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運転寿命がのび太第五話

#創作大賞2024   #ビジネス部門

#運転免許 #免許返納 #踏み間違い事故 #運転寿命 #親の運転心配

第五話 ドラモニ開発秘話

ドラモニのヤサシ

 「私、ドライブモニタ、略称ドラモニの『ヤサシ』です。皆さんの運転を常に監視して危ない数値となれば、直ちに警告を出します。特に右足のペダル切り替えには厳しいですよ。でも左足ブレーキに挑戦する人には優しく見守るので、私の名前は二刀流の武蔵をもじって『ヤサシ』なんです。
ペダルには、どちらのペダルか識別信号がないので、デスプレイにペダルの動作表示と切り替えスピードを表示します。ピンチの場面で表示をチラリと見るだけで、踏み間違いを修正できます。いや、出来るかな?
そして、切り替えのスピードには厳しいですよ。
 運転中の着座姿勢は、『楽あれば苦あり』なのですね。アクセルペダルの押込み力は約10N、ブレーキペダルは約30Nですが、足首だけで維持出来ないので、骨盤以下の腿からふくらはぎにかけての大腿二頭筋で支えます。この押しっぱなしの継続は、疲労そのものなんですよ。
同じ力をズーッと継続するのは、ロボットには平気ですが、人間にはとても辛い疲労の元になります。
これに加え、着座姿勢では、足裏の圧力センサーに重力がかかりません。その結果、交感神経のスイッチが入らず、二足歩行に欠かせない、脚部静脈流の上昇が弱まります。つまり、疲労する骨格筋への燃料供給が滞ります。これは、長時間座りっぱなしで起きるむくみや、歩行障害でエコノミー症候群といって有名ですね。それでますます疲労します。
 運転中の着座姿勢で、右足は『疲労』と血流低下で『充電不足』のダブルピンチに晒されています。
そこで危機的状況に直面すると、骨格筋の一部が収縮を解除出来ずに硬直します。事故ります。
そこで、ドラモニでは、独自の血流センサーを開発して、運転者のふくらはぎに巻き付け、血流を測定し、疲労度を推定します。
デスプレイにはこれも表示しますから、70%を切ったら、充電しましょう。骨格筋はスマホの電池と同じ様に充電しないと動かないのですよ。70%を切ったら、『ハイ、運転ヤメー!次のコンビニに入りなさい。次のサービスエリアに入りなさい。ハイ!スクワット30回やりましょう。』と指導します。
本当に、運転中の着座姿勢は、楽なようで地獄なのです。若くない人には応えますね。
 私、デスプレイの形ですけど、教習所の教官と思って下さい。とても優しく指導しますョ。付いてこれるかな。イッヒッヒ。」

悪魔の1秒降臨です。

 NHKで放送している「魔改造の夜」が大好きで良く見ています。
この番組では、何時もは3つのグループが悪魔的改造を施したロボット達を駆使して、夜な夜な得意技を競うのですが、競技に負けて悔し涙を流す若い技術者たちを観ていると、日本の物造りの未来も、決して捨てたものではないと、感動しています。あの、「悪魔の降臨です」のお言葉には何時もゾクッとさせられます。
 今回は、一捻りした架空の実況放送を演出してみました。夜な夜なならぬ、今日は昼間の教習コースで、恐ろしい「悪魔の1秒」に遭遇し、破滅を回避できるかの競技なのです。
題して「悪魔の1秒降臨です」

