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お酒を飲まない訳。

 最近の若者が、お酒を飲まないように、私もお酒を飲まない。(若者じゃないけど)アルコールの分解能力が低く、視野が狭くなり、耳が遠くなり、全てが塞がれた感覚になるからだ。いやしかし、少し前までは無理矢理飲んでいた時期もあって、それなりに楽しく酔う事もあった。その場の雰囲気も好きだった。継続して飲んでいると少しは身体のほうも耐性が出来て、今よりは飲めていたように思う。

 以前、ある街で当時好きだった人(何で好きだったのかは今だによくわからない。どうしたんだろうか)と飲んで、そのあとに何を思ったのかその人は私の腕を掴んだかと思うと全速力でその街を走り出した。

 真夜中の小さな市内を、大きな神社のある参道付近を腕を掴まれたまま、ぐるぐる走った。私は立っていられないほど目が回り、そのあとに地面に座り込んで結局どうやってタクシーに乗り込んだのか、覚えていない。

 運転手さんに「大丈夫ですか?止まらなくて?行っていいんですかね?」と確認された。私は「行って下さい」と言った。運転手さんが何故そんな事を言ったのか、その時には判断出来なかったのだが、追いかけてきたその相手の姿が窓に一瞬映ったかと思うと、次第に小さく小さくなるのを、タクシーの窓からぼんやり眺めていた。

 それから私は、人生の色んな場面を素面で記憶しながらすごしたいと決意した。
 あの日の出来事は忘れたくても、身体的な辛さと惨めさが滲んでトラウマ的に忘れられなくなってしまった。

 きっとあの人は、小さな頃に鬼ごっこをしなかったから、今頃したくなったんだろう。大人になって、鬼ごっこがしたくなってしまったんだ、かわいそうに。そう思う事にした。

 走りながら、通り過ぎた駅の構内や神社付近の深い緑色を思い出す。寅さんの映画を観たあとだったから一月。寒い時期だった。マフラーをしていた。

 ああ、細かい映像ばかりが浮かんでくる。でもいつかまた楽しくお酒を飲んでハッピーな気分になりたいものだ。その頃には私も、楽しく面白くなっているはずだ。そう信じる。

今はお茶が好きなのさ。


 

#飲む #飲めない#走る#鬼ごっこ

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