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日本サッカーに風穴を開けた“駒大スタイル“ インカレ優勝までの4年間を振り返る

マジでやってのけた。マジで日本一になった。
駒澤大学サッカー部がインカレ優勝・日本一になったんだ。

信じてたけど、いざ試合が終わるまではヒヤヒヤの連続。
ただ、今残っている事実は「インカレ優勝は駒澤大学」これに尽きる。

1年次から優秀な選手が次々と頭角を表した世代だったし、
2年生の時は新人戦で日本一になった。
3年生はコロナ禍に巻き込まれながら幹をガッツリ太くして
4年生、最後にインカレ優勝。

「キック&ラッシュ」だの、「縦ポン」だの、「時代遅れ」だの、
駒大のプレースタイルを揶揄してよく言われたもんだ。
この日本一でポゼッション優勢の現代サッカーに風穴が開いた気がした。

数行で表すとこんな感じだったが、
彼らの4年間を語る最後のチャンスなので、余すことなく書き留めていく。

○2018 ー平成最後に風が吹いたー

いわば黄金世代である4年生が駒大の門を叩いた2018年。それまでの数年は関東1部リーグ中位に止まっていた駒大だったが、実はこの年にも駒大革命が起きていた。

最上級生にMF中原輝(現・C大阪)、DF伊勢渉(現・奈良クラブ)、FW安藤翼(現・SC相模原)らを擁し、3年生にはDF星キョーワァン(現・いわきFC)、2年生にはMF薬真寺孝弥(現・FCティアモ枚方)らセンターラインを支えるタレントが揃っていた。

春先からチームは連勝街道をまっしぐら、東京都サッカートーナメントで優勝→天皇杯へ出場し、一時は関東リーグ首位に立った時もあった。総理大臣杯予選であるアミノバイタルカップでは3位、冬のインカレでも準優勝を収めるなどの好成績と言える。駒大ではたびたび掲げられる「日本サッカーに風穴を開ける」というスローガンが定着したのもこの年だった。まさに、風を吹かせるほどの勢いと安定感があった世代である。

現在の4年生は当時1年生。MF荒木駿太、DF猪俣主真、FW宮崎鴻がいち早くトップチームで出場機会を得ると、冬のインカレではDF桧山悠也が全試合にスタメン出場する活躍を見せた。例年、駒大サッカーをこなしてトップの試合に絡むまでには時間がかかるものの、この年には計7人がトップチームデビューを果たしている。

最上級生の薫陶を受けながら、荒木、猪俣、桧山がいち早くチームの主軸に定着。
その他の選手もトップチームのすぐ下のカテゴリーでプレーする選手が多かったため、
大学サッカーのレベル感を肌で感じることができたであろう。実際に見ている立場でも、フィジカル・テクニックともにすでに順応できていた感覚がある。荒削りながらも個々が秀でた能力で試合を決めることも多かった。

○2019 ー積み重ねた忍耐と自信ー

前年に比べ、この年は苦しい年だったことは否めない。主将の星、エースのFW高橋潤哉(現・福島ユナイテッドFC)ら要所にハイレベルな選手を配置できたものの、メンバーの多くは当時の3年生以下で構成されることが多い台所事情に。怪我人も多かった中で、2年生はMF江﨑巧朗、FW土信田悠生らが特に出場機会を伸ばした。

前半戦はリーグ戦5戦負けなしなど勢いに乗り、アミノバイタルカップでは2年連続の3位となった。一方で、後半戦は一転してリーグ10戦勝ちなしなど、夏場の貯金を切り崩すことに。インカレ出場権も逃してしまった。

その一方で、この年の最上級生たちが残した功績も大きい。
当時の他大学には三笘薫(現・ユニオンサンジロワーズ)、旗手怜央(現・セルティック)、松崎快(現・浦和レッズ)ら大学サッカー界を代表する顔ぶれが並んだ。個の実力でこそ差がついたものの、チーム力で対等に渡り歩く「駒大サッカーを徹底すること」の価値を証明した。

辛くも1部残留を果たし、リーグ戦終了後に迎えた新人戦。
2年生になった黄金世代がその才能の片鱗を見せる。この頃からキャプテンマークを巻いた猪俣を筆頭に、予選リーグから圧倒的な試合運びで決勝に進出。
決勝戦では高校年代のタレントが集まっていた桐蔭横浜大を相手に4−1と圧勝を収めた。ここで彼らも自信をつけ「4年になったらまた日本一に戻ってくる」と口々に誓っていた。

ここで忘れてはいけないことが一つ。新人戦のレギュレーションは、地区予選をトップチームの関東リーグと並行して行われる。なので、トップに帯同していたメンバーはリーグ中断期間以外新人戦には絡めないのだ。フルメンバーではない予選を勝ち進まないといけなかっただけに、MF中村一貴、MF宮嵜龍飛、DF山田虎之介、DF岩本蓮太らが予選を勝ち抜いたからこそ全国への扉が開かれている。