 今回は、国交省が新車への義務付けを計画している、踏み間違い防止装置が実際にどんな動きををするのか、そしてデジタル操作学会が推薦する、デジタル操作と競って、ピシリと止める事が出来るのか、競う事になっています。
 舞台は、先日デジタル派とアナログ派が競った、さいたま市の新しい免許試験場です。前回同様、2つのコースで競います。3社のメーカーが参加しています。
いよいよテレビの中継が始まりました。
まずは、3社の参加社のうち、T社の技術紹介です。
 T社は3つの機能をアピールしていますが、1つ目の障害物への衝突被害軽減をサポートと、2つ目のバックで速度が出すぎないようにサポートは、比較が難しいので、3つ目の低速走行時の急加速回避をサポートに注目します。これは、低速走行(前進)時にアクセルを速く強く踏んでしまったとき加速を抑制し、 衝突被害を軽減します。
N社とH社においても、強く踏んだときの急加速を抑制する効果を強調しています。

 2つの60mコースは前回同様10m毎に歩道に見立てた、段差プレートが固定されています。
右のコースには既にT社のテストカーがスタンバイしています。左コースには前回同様、D1さんが教習車でスタンバイしています。

 それでは、「悪魔の1秒降臨です」
中継アナ 「2台がスタートしました。1段目を通過して、D1車は停止して再スタートしました。T車は止まりません。加速と減速を繰り返していますが。あっ、3段目では止まりました。流石にブレーキを使用した模様です。良く分からない動きで終わってしまいました。次はN車ですね。」

 右にN車、左にD2車がスタンバイです。
それでは、「悪魔の1秒降臨です」
中継アナ 「2台がスタートしました。1段目を通過して、D2車は停止して再スタートしました。N車はやっぱり止まりません。加速と減速を繰り返していますが、結局止まらずに行ってしまいました。

 右にH車、左にD3車がスタンバイです。
それでは、「悪魔の1秒降臨です」
中継アナ 「2台がスタートしました。1段目を通過して、D3車は停止して再スタートしました。H車はやっぱり止まりません。加速と減速を繰り返していますが、結局止まらずに行ってしまいました。

 結果の発表です。
D1車は停車までの平均時間0.8秒距離0.7m、T車は一度停車1.2秒2.3mとなりました。

D2車は停車までの平均時間0.9秒距離1.0m、N車は停車せず。記録無しとなりました。

D3車は停車までの平均時間0.8秒距離1.0m、H車は停車せず。記録無しとなりました。

 記録についての各社見解です。
T社。
今回の実験は、急停止を競うものではなく、アクセルで急加速した時、アクセルの動きを監視してクリープ状態に戻せるか否かのテストです。この機能は上手く作動していました。データの回収には手間がかかりますので、ドラモニの様に直ぐには見える化出来ません。

N社。
踏み間違いでアクセルを強く踏んだ時は、クリープに戻していましたから正常に動作しています。データは直ぐには出ません。

H社。
暴走はしませんでしたから、装置は正常動作しています。今回は前方の障害物がありませんので、前方のセンサーは停止していました。それで減速に時間がかかったものと思われます。

 このコンテストを主催した、デジタル推進学会の見解です。
今回、デジタル操作派と、車メーカーが用意した踏み間違い防止装置とのタッグマッチの結果、非常に重要なポイントを指摘する事ができます。
 その第一は、メーカーの装置においては、あくまでもアクセル操作に拘り、ブレーキを使用した、停止を目的とするのではなく、エンジンへのアクセル信号を遮断する手法を選択しています。そのため、上手く動作しても、クリープ速度で進行します。歩道の歩行者は自力で逃げなければなりません。恐怖におののいて棒立ちしていると、ユックリと弾かれます。
 その第二は、ブレーキペダルは、手付かず足付かずで放置されています。なんとした事か。左足もまた無視され、無用の長物として蔑視されています。左足でブレーキを踏めば人の命が助かるのに。
 その第三は、もし新車への義務付けが実行されるのであれば、強く踏まれた時のアラーム表示だけでなく、日常的にアクセルとブレーキのペダル表示も義務付けるべきです。そしてドラモニも。防止装置の動作は、運転者には通知されません。どのタイミングでどんな強さで踏み、どの様に走ったか、データで見るにはPCを繋いで面倒な操作が必要な様子です。
 その第四は、アクセル信号を遮断するだけなら、大きな非常停止ボタンを設置するほうが手っ取り早いのではないかと提案します。火災報知器のボタンを想像しましょう。このボタンを押すと、アクセル信号が遮断され、同時にブレーキ信号を送ればいいのです。緊急停止する筈です。日常的に、見通しの良い直線道路で、前後に車のいないとき、ハザードを付けながら非常停止ボタンを試験します。どんな動きになるか経験しておけば、非常時に対応出来ます。

