読書感想文『推し、燃ゆ』

 「推し」が燃えた。
 一人のアイドルを推すことに全てを捧げ、同時にそれを支えとして生きている女子高生、あかり。「推し」の炎上を受けて、彼女はより一層推しのことを想い、生きていこうとするのだが……

「推し」は一推しの「推し」と聞いたことがあるけれど、今ではもっとたくさんの意味が込められているんじゃないだろうか。
 主人公の「推し」に対する好きとも少し違う、信仰に近い純粋な感情と、どうにもならない現実世界での苦しみや悲しみが反発するわけでもなく文章に編み込まれている。それを読んでいるうちに読者は時間と空間から切り離されていく。主人公の強い想いに巻き込まれて流されていく。言葉一つ一つは淡々として読みやすいのだが、でも鋭くて重い。現実に「推し」がいる人には刺さるだろうし「推し」がいなくても生活に息苦しさを感じて、美味しい食べ物やめちゃくちゃ気に入った服やさまざまな「何か」に救われた経験がちょっとでもある人なら誰でも刺さると思う。誰しもが持ち得る生きる力の物語。
 と書いていたけれど、これは前半を読んでいたときの感想。どうなっていくのかなあと読んでいたら中盤くらいから不穏な空気に包まれ、後半、そしてラストで打ちのめされた。読み終わってから一週間ほど経つけれど、どうしたらよかったんだろうかと気が付くと考えている。あかりの

「生きてるだけで、家族が壊れてしまった」

 という言葉が今でも辛い。「推し」と出会うこと。「推し」のことを考えて暮らすこと。「推し」が燃えること。そして「推し」がいなくなること。「推し」がいた生活の先に待ち受けていたこの結末をどう受け取ったらいいのか。私はあかりには「推し」がいて良かったと思いたい。思いたいけれど、本当に良かったのか。わからない。フィクションなのに「あの子のことをどうしたら良かったのか」とずっと考えてしまう。

 ラストのあかりの一言なのだけど、私は
「推し」という神様がいたから、これまではその下で人間としていられた。でも「推し」が人間になってしまったことで、自分はさらにその下になるしかない。
 ってことかなって思ったのだけれど、あの、どう思います?

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