ゆえに「この世代なら勝てる」と思える総合力の土台を作った1年間だったはずだ。

○2020 ー熟成された深井式ー

いよいよ上級生になったこの年。4年生ではMF薬真寺孝弥、DF真下瑞都ら前年までに出場機会を伸ばした経験豊富なメンバーが並んでいた。さらに、入閣2年目の深井正樹コーチの指導も根付き始め、ロングボールを蹴り込むだけではなく、時には地上で小気味よくパスをつなぐアクセントを加えた“ニュー駒大スタイル”定着元年ともいえよう。個々の技術も高かったため、ハイテンポに攻撃に転じることができるようになった。実際、主将の薬真寺がボランチながら得点王になるなど前年の課題だった攻撃力が徐々に身についていたことも伺える。

しかし、この年は新型ウイルスの感染が急拡大。駒大サッカー部もそのあおりを受けることとなった。10月にリーグ戦の順天堂大戦を5−2と快勝した直後、学生寮内でクラスターが発生。約1か月の活動停止を余儀なくされた。順天堂大戦の快勝で本格的に優勝戦線に絡み始めていただけに、痛い離脱だった。延期になった試合が多かったため、全体のスケジュール終了後も優勝の可能性を残しながらリーグ戦をこなした。

とはいえ、荒木が関東リーグアシスト王に輝いたこと、それまでトップチームで長く連続性のあるプレーができていなかった島崎、FW宮崎鴻が大きくプレータイムを伸ばした収穫は大きかった。土信田も得点感覚を磨き、猪俣、江﨑は荒削りだった部分をほぼなくしてトップレベルの選手へ成長した。すでにチームの核を担う選手が多く、この1年間の戦いが及ぼした影響は大きかった。

上級生としての自覚と新スタイルを携え、ついに最終学年となる。

○各年度成績と主な最上級生一覧

○2021 ー横綱駒大いざ行かんー

黄金世代ラストイヤーの号砲は、明治大学撃破からスタートしたといえよう。東京都トーナメントで3−2の撃ち合いを演じ、ここ数年大敗が続いていた名門相手に競り勝った。爆発的連勝こそ少ないチームだったものの、大崩れすることなく白星を積み上げるチームに成熟した。

新たに3バックにシステムを変更し、当初は定着していない布陣の虚をつかれた失点が多かった。ただ、なんといっても圧倒的な攻撃力があればそんなことは関係ない。セカンドトップに荒木、最前線に土信田、宮崎を並べたロマンあふれる3トップが関東で大暴れした。

春先の東京都トーナメントを3年ぶりに優勝し、天皇杯へ出場。惜しくも初戦でSC相模原に敗れたものの、空中戦・地上戦ともに対等な戦いを演じる完成度の高さを見せつけた。大舞台の経験を積んだこの頃には3バックシステムが定着し、サイドからの鋭いクロスと前線の高さ・強さ・巧さが噛み合うようになってきた。

その一方で、夏頃は苦しい戦いを強いられる。アミノバイタルカップを辛くも6位で突破し、総理大臣杯は初戦で新潟医療福祉大に0−2の敗北。トーナメントに強く、他地方との戦いはこれまで相性が良かったからこそショッキングな敗戦となってしまった。この時期は持ち前のスピード感や走力が継続しきれていない印象で、自分たちのスタイルを貫ききれないもどかしさがあったように見えた。

ただ、敗戦の息つく間もなく再開した関東リーグでは安定感を取り戻し、今一度靴紐を締め直した。再開初戦の拓大戦は宮崎のハットトリックなど大量6得点を奪う力技で乗り切ると、荒木、土信田、宮崎の反則級3トップが得点の量産体制に突入。この3人で完結する攻撃スタイルを資本に駒大スタイルを貫き続けた。まさに貫きまくってた。

特に、リーグ戦22節の明大戦、延期分の国士舘大戦、筑波大戦の3連勝は圧巻。優勝こそ勝点1差で逃したものの、ここまで優勝に近づいたことはなかった。

土信田が毎試合点をとってくれるので、守勢に回る時間帯も簡単に乗り切れた。守備では猪俣、相澤佑哉、小針宏太郎の3バックが安定感を増したことで不用意な失点を減らしたのも大きかった。対人の強さと高精度のキックを各人が持っているため、ビルドアップの精度がぐんと向上している。最前線では土信田と宮崎が圧倒的フィジカルで制空権を握っていて、江﨑、宮嵜龍飛にほぼフリーマンかつ縦横無尽に走りまくる荒木を加えた3人でセカンドボールを回収。素早くウイングバックの桧山、中村一貴に繋ぐ形は教科書通りの駒大サッカーだった。スピードも精度も高いため、各大学の守備陣を蹂躙する横綱相撲を展開した。

○2021FINAL ー日本サッカーに風穴が開いたー

徐々に完成形が見えていたなかで、後は日本一になるだけ。それだけだった。彼らが得ていなかったものは大学カテゴリでの主要タイトルだけ。

初戦の東海学園大戦は4−1で快勝。駒大トーナメントあるある「初戦では攻めながら得点が奪えない」という形を発動したものの終わってみれば圧倒。余裕すら伺える面構えはすでに勝者のメンタリティを携えていた。