フィードバックの理論

 ペダルの動作表示が設置されていて、「悪魔の1秒」降臨の際に、アクセルの青表示がチラッと目に入れば、「オットヤバイ!」と気が付いて修正出来るのではないか。専門書によれば、視覚情報の認識には時間を要するので、間に合わないかもしれません。でも日頃、踏み込む前に、チラッと確認する習慣を付ければどうでしょうか。
 ペダル表示の技術は初歩的なものです。ジジイのDIYでも可能でした。世界に車を売っている大メーカーが何故こんな初歩的機能を無視しているのでしょうか。それは、国交省の安全基準に無いからです。重箱の隅の試験データには厳しく、基本のペダル情報フィードバックによる安全策が抜けています。国交省のボケ具合いは、前例踏襲に拘る硬直した思考と同様、まるで、悪魔の1秒に魅入られ、破滅に向かってアクセルを更に踏み込むパニック運転者の姿そのものです。

 フィードバックとは、目的とする手足の動きについて、各手足の感触センサーの感触信号を意味し、これを受けて、目的の動きに修正していく、一連の運動修正動作を言います。工業用ロボットでは、この技術の優劣が商品価値の要です。
 人間の骨格筋の場合は、大脳の運動野が大まかな運動指令を出すと、介在ニューロンが現場監督的に骨格筋に一斉指令を出し、小脳が多数の神経網を駆使してフィードバック信号をやり取りして細かな運動の修正をしていきます。

理論的根拠として、
『メカ屋のための脳科学入門
高橋宏知著 日刊工業新聞社刊』
から引用させて頂きます。

「小脳への入力情報は、苔状繊維という2000万本の神経線維により、顆粒細胞に運ばれる。顆粒細胞の数は10の10乗と圧倒的に多い。
フィードバック誤差学習により、小脳は「身体モデル」を獲得すると考えられるようになった。
ロボット制御と同様に、身体モデルには、順運動学モデルと逆運動学モデルがある。順モデルは、手先の目標軌道から各アクチュエータの適当な動きを計算する。適当な逆モデルがあれば、理想的なフィードフォーワード(逆運動学)制御を実現出来る事になる。ただし、我々の身体運動の自由度は極めて高いため、逆モデルでは、唯一の解が存在する訳ではなく、無数の解が存在する。
身体運動の制御に逆モデルを使うということは、アクチュエータの動きを「エイヤ」と適当に決めてしまうことである。」

「頭の中で立体図形を回転させる時や、手探りで物を識別するときには、おそらく、小脳の身体モデルでシュミレーションが実行されている。」

 学術書の記述には、普段使用しない表現があります。そこでこれを、悪魔の1秒、危機的瞬間の運動に適応してみましょう。
 順モデルとは、順序よく正常に情報が戻って来る時の動作の流れです。目視点検で「ブレーキよーし」と指差しながらブレーキを踏めるケースです。日常的なドアの開け締めですら、指差し確認を怠ると「本当に閉めたかな」と、時々心配になって戻る事がありますね。
 逆モデルは、手足先端の状況情報が戻って来ないときの判断です。「エイヤ」とやってみる、これを試行錯誤と言えば聞こえはいいのですが、悪魔の1秒の時の様に、取り返しのつかない場合は、丁か半かのバクチです。時代劇ドラマの博打場なんて最近見かけませんから、半か丁なんて知らないという方は、得意のネット検索でどうぞ。

