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2021年8月18日(水)・塚本監督オンライントークレポート@別府ブルーバード劇場

7年目の『野火』この日は別府ブルーバード劇場さんで塚本監督のオンライントークがありました。『野火』のヴェネチア映画祭出品の際に同行された森田真帆さんの進行です。別府大学の学生さんが参加されました。

2021年8月18日(水) 18:00の回上映後
会場:別府ブルーバード劇場
MC:森田真帆さん

毎年欠かさず上映いただいてる別府ブルーバード劇場さん。この日は別府大学の学生さんが「地域社会フィールドワーク演習」の一環で『野火』を鑑賞しました。
 
「本当に衝撃的な作品で当時ものすごい話題になったのを覚えております」というMC森田真帆さんの呼び込みで塚本監督がスクリーンに登場。はじめてご鑑賞の方は全体の4分の3ほどでした。
 
さっそくお客様からのご質問タイム。まずは劇場で7回観たというお客様。「戦後76年たってるのでその時代のことを映画にしようとすると衣装だったり小道具だったりを(用意)するのが大変なのかなとずっと思ってたんですけれどもこの映画はどういうふうにつくられたんでしょうか?」塚本監督は「まだつくってるときはそのころのことを体験してらっしゃるかたがご存命だったのでお話をきくことができました。資料もまだかなりいろいろあったので、予算の少ない映画でありながらも緻密につくらなければと。ただ全くお金の厳しい状態でやったのでボランティアさんのスタッフに集まってもらって全部手づくりでした。軍服にしても銃にしても最初に1丁1着だけ仕入れてきてそれを解体したりしながら同じものを増やしていきました。苦労してつくりました。」と答えました。
 
「1着から全部つくっていくところが塚本さんならではだなと思うんですけど」という森田さんより追加で「中村達也さんのぐちゃぐちゃって(内臓がでてくる)シーンがあったじゃないですか。あれはどういうふうにリアルな血だったり臓器はつくってるんですか?」とご質問。「原作にもちろんある(場面)ですけど、僕が小学生のときに猫の死骸があってそれが日がたつごとに膨らんでって最後ぱんって破裂したときに中から出てきたのが蛆虫だったんです。それがあまりにもショックでそれを再現したんです。ぐちゃぐちゃって出てくるのは蛆虫なんです。実際何を使ったかっていうとあれは細かいパスタですね。パスタの大きい玉みたいのもあればちっちゃいのもありまして。パスタをどーっと出して、そのあとにアップになると本当の蛆虫が顔に這ってると。それを見てさっきのも蛆虫だったんだなと思うようにつくってあります。」と明かしました。お客様から続けて「蛆虫はどこから手に入れたんですか?」と尋ねられ「釣りの餌が蛆虫なんですね。だから結構きれいな蛆虫を売ってるのでそれを買ってきました。本当に湧いてたのじゃなくて白くてきれいな蛆虫です。それを黄色く着色しました。」と付け加えました。森田さんが「ヴェネチア映画祭で上映した時に各国の記者さんが本当にリアルでグロテスクだったっていって怖がっていて、本当の戦争ってこれだけすごいんだぞって思っていました」と海外での反応を伝えると、塚本監督は「本当の戦争はこの何十倍ですよね。」と答えました。
 
続いて生き残って帰って来られた方に思いをはせられたお客様より「生きてるのはいいことかもしれないけどそういう体験を抱えながら生きていくっていう辛さみたいなものをラストのシーンでひしひしと感じました。」とのご感想。塚本監督は「やっぱりかなり多くの方がPTSDというトラウマを抱えちゃうことになります。とくに戦場で恐怖体験をずーっとしてると(PTSDに)なっちゃうのですが、とくに加害をしてしまった人とかはそのPTSDが強くおこってしまうみたいです。戦場では殺されないようにするために殺すわけですけど、その殺したっていう記憶がどうしても罪悪感の恐ろしいものになって、あとで出てきちゃうみたいですね。第二次世界大戦のあとは高度経済成長期がきてみんな一生懸命戦争の記憶から離れるために働いて、そのときはまだ収まっていても、定年になったときにまたそのトラウマが復活して夜大声上げて起きちゃったり、それが死ぬまで続いたり、そこまでいっちゃうとせっかく生きて帰って来てもその恐ろしいトラウマが続いちゃうということがあるみたいですね。やっぱり戦争に行くってところから行かないようになんとかしなきゃいけないっていうそういうことが映画で伝わればいいなと思いました。」と戦争が終わっても続く恐ろしさについて語りました。
 
