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【5.4福島ダービー】歴史的一戦で繰り広げられた「駒大同期対決」を振り返る

2022年5月4日に行われたJリーグ初の「福島ダービー」は歴史的な一戦となった。
福島県民にとっても、私にとっても。

今回は、福島ダービーの本史ではなく、
ちょっとしたサイドストーリーに触れたいと思う。

福島ユナイテッドFCでエースストライカーとして活躍するFW高橋潤哉。
いわきFCの最終ラインに君臨し、チームの屋台骨となるDF星キョーワァン。

試合当日、彼らは、彼らしかできない戦い方で共に90分間を戦い抜いた。
その様子について「私にしかできない視点」で振り返ろうと思う。

○駒澤大学の同期対決

高橋と星は共に駒澤大学体育会サッカー部出身の同級生。星は1年次から、高橋は2年次からトップチームに定着すると、攻守の要として大学を代表する選手となった。2年次にはUー20全日本大学選抜の一員として「KBZ BANK CUP」の優勝に貢献するなど、各年選抜経験も豊富。駒澤大学はおろか、大学サッカー界でも一目を引いた存在である。

強靭なフィジカルと運動量がモノをいう駒大伝統のサッカーに対して彼ら2人のプレースタイルは恐ろしくマッチしていて、チームへの適応度や貢献度は圧倒的。どんなFWがきても毅然と立ちはだかる星のリーダーシップと、エースとして屈強なDFを相手にゴールで多くの勝利を生み出した高橋がもたらした功績は、近年の駒澤大学では屈指のものだ。

2年次には降格圏に瀕したチームの中で1年間レギュラーの座を守り抜き、3年次は駒大として8年ぶりとなるタイトルである東京都サッカートーナメント優勝、インカレ準優勝の快進撃を柱として支えた。星はインカレベストDF受賞、高橋は公式戦2桁得点&全日本大学選抜への選出など、個々の飛躍を遂げた年でもあった。


一方で、最上級生となった4年次は苦しんだのも事実。主将に就任した星は夏場に負った負傷の影響で欠場が増え、エースの高橋にはマークが集中。フィニッシャーというよりはチャンスメークを担うようになり、得点も少なくなった。思うようなパフォーマンスが共に発揮できない1年だった。柱である2人への依存度が高かったチームも後半戦10試合勝ちなしとなり、ラストイヤーは消化不良だったに違いない。当時のコメントにおいても、星は「主将として悩んだ1年だった」高橋も「全然チームに貢献できなかった」と苦悩を語っている。

○Side 福島ダービー 贔屓目なしの「高橋VS星」が生命線となる試合展開に

この記事を書いている手前、高橋潤哉と星キョーワァンに焦点が当たるものの、私の目の前で繰り広げられた彼らのバトルが試合の流れを明らかに左右していた。福島は2列目の森晃太、延祐太に両サイドの田中康介と北村椋太を加えて人数をかけたオフェンスを展開。ボールを支配しながらいかにゴールゲッターの高橋潤哉に繋ぐか、というゲームメイクだったように思う。

一方のいわきFC。福島が前に重心を置いた攻撃を展開しているのに対して、CBの星、家泉怜依が跳ね返して、素早くカウンターにつなげる構成。守備ブロックも素早く展開していたことから、相手に付け入る隙を与えなかった。

前半はいわきの守備ブロックに対してイニシアティブを持って攻め入った福島だが、フィニッシュの精度を欠くもどかしい展開に。対するいわき攻撃陣は少ないチャンスから素早いサイドアタックを仕掛けたが、序盤に挙げた決定機以降目立ったシーンは少ない。互いにフィニッシュ時の守備を締めた結果スコアレスで折り返すこととなった。

後半も福島がボールを支配したものの、徐々にいわきの速攻に押し込まれていく。78分にはGK山本海人のビッグセーブで大ピンチを凌いだものの、その直後のCKから失点を献上した。いわきは多くの時間で守勢に回りながら、セットプレーから途中出場の有田稜が仕留める試合巧者ぶりを魅せた。

福島は「なぜボールを保持しながらもゴールが奪えなかったのか」
いわきは「いかにして相手のチャンスの芽を積み、虎の子の一点を守り切ったのか」
結論として、両チームの生命線が高橋潤哉VS星キョーワァンのマッチアップに委ねられたわけだ。

ここからは一度、両者のプレーにフォーカスして試合の分かれ目を詳細に振り返っていく。

○Side:高橋潤哉「チャンスの起点・終点を握る」万能型FWに

育成組織で過ごしたモンテディオ山形にてプロキャリアをスタートした高橋は、2年目、3年目とレンタルにて実践経験を積んでいる。昨年は沼津にて、本職ではないサイドハーフで全試合にスタメン出場を果たした。実際、昨年までのプレーは高橋の特徴であるフィジカルとシュートセンスを活かしきれなかったように見えていた。チャンスメークやサイドの突破に労力を投じ、ゴール前での自由度は限られていたように思う。