抜き足差し足の高等技術

 伝統的泥棒や忍者達の足技を分析してみよう。和風建築では、長い廊下や、縁側があり、泥棒や忍者達は『抜き足差し足』の技術を身に着けなければなりません。
忍込みに成功したら、軋む廊下を移動しますが、決して住人に気取られてはなりません。
腰を落として構えます。一寸半(45cm)先に片足を乗せ、徐々に体重を載せていきます。少しでも軋む音の気配があれば、足先の位置を変えなければなりません。
軋みの無い位置を探り当てたら、全体重をゆっくり移動し、次の足先位置を探ります。この場合のフィードバック情報は床の軋む音です。
 この様な、手探り足探りの技術が、フィードバック技術であり、ロボットの制御プログラムでは必須の技術なのです。
そして、残念な事に、足先に感じられるペダルの感触は、靴底を介していますのでとても覚束なく、アクセルかブレーキかを判断する、ペダルの確認情報としては使い物になりません。

潜在能力の覚醒

 オートマの運転では、右足でアクセルとブレーキを使い分けなさい。との教習所での指導により、右足統一教は広く深く根付いています。そして、左足の能力は無用のものと封じられてきました。
 しかし、近頃のメディアのニュースに出ずっぱりの、大谷選手の活躍はどうなんでしょ。常識では不可能とされてきた二刀流で成功し、バットだけでも大進撃しています。常識という硬直を打ち砕き、右でも左でも、やれば出来るとの、希望を与えてくれました。
 開発中のドラモニは、ペダル操作のフィードバックを目的にしています。ですが、所詮は状態表示です。悪魔の1秒で右足が硬直している時、右足にはブレーキ操作が期待出来ません。メーカーの防止装置は、そもそもブレーキ操作は想定していません。
でも、ブレーキを踏まないと車は止まらないのです。そこで期待されるのは、無用の長物と蔑まされてきた、左足の潜在能力なのです。
 最終回の一打逆転の土壇場で、最後のバッターを打ち取る、最後に残されたストッパーの役割なのです。
貴方の潜在能力は、左足に隠れています。チョットした練習で潜在能力は開花します。貴方の左足が、歩道上の子ども達を救うのです。

ドラモニの開発秘話

加速度センサーの妙技

 鯵川開発室長の記録
 デジタル操作学会は、ドライバーモニタを開発するにあたり、その実務研究を、新興のセンサー開発会社、㈱Mekikiに委託しました。この会社は主に、魚類の生態から鮮度の測定法を開発し、魚眼の特筆すべき性能を活用して各種工業用のセンサーに応用しています。正に、目利き職人の技を伝承しようとしています。

 2022年5月 鯵川室長は各研究員とオンラインで対話しながら、ドラモニの設計書を纏めていました。トップにプレゼンするのに、あと1ヵ月しか無い。
まずは、加速度センサーを取り纏めている、浅利と対話していた。浅利は、センサーメーカーKY社に詰めていて、ペダルセンサーの開発に没頭している。
 鯵川 「浅利さん、ペダルのセンサーはどんな具合ですか。」
 浅利 「はい、こちらの会社には元々手のひらサイズの振動計が製品としてありまして、これを元にしてペダルセンサーを開発しています。本体にはBluetoothの通信機能が有りますので、これでナビの表示部にデータを送ります。振動計の加速度センサー部分を分離し、アクセルとブレーキの2系統のセンサーケーブルを追加しています。それと内蔵のリチウムイオン電池は撤去し、電源はナビと連動して車のアクセサリー回路から取ります。
 鯵川 「そもそも、加速度センサーはどんな機能なもんかね」
 浅利 「はい、加速度センサーは、工作機械のロボット化で実用化が進み、様々な分野で活躍しています。身近な代表例では、スマホアプリの万歩計でしょうか。単純に言えば、振動で揺れる振子の動きを検知する構造ですね。今や工作機械や車は勿論のこと、航空機には必需品のジャイロセンサーに成長しています。先日もウクライナの戦場で、ドローンから爆弾投下の映像がニュースになっていましたが、GPSのデータから投下する位置を割り出すのも加速度センサーの役割だそうです。
 鯵川 「それで浅利さん、先日の実験結果はどうだったかな。」
 浅利 「はい、なかなか興味深い結果ですね。アクセル用、ブレーキ用にそれぞれ二組のセンサーが、ペダルアームに固定されていまして、オンオフの信号は勿論、踏み込みのパワーを測れる様になっています。今のデジタル技術は凄いですね。センサーにはエンジンの振動とか、路面からくる振動、走行速度による雑音が加わるのですが、二組のセンサーで位相を変えて合成すると、ペダルの動きだけを取り出せるんですよ。それで、先日の実験ですが、ほぼ設計通りの数値を出しています。Bluetoothという一般的な通信回線を使用していますが、信頼度は抜群です。

