や人々に思いを馳せることも楽しいことでしょう。
例えば、東京・上野にある「国際子ども図書館」は、明治・昭和・平成の3世代の建築の特徴が、同時に見られるユニークな建物です。

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国立国会図書館 国際子ども図書館
(竣工:1906年、増築:1929年、改修:2002年、ルネサンス様式)

建築の見方その2:材料と構造

建てられた時代から建築を見ることとも関係するのですが、どのような材料・構造で作られているかということが、その外観に大きな影響を及ぼします。

例えば、日本では伝統的に木を組み合わせる木造建築、西洋では石やレンガを積み上げる組積造(そせきぞう)という建築です。
日本でも明治・大正期には、レンガを使用した西洋建築が多く建てられました。「東京駅丸の内駅舎」は、その代表例です。

20世紀以降は工業化の発展により、鉄・ガラス・コンクリートなどの工業材料を使う建物が主流になり、現代では超高層の建物が建てられています。
また、日本では大地震がたびたび発生するため、建物の耐震構造が非常に工夫されています。

そのような点から建築を見ていくと、きっと新たな驚きがあることでしょう。

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東京駅丸の内駅舎
(竣工:1914年・復元改修:2012年、設計:辰野金吾・葛西萬司)

建築の見方その3:建物の種類、そして場所

建物にはその使用目的があり、それによって外観や内部空間のあり方が大きく異なります。建物は使用目的により、住宅、美術館・博物館、図書館、教会、商業施設、行政庁舎などの種類に分類することができます。

また、そのような建物がどうしてその場所(土地)に建てられたのか、その建物の前には何があったのか、建築家がその場所の記憶を建物へどのように反映して設計したのか、といったところも興味深い視座を与えてくれます。

同じ種類の建物同士を、建てられた時代や場所、あるいは建築家など、いろいろな面から比べてみるのも興味深いことでしょう。

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国立新美術館(竣工:2006年、設計:黒川紀章・日本設計共同体)

建築の見方その4:建築家とその建物に関わった人々

建築は、それを建てることに関わった人々の思いが、形になって実現された創作物とも言えるものです。
建物を建てることを発起した人々、その思いを託された建築家たち、建築家の描いた図面をもとに建設に携わった人々、そして建物を舞台に繰り広げられたエピソードの数々。

特に建築家がその建物に込めた思いを、そのデザインから読み解いていくことは、知的なゲームのようでもあり、エキサイティングです。
それら建物を彩るヒューマンストーリーは、建築そのものの価値にも劣らず、建物をより魅力的なものとしています。

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国立代々木競技場 第一体育館(竣工:1964年、設計:丹下健三)

おわりに

いかがでしたでしょうか?
建築を見ることは、絵画などのアート作品の鑑賞にも通じるところがあります。
基本的な知識の有無によって、その観賞体験には大きな違いが出てくるのではないでしょうか?

今では一般向けに、名建築の見どころを紹介する本や、ネットの記事が数多くあるので、それらを事前にチェックし、お目当ての建物を見に行くとよいでしょう。
今後の記事では、名建築について、上記のようなポイントを中心に解説していきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! これからもご愛読いただけると嬉しいです!