続く筑波大戦も土信田の芸術的なゴールを守り切った。最後は猛攻を仕掛ける筑波大の前に押し込まれたものの、ゴール側の粘り強さでゴールを割らせなかった。ここまであえて名前を挙げてこなかったGK松本瞬も上り調子になっていた。安定したキックやハイボールの処理はもちろん、スーパーセーブも徐々に増えてきて、いわゆる「当たっているGK」として存在感をましていた。

準決勝は明大との1戦。相手は今季公式戦で3敗しているからこそ、意気込みがすごかった。特にFW藤原悠汰はすごかった。速いし上手いし戦うし。ただ、それを上回ったのは中村一貴の粘り強さだったし、荒木のゴールはうますぎた。今季ここまでゴールが奪えていなかった桧山がダイビングヘッドで決めたのも素晴らしかったし、それまでの2戦でもどかしい表情を浮かべてた宮崎鴻がパワー&パワーで押し込んだのは圧巻。

もうフロアは温まりまくってた。優勝まであと一つ。
そんな中迎えた決勝戦。阪南大強すぎるだろ。なんなんあれ。
先制パンチくらったやないかい。空中戦強すぎだろセンターバック。

少し取り乱してしまった。これまで空中戦ほぼ負けなしだった駒大FWたちが思ったように競り勝てないので、相手にペースを握られていたのは否めなかった。しかし、そんな閉塞感を晴らしたのもスーパーエース・土信田悠生でした。1点目は芸術的すぎた。江﨑が性格無比なロングボールを蹴り込んで、荒木が収めてピンポイントクロス。ニアに突っ込んだ土信田がヘディングでねじ込む理想的な流れだった。

テレビ朝日の中継カメラの前、サラサラヘアーのイケメンが涼しい顔して通り過ぎる姿がカッコ良すぎたのは置いておいても、駒大サッカーの最終楽章の1番サビに相応しいハイライトシーンである。

さあ後半、相手の奇襲に遭う。おっとっと。ペナルティエリア前からの鋭いミドルシュートが駒大ゴールを襲った。松本も触れたものの、惜しくもゴールラインを割ってしまった。

ただ、雰囲気として「1点がなんだ」という空気が流れていたのも事実。速攻でリズムを取り返す2番サビは、超伝統のセットプレーからのゴールだった。右のCKから荒木が外巻きのボールを入れると、相手GKが猛然とボールを掻き出しにきたものの、宮崎の強さが上回ってヘディングゴール。ベンチに叫びながら突っ込んでくる大型FWの姿はまさに猛牛のようだった。

ここで秋田監督勝負に出る。この大会、スタメンの選手たちがほとんどプレーし続けて終盤に数枚を入れ替えて試合を締める流れが鉄板だった。しかし、この試合は66分に島崎とDF會澤海斗を投入した。名将の采配が光ったこの交代、最終ラインに入った會澤は持ち前の空中戦の強さで相手の攻撃の目を摘んでいた。

そして真打登場・島崎の決勝弾が生まれる。左サイドの敵陣中央から小針がアバウトなロングボールを蹴り込むと、ゴール前で土信田、宮崎が相手を引きつけた。ファーサイドに流れたボールをこの日の主役・島崎が流し込んだところで大サビを迎えたゴール前三重奏。ここで駒大の勝利はほぼ決まった。

1点目は新駒大スタイルを象徴するサイドからの速い攻撃、2点目は伝統的なセットプレーからの力技。最後はチーム全体で繋いだボールを、今シーズン怪我の影響もあって苦しんだ島崎が流し込む。こんな美しい試合はおそらく滅多に見られるものじゃない。「チームのために戦う」駒澤大学が掲げてきた形が美しく輝いた瞬間だった。

そして待ちに待ったタイムアップ。これで決まった。日本一。

みんな泣いてた。僕も人目をはばからず大号泣してた。秋田監督がインタビューで「ありがとうと言いたい」言った瞬間に涙腺大崩壊。普段は勝っても「こんなもんじゃないっすかね」と淡々と語る名将の笑顔を見れて、こんなに嬉しいことはない。

2021年12月25日、駒大に関わるすべての人に捧ぐ最高のクリスマスプレゼントだった。

○結びに

この世代の4年間を追うことができたこと、何よりの幸せである。
入学した時からキラキラ輝いていた代が、最後に日本一を果たしたこと。
これが大学スポーツ、学生スポーツであるということを改めて感じた。

「チームのために戦う」誰もがそういう。サッカーが上手いことが正解なのか。ゴールをたくさんとることが正解なのか。もちろん形はそれぞれだが、駒澤大学のサッカーを見ればその正解の一つが見えて来る。

あと一歩足を出して体を張る。きつい場面でもチームメイトを楽にするためにスライディングして滑り込む。ゴール前で相手にギャンギャンに詰め寄られても少しだけ高く飛ぶ。ゴールが決まったらチーム全員で喜ぶ。勝ったら喜びを共有する。

見ていて清々しいサッカー部だった。

特に思い入れが多い代、彼ら一人ひとりに改めて言葉を送りたい。
本当にありがとう。

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