 鯵川室長は、次にナビゲーションメーカーのP社で共同開発している勝尾とオンラインで連絡をとった。
 鯵川 「勝尾さん、その後の進行状況はどうかね。」
 勝尾 「はい。加速度センサーをこちらでは垂直センサーと言っていますね。ナビに内蔵している垂直センサーは、ワンチップ内に、レーザ光を活用して重力を検知する重力検知部と変異角度の検知部があり、微小な動態変化を検知してデータを発信する機能を持たせました。
 アクセルとブレーキから入力するペダル信号を得て、ナビのデスプレイ左右の隅に、アクセルは青、ブレーキは赤の動態を表示します。
これで運転者は、視覚の隅に、踏んでいるペダルがどちらかを確認出来ますから、踏み間違いを回避する事が出来ます。
また、このセンサーを組み合わせる事により、垂直からの角度変化と時間との演算から、移動距離と速度の出力が可能になりました。これと、ナビのGPSデータと照合出来ますから、車両側からの移動速度をもらわなくても、近似のデータが得られます。
これらにより、車両とは完全に独立した、運転モニタが構成出来ます。
 そして、車両の位置と速度データが外部に発信する機能を加えましたので、5Gのネットワークを介して、周辺車両に送り、衝突回避のデータを作れます。これがなかなかのものでして、このナビを搭載した車両が周辺にいれば、画面上にドットで移動しますので、T字路や、高速道の合流点での安全確認に活用できるんですね。距離と速度から、待つべきか、出るべきかの安全指示が出せるんです。カメラやレーダーで計測する現状より、多角的に安全策がとれます。」
 鯵川 「最初は、ペダルのデータは車両からもらうべきだと思っていたんだが、完全独立は素晴らしい。これで車両の誤動作と比較出来る。5G活用の実用化は素晴らしい。これで、ロボット開発に弾みがつきそうだ。」
 勝尾 「そうですね。大容量、低遅延の5Gは、運転ロボットのカギになりそうです。」
 鯵川 「それで、難問だった疲労センサーの方は見通しがついたのかな。」
 勝尾 「はい。最初に取り組んだのは、「K値」ですね。魚の鮮度は、今も「K値」という指標を用いて判定していますが、これは、魚の筋肉中に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)が、魚の死後分解され、その分解生成物量の割合がどのくらいあるかを見る方法です。流石に、足の骨格筋は刺身状にはできませんから、これをそのまま応用は出来ませんが、足の静脈流を音で捉える方法とか、パルスオキシメータの様に、酸素濃度を色で識別する方法など、いろいろ組み合わせて、変化を捕える研究をしてみました。
 現在実用化されているのは、やはりオーソドックスというか、足の踏み込み圧力を積算して消費カロリーに変換しています。
 デスプレイには、アクセルとブレーキの切り替え時間の下に、其々の踏んでいた累積時間を表示します。1時間運転していたら、アクセルが40分、ブレーキが20分という具合です。踏む力はアクセルがほぼ10N、ブレーキが30Nですから、時間を掛けると、アクセルとブレーキは同等の力を要する事が分かります。マニュアルの時代に比べてほぼ倍の疲労となります。
この疲労の増加曲線も、高齢者にとっては踏み間違いの遠因になっています。」
 鯵川 「確かに、渋滞にハマって1時間も経つと右足はヘロヘロだね。それで、積算量を疲労に変換する方法はどうなっているのだろう。」
 勝尾 「それは、ナビの方でアプリ作りの得意な鯖江さんから説明します。」
 鯖江 「それでは説明します。人の体力は、ATPの備蓄量を増やす方法と、日常的な運動で交感神経を刺激して血流量を増やし、ATPの燃料であるブドウ糖と酸素を骨格筋に送ることで成り立ちます。
 疲労アプリの使い方ですが、その人の基礎体力を決めるデータとして、1週間の歩数量とカロリーを入力します。将来的には、身体の各部の動作チェック、手足や腰、頭痛や歯痛など神経痛の有無等、運転中に神経に障る項目を追加していきます。
そして次に、ペダルの動作データから、足の骨格筋がどれだけエネルギーを消費しているか計算します。」