ただ、今季の福島ではCFでの起用が主戦場となり、目が覚めたかのようにゴールを量産。直近の天皇杯1回戦ではノースアジア大学を相手に4得点を荒稼ぎした。

今季の高橋の特徴として、敵陣浅い位置でボールを受けた際に豊富な選択肢を選べるようになっている。ドリブルで持ち上がるケースもあれば、サイドを駆け上がった味方へ絶妙なパスを展開。気づけばゴール前に進入し、フィニッシュワークに絡む「起点と終点」を担っているのだ。体躯を生かしたパワフルさと、展開力や周りを生かすサッカーIQは明らかに大学時代のそれとは比較にならない。

いわき戦でもその役割は顕著で、高橋が動くとチームが一気にスイッチをONにするいわば“トリガー”のポジションを担っていた。裏へ走り出せば中盤からロブパスが飛び、相手を背負いながら受ければワイドの選手たちが一気にスピードアップする高橋主軸の戦術で主導権を握ったのだ。

相手のマークが集中する点はその能力の高さから致し方ないが、ワンタッチでいなす軽やかさと簡単には倒れないフィジカルがよりプレーの幅を広げている。孤軍奮闘だった大学時代とは裏腹に「ここに預ければ心配ない」という安心感すら感じられたのだ。

○Side:星キョーワァン「絶対に負けられない生き様」を心技体で魅せた

相手のCFである高橋に軸を置いた福島を待ち受けたのが、今季からいわきのディフェンスリーダーに君臨する星キョーワァン。その人である。

星も横浜FCが保有権を持つが、2年目以降は武者修行としてレンタル移籍。昨年は松本山雅FCでコンスタントに出場機会を得たが、チームのJ3降格を経験している。ただ、J3に初上陸した星はもはや敵なしと言っても過言ではない。今季の複数失点はわずか1度と、安定感を誇る最終ラインを牽引する存在だ。

そんな彼の持ち味はパワー・スピードを生かした対人能力の強さであり、マークマンを徹底的に封じることができる。そんな特徴をこの試合でも間違いなく発揮したわけだが、初っ端から「戦闘モード全開」だった。

星が徹底的にマークした選手こそ相手エースの高橋であり、空中戦のファーストコンタクトからその巨体を吹っ飛ばすハードパンチをかました。まさに戦闘開始の合図だった。

その後も福島の攻撃の終着点を担った高橋に対し、いわきのディフェンスリーダーとして仕事をさせなかった。対人戦だけではなく、気の利いたポジショニングや素早いフォローで最終ラインの安定感をもたらしていたのも事実。この試合のMVPと言っても過言ではないだろう。

パワーが目立つ星だが、的確なポジショニングとスプリントのスピードも一級品。後半に迎えたピンチも、ゴール前に素早く入ったことで相手のシュートコースを限定した。終盤チームが攻勢をかけたタイミングでは雄叫びを上げまくって会場を鼓舞。チームに欠かせない元気印の役割も担った。

個人的には、最終ラインから放たれるフィードも前線を助けているように感じた。ディフェンスラインの裏にロブパスを放り込むことで、相手のディフェンスラインをさげて一気に押し込む飛び道具としても機能している。ポゼッションを握られる中でより目立った点だろう。

終わってみればクリーンシート。チームの勝利を手にする上場のパフォーマンスの中で、自ら相手を制圧することはもちろん、味方のフォローやコーチングも事欠かない「リーダー」としての資質を十分に発揮した。加入数ヶ月とは思えない存在感はピッチ上で随一だろう。

○Side:彼らが日本サッカーの最前線を走るためには

試合後、真っ先に集まって握手を交わす両者。かけがえのない90分を過ごさせてもらった。笑顔でコミュニケーションを交わすが、星の晴れやかな表情に対して高橋は悔しさを滲ませていたように見えた。そんなところは昔から変わってない。

最も変わったのは、互いがチームを正しく引っ張る存在にあること。この一戦こそいわきに軍配が上がったものの、2人は明らかにJ3リーグを牽引する名プレーヤーである。高橋は得点ランキングトップタイの成績を挙げれば、星は昇格圏に食い込むチームで試合出場以上の存在感を放っている。

彼らがもっとハイレベルを目指すのであれば、まずは「所属元であるチームに計算できる戦力として戻る」が喫緊の目標となるだろう。

毎年CFの顔ぶれが変わるモンテディオ山形にとって
高橋潤哉は定着できるストライカーなのか?

星キョーワァンはビルドアップの精度が要求される
横浜FCのプレースタイルの中で自らの特徴を活かせるのか?

この問いに対して一発回答、いや、この一年を通じて回答をしていく必要があるはずだ。上述の中で理解してもらえることを願うが、その片鱗は着実に見せている。お互いの生き様をかけた一戦で先々への希望すら見せてくれたのだった。

現在のチーム順位から考えれば、上位争いというセンシティブな戦いに身を投じる1年間が彼らをより逞しく、強く育ててくれるはず。

またこの対決をより高いレギュレーションで、
青いユニフォームを来た彼らの共闘に、
私は出会いたいと思う。

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