はじめてご鑑賞された学生さんからは「衝撃的で戦争映画いくつか見たばかりなんですけどそれがもうファンタジーのように思えてきてしまいました。すごくトラウマになる映画だったんですけど、あそこまで強く描こうと思った理由は何ですか?」というご質問。塚本監督は「戦争を映画でヒロイズムみたいな英雄主義、英雄を描くような描き方で描くっていうのは強い違和感があったということと、悲劇っていうことを通して映画として描くのはあるべきと思ってるんですけど、ただ自分としては悲劇の方だけで描くんじゃなくて戦争に行くと加害者になっちゃうっていうことの恐ろしさも映画の中に描かなきゃいけないんじゃないかと思っていました。僕の気持ちと関係なく『野火』で田村は突発的な加害者になる、そしてまた被害もあるっていうのでいろんなものが入っていて、被害も加害もない圧倒的な虚無みたいなもので描かれています。そこでの普通の人の心理が描かれてたことに非常に共感があって衝撃があまりにも強かったんでそれを描きたいと思いました。それとフィリピンの実際の戦争体験者の方にインタビューしたのですが、それはやはりその方は生き残ってきたので結構働いたんですね、戦場では。働いたってことはおそらく加害をして帰って来るわけですけど、そんな方々でも戦争はもう1回あるとしたら絶対にあるべきじゃないって強くおっしゃるので、そのことを意識しながら映画をつくりました。完全にリアルな映画だと思ってます。」と答えました。
 
森田さんは「私たちが子供の頃っていうのはまだ戦争を知ってる戦争体験者の方が映画のあとに登場して戦争の凄まじい体験だったりをお話していただくってことができていました。でも今の子たちっていうのはなかなかそういう人たちがどんどんどんどん亡くなられていなくなってくる」と述べ、「はじめて『野火』を上映したときには塚本監督にいらしていただいてそのときに絵看板を描いていた松尾さんというおじいさまがいらっしゃったんです。ずっとブルーバードで絵看板を描いていて実際フィリピンの方でも南方沖で戦ってらして。『野火』のアフタートークで松尾さんが二度と戦争には行きたくないとおっしゃったんですがその松尾さんも昨年亡くなられてしまったんですね。今年こうして学生さんが来てくださったこと、とても意義のあることだなと私はすごく感謝しています」と続けました。塚本監督は「僕の映画にしては珍しく老若男女見てくれてる映画なんですけど、実際の戦場ってこんな感じなんだよ、未来をどう考えますか?っていうふうに考えていただけたらなというふうに強く思います。」と述べました。
 
学生さんからはほかに「本当にグロテスクでリアリティがすごくて怖かったです。戦争は絶対してはいけないというのは小学校中学校のときにも習ってるんですけど、こんなに恐ろしいことがおこったり、終わった後も戦争に行った人が心に傷を受けるようなことはしてはいけないというふうに強く思いました。」「すごく恐怖感を感じ、映画を観ながら本当に私自身も戦争には行きたくないなってひしひしと感じました」とのお声をいただきました。
 
最後に90歳を迎えた岡村照館長より「私は(この中で)唯一戦争体験者です。ここは保養地でアメリカ軍も爆弾を落とさなかったんですけれどもB29の空を通った怖さは忘れられません。大分は焼夷弾攻撃があって別府湾の方にずーっと炎があがったんですけど、そのときは小学校だったんで防空壕にかけこんだりしました。本当にもう二度と戦争はだめですっていうことをちっちゃい子供に言って聞かせております。」とのお言葉もありました。
 
最後はみなさんで相互に写真撮影して盛大な拍手に見送られトークは終了しました。

別府ブルーバード劇場さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

別府ブルーバード劇場
https://www.beppu-bluebird.info/

7年目の『野火』上映概要
8/18(水)~8/20(金)
8/18(水) 上映後、塚本監督オンライントーク

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