筋肉疲労曲線

 鯵川 「ペダルのデータは、動作表示だけでなく、骨格筋にかかる負荷の量も測れる訳だ。」
 鯖江 「今回実験してみた結果を纏めてみました。自宅から出て、1時間、10km程運転走行し、3箇所で買い物や用事を済ませる状況をモデルケースとします。
 このルートには、30か所の信号機付交差点、20か所の信号機の無い交差点、30か所の横断歩道、広い街道に出る5か所の交差点では、十台の信号待ち渋滞が発生する設定とします。1時間に区切って、足の動きを計測して見ました。
 アクセルを踏んでいる時間が42分、ブレーキを踏んでいる時間は12分でした。惰性走行が6分あります。街中で渋滞にハマると、ブレーキの時間が増加します。」
 鯖江 「次に、足の動きにどれだけのパワーが必要か計算してみます。
アクセル時、30から40kmの巡行速度では約1kgの押し込み圧力は必要ですので、力量として約10N(ニュートン)のパワーを必要とします。ブレーキの場合は約30Nです。
1時間走行では、アクセルで420N、ブレーキで360Nの脚力を消耗する事になります。
合計して780N/時です。
これが疲労として蓄積されます。
細かい計算は省略しますが、1時間の運転で、基礎体力の10%を消耗するデータとなりました。」

 鯵川 「つまりは、ATPの備蓄量から1時間の運転で、1割を消費してしまうわけだ。とすると、このATPを増やす方法は何で表すのかな。」
 鯖江 「ドジャースの大谷選手がいみじくも言っていました。試合後は、時間の許す限り睡眠をとるのだそうです。エネルギー源のATPは、消化器に送られるブドウ糖と酸素でミトコンドリアで製造されます。消化器には、副交感神経が働く睡眠時間に、血流の多くが供給されますから、ATPの製造の多くはは睡眠中に行われます。従って、睡眠と活動は、スマホやハンディ扇の電源である、リチウムイオン電池の充電と放電に似ています。
 現状では、ATPの備蓄量を直接測定が難しいので、睡眠時間で代用していますが、近く、生のATPを測る技術が出てくると、精度が上がります。
 鯵川 「すると、運転者は前の週の歩行数と睡眠時間を入力しておくと、運転時間でATPの消費量を表示してくれる訳だ。硬直に至る危険表示はどうなるかな。」
 鯖江 「ここは個人差があって断定が難しいところですが、各方面の見方や意見を総合すると、危険表示は厳しい方が良い、が主流です。そこで、3000歩以下では80%で、5000歩以上では70%で、硬直危険を表示します。
 鯵川 「スマホでは30%でも動いてくれるし、モバイルバッテリを繋げばもっとうごく。でも、足の骨格筋は、70%を切ると硬直の危険が迫る。歩きをサボって、歩行数が3000歩を切ると、ATPの備蓄そのものが不足してくる。硬直は一部で起こっても致命的事故になる。という警告になるのだね。」

