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2021年8月8日(日)@シネ・ヌーヴォX・塚本監督オンライントークレポート

8月8日(日)に大阪・九条のシネ・ヌーヴォXにて7年目の『野火』塚本監督オンライントークを実施しました。MCは山崎支配人です。今年は2週間というしっかりとした上映期間をとっていただきました。

2021年8月8日(日) 13:00の回上映後
会場:シネ・ヌーヴォX
MC:山崎支配人

往年の名作の特集上映から新進気鋭の作家の作品まで唯一無二のラインナップをそろえるシネ・ヌーヴォさん。毎年8月には戦争をテーマにした作品を必ず上映していて『野火』もその中に必ず入る1本となっています。今年は2週間という上映期間をいただきました。

山崎支配人の呼び込みで大きな拍手で迎えられた塚本監督。シネ・ヌーヴォさんで初めて『野火』を上映したのは2015年の10月。「そこから夏になると毎年上映を続けてきてもう7年目になりますね」と声をかけられ「奇跡みたいなことだと思います」と応えました。山崎支配人は「夏には『野火』の上映はずっと続けていきたいなと思っています」続けました。

この日はご来場のほぼすべての方が初鑑賞。山崎支配人は「毎年『野火』を上映していて思うのが、毎年社会が変わっているなということ。去年はコロナがありそれでも緊急事態宣言もあけてこのまま収束に向かうのかなという空気があった中での上映だったのですが、今回はオリンピックが開催中の中、大阪には今緊急事態宣言が出ています。毎年毎年状況が変わってるなというのを『野火』を上映すると考えてしまいます。」と述べ、「先が見えなくなりつつも映画館は上映ができていてこうやってお客様も来てくださってるのでその中で粛々と上映は続けていきたいと思います」と続けました。

シネ・ヌーヴォさんでは『野火』のほかに戦争をテーマにした作品として捕虜収容所や終戦間近の旧満州での証言を集めたドキュメンタリーなども上映ラインナップにあるそうで、「今はまだ高齢だけれどもお話できる方がいらっしゃるということでそういうドキュメンタリーが増えてきています。でも戦後76年となると証言できる人がやっぱり少なくなってくる。塚本監督もフィリピンに行かれた兵士たちに取材をされてきて2015年当時も結構高齢の方が多かったという風に思うんですけれども。」と山崎支配人。塚本監督は『野火』について「実際に作り始めたのは2013年なのですが、その8年も前の2005年のころにフィリピンの実際の戦争に行かれた方に取材しました。僕が実際に取材したの寺嶋さんという方はその当時85歳。今お話を聞いておかないとという気持ちになってすぐにでもつくるつもりで取材をさせていただきました。そのとき聞いた話が感触としてこの映画の中に盛り込まれています。(寺嶋さんは)この映画がちょうど公開の年に93歳で天寿を全うされてしまいました。実際の戦争に行かれた方がいらっしゃらなくなるにつれて、痛みを実際に感じたことがない人たちが舵を取り始めると、どんどん戦争に近づいて行ってるという危機感がすごく大きくなりました。(『野火』を)上映しないと、し続けないとなと思ったのはまさにその体験者の方がいらっしゃらなくなっていくということから来ています。」と答えました。

続けて山崎支配人は『野火』を「体験するような映画。戦争の残酷さとかそういうことを映像と音という映画ならではの手法で伝えられたらという映画だと思います。」と評し、塚本監督は「大岡昇平さんの原作が高校生のときに読んであまりに素晴らしかった。戦争文学としてというより文学として素晴らしかった。文学ってこういうことが描けるんだってびっくりしたというのが最初で、同時に文学体験を通して戦争というのはつくづく恐ろしいというのがわかっていくので、本当に表現の素晴らしさというのが大岡昇平さんの『野火』を通してわかったところもあります。大岡昇平さんの小説に少しでも近づきたいというのが最初のモチベーション。最終的には先ほど言ったように、どうも戦争に近づいて行ってるな、今つくらないと手おくれになっていっちゃうかもしれないなっていう危機感みたいなものでつくった感じです。」と述べました。

質問タイムでは「大岡昇平さんの『野火』が原作だから観に来た。」というお客様。「すごい衝撃でした」とのことで「ほかの大岡昇平さんの作品、例えば『レイテ戦記』みたいなものを映画にしたりとかそういうお気持ちはありますか?」とのご質問。「『野火』に本当に感銘を受けて10代のころから映画にいつかできたらなと、これ1本とにかくできればというのがとにかくありました。『レイテ戦記』のような超大作やら『俘虜記』なんかは今でも映画にしたいなっていう方がいらっしゃるのですが、僕はやっぱり『野火』が頭から最後まで全部がくっきりと映像で目の前に浮かんだので、これを撮れればという一念できた感じです。ほかは今のところ予定とか計画はないんです。」と塚本監督。質問者さんからは「『野火』を人にもぜひ薦めたい!」と力強くおっしゃっていただきました。

続いて「一番思い入れの強いシーンは?」というご質問。塚本監督は「大岡昇平さんの小説全編がひとつの塊となって思い入れが強いのですが、あえて言うと銃撃シーンとかよりも田村一等兵が軍からも病院からも見放されて一人となって、言ってみればどこの国にも場所にも属さない何でもない存在となって、フィリピンの美しい原野を淡々と歩いてるというところ。それが実は小説でも一番印象に残っていて、映画にするときもそこを一番描きたいと思っていました。フィリピンの大自然の中を歩く兵士というのが一番思い入れのあるシーンです。一人で歩くってことは死んじゃうことを意味してるんですけど、死んじゃうまでの自由を兵隊としてじゃなく自分一人がその時間を使ってる、その時間のことを大事に思っていました。」と明かしました。

最初の質問者さんより「(フィリピンの)ロケ地はどこですか?」というご質問。「実際の舞台になったのはレイテ島なんですね。僕も最初はフィリピンの戦争体験者の方々と一緒にレイテに遺骨収集に同行させてもらっていました。毎年兵隊さんのお骨を拾う行事があるんです。撮影自体はミンダナオ島という少し南の方にあるところに伝手があったのでそこでしました。実はミンダナオ島って非常に危険な場所であるということが行ってからわかって。連れて行ってくれた方は最初からわかってたんですけどね。なかなかな危険だったんだなという体験をしました。僕自身は危険な体験にはあってませんが、本当に危ない場所では護衛の人に入ってもらったり。後で考えるとすごい状況で撮影したな、という感じのことでありました。」と撮影の裏話を明かしました。

最後は大きな拍手に送られてトークは終了。15分と短いながらアットホームな時間となりました。
シネ・ヌーヴォさん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

そして秘密基地のような劇場の雰囲気にぴったり!の『ヒルコ/妖怪ハンター』の上映が8/28(土)から始まります。こちらでもリモートトークがあるようです。お楽しみに。

シネ・ヌーヴォX
cinenouveau top

7年目の『野火』上映概要
8/7(土)~8/13(金) 連日13:00~
8/14(土)~8/20(金) 連日15:35~
8/8(日) 上映後、塚本監督オンライントーク
8/7(土),8/9(月)~ 本編前、塚本監督ビデオメッセージ上映あり

『ヒルコ/妖怪ハンター』
8/28(土)~

同時期の上映作品
『葛根廟事件の証言』
『東京裁判』
ほか

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