左足ブレーキの馴れ初め

 筆者の様な、団塊の世代では、正式にオートマの運転教習を受けた事がありません。初めて乗ったのは、だいぶ若い頃、家族旅行でレンタカーを借りた時です。受付で取説を渡されただけでした。
 スタート直後、ブレーキテストをしたところ、凄い勢いで停車しました。妻や子供達はパニックになって大騒ぎです。そこでようやく、左足でクラッチ的に踏んだと気付きました。その後は修正出来て、長年オートマに親しんで来ました。
ここに来て指摘出来る事は、踏み間違い事故の報道を見るたび、左足なら止められると、確信できた事です。
 現役時代は仕事柄、関東各地の消防や、市役所の通信工事で通いましたので、かなり長時間運転していました。
 転機になったのは、悪名高い首都高の渋滞です。
渋滞にハマっていると、右足がチクチク痛むのです。そこで、停車中に試しに左足でブレーキを代行してみました。すると、これで右足がとても楽になり、その後は渋滞中や信号待ちでは、左足代行にハマってしまいました。気が付くとブレーキは殆ど左足の役割になっていました。
 もう一つの転機は、マニュアルの軽トラです。定年後長年付き合いのあった、電気屋さんに再就職し、最近は週一で産廃処理を手伝っています。そこで乗っている軽トラが今どき珍しいマニュアル車なのです。
つまり、日頃オートマと、マニュアルの両方の使い分けを実践している訳です。
 混乱しないかですって?。これが意外にしないのです。間違えても、左足でアクセルを踏む事はないですから、クラッチ的に踏んで急停止するぐらいで、暴走はありません。もし右足が硬直しても、左足で止められます。
 マニュアル車における、左足の活躍は凄いものです。エンジン音と路面の負荷からギヤ比を嗅ぎ分け、無意識にスイスイ切り替えます。
 オートマでは、路面の危険度を嗅ぎ分け、何が飛び出しても止める準備をします。勿論右足の負担も減らしてくれます。
左足の潜在能力、万歳です。
貴方も試してみて下さい。

世界の交通事故は、ドラモニと左足が救います。

 日本は世界中にオートマ車を売ってきましたし、EVでもほぼ同様の操作方法であるからして、今、日本で起きている踏み間違い事故は、今後世界中で同様の事故が起きると見なければなりません。高齢運転者の比率が高い日本で、事故報道が注目されていますが、運転者の高齢化は世界中で進みます。
 日本が世界に先駆けて、高齢運転者の科学的運転指導法を示し、ドラモニの安全効果を示す事が出来れば、日本車の性能に加え、安全性で世界を牽引する事が出来るのです。

 オートマの歴史は、高度な自動変速機で日本の物作り技術の高さを象徴しています。ですがその一方、海外企業への技術移転と国内企業の空洞化が始まり、失われた三十年と言われる、日本経済没落の象徴でもあるのです。
オートマの優秀性に溺れた結果、硬直した指導方法で、左足を駄目にしたののと同じ構図です。
固定観念を捨て、柔軟な思考による物作りの技を復活させなければなりません。
左足の潜在能力の開花は、日本経済の復活を象徴するものになるでしょう。

 こんな風に偉そうに書いてしまうと、自分で事故ったら目も当てられません。助手席の妻には、「何でそんなに譲るの?」とか、「この黄色信号ならいけるでしょ!」とか、言われていますが、いやいや「事故らないほうがいいのだ!」と、ごもごも言ってる毎日です。

(完)




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