見出し画像

2021年8月9日(月・祝)@立川シネシティ・塚本監督トークレポート

8月9日に恒例の立川シネマシティ。7年目の『野火』塚本監督の登壇によるトークがありました。MCは番組編成の椿原さんです。今年はfスタジオでの迫力上映でした。

2021年8月9日(月・祝) 14:00の回上映後
会場:立川シネマシティ シネマ・ワン fスタジオ
MC:椿原さん(立川シネマシティ 番組編成担当)

音響に並々ならぬこだわりがある立川シネマシティさん。今年は前半2日間のhスタジオ、最終日fスタジオにての迫力上映。最終日の上映後には塚本監督が登壇しトークを行いました。MCは番組編成の椿原さんです。

大きな拍手で迎えられた塚本監督。この日もはじめてご鑑賞の方が7割ほど。また複数回ご鑑賞の方も多く、塚本監督は「何度も観ていただくのもありがたいですし、はじめて観ていただくのもまだまだこれからも頑張って上映していかなければならないという気持ちになります。」と感謝を述べました。この日音チェックのため場内に入って行った塚本監督は、音響と映像の品質の高さを堪能しているうち立ち見のままつい最後まで鑑賞してしまったそうですが、「迫力ありましたね。」と音の印象を伝えました。

コロナ禍により座席制限と時短営業を続けている立川シネマシティさんですが、椿原さんから「『野火』が今の状況下とシンクロしてしまっているのではないか」と投げかけられ、自身も準備していた企画がなかなか進まずコロナにはかなり翻弄されているという塚本監督は「よくコロナと戦争を結び付けて語る方もいらっしゃるんですけど、僕はちょっと最初のうちそれがぴんとこなかったんです。ただコロナっていうのものに本当にわからないまま翻弄されている一方で、水面下では“戦争ができる国”にするための準備はあたかもレールが決まっているように着実にきっちり進んでいますので、コロナはコロナ、戦争は戦争と自分としては分離して考えていて不用意に結びつけるつもりはないのですが、やはり、ある一部の人がきっちりとお金を儲けることの犠牲に民衆の人がなっちゃうという構図はどうしても浮上して見えてきちゃうなという感じはしています。」と述べました。

前日にお客様と一緒に作品を鑑賞したという椿原さんは、肺を患った田村一等兵が野戦病院と部隊を行ったり来たりさせられる冒頭のシーンについて、大岡昇平さんの原作小説の『野火』の同シーンをベースに現在の状況下を論じたコラムが掲載された朝日新聞の天声人語(天声人語)入院の制限:朝日新聞デジタル (asahi.com)(※有料記事)を話題に。塚本監督は「自分自身が当事者になっていないからか全人口のうちのどれくらいの人がそういう状況になっているのか実感がきていないですが、もし病院がふくらんじゃって入れなくなってる方が相当な人数と考えたときに、かなり『野火』の冒頭シーンみたいな状態ですよね。たらいまわしというか。田村は日本の軍からも見放されて病院からも見放されてあとは死ぬまでの歩みを続ける、そしてその後に起こることは…って考えるとちょっと空恐ろしくなっちゃいますね。結びつけようとはしていないんですけど、どうしても結びついちゃうところはあります」と答えました。椿原さんは「とにかく繰り返し毎年観てもらって、戦争が再び起きないように。そのことと並行して現実の私生活の中に生きるための闘いみたいなものがあることと『野火』が奇しくも重なったタイミングととらえております」と応えました。

塚本監督は「『野火』自体は映画の中に政治的なメッセージをこめようとは思ってません。あくまでも大岡昇平さんの素晴らしい原作に近づきたいって気持ちで描いています。それを通してみなさんがどう感じるかは自由です。僕自身は自分の意見はありますけど、そこに導くために描くのはプロパガンダとかそういうふうになってしまい、映画の芸術というのではなくなってしまうので。自分が感覚的に描きたかったこの映画を通して、みなさんはどう感じますか?ということです。」と述べました。

お客様からの質問タイムでは3回目のご鑑賞のお客様。監督のトークも初年度に続き2回目とのこと。「監督は(トークで)トラウマになるような映画とおっしゃっていた。初日初回に観たときには肉が食べられずトラウマになってしまった。今日またすごく怖かったが、相変わらず素晴らしい映画でした。」とのご感想。「今日の上映は音が迫力はもちろん細かいセリフまではっきり聞こえたし、絵もちょっと落ち着いたフィルムに近い感じ。」とfスタジオでの上映の印象を述べた塚本監督は「自分はトラウマはできたらなるべく子供のうちにと思っています。僕は『はだしのゲン』を読んでトラウマになったのですが。こういう『野火』みたいな(作品で)トラウマを持っていただく。本当のトラウマを持ってしまう前に表現で、いいトラウマを持ってもらった方がいい。こんなのに近づきたくないという気持ちが体感としてあるとありがたいなと思います」と早いうちにトラウマとなる表現に触れることが、戦争から遠ざかることになるのではないかという考えを述べました。

4回目の鑑賞というお客様。塚本監督の次作の『斬、』の上映時にもトークを聞かれたとのことで「幕末を描いた『斬、』も戦争に近づいている時代を描こうというお考えがあったと聞いた。戦争をやるぞってなってしまったときに止められるのか」という問題提起。塚本監督は「ここまでずっと語ってきたのは、お金を稼ぎたいという権力と民衆の人との構図。第二次世界大戦のときにその構図はありながらも民衆の方が盛り上げちゃったということもある。それはちっちゃいころから、(国のために)戦争に行くんだよ、鬼畜米兵をやっつけるんだよ、と教育みたいなものがあった。教育の部分が大事なのではないか。今はもう教科書なんかもどんどん書きかわっていて、どうしてそうなっちゃったのかなと。人類の英知みたいなものは何かないのかなとどうしても思うんですけど。ここから先はますます危ない。あと3年くらいで何とかしないと。」と教育の大切さと現在向かっている方向への危機感を語りました。

最後に椿原さんから「また来年」という言葉をいただき、お客様にも証人になっていただきました。大きな拍手に送られてトークは終了。毎年スタジオごとにニュアンスの異なる音響で楽しめるのも立川シネマシティさんでの鑑賞の醍醐味です。
立川シネマシティさん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

ビハインドエピソード。椿原さんがこの日塚本監督にぜひ差し上げたいとお渡ししたおみやげは芋でした。(地元でとれたというおいしい方のお芋です。)

立川シネマシティ
 cinemacity.co.jp

7年目の『野火』上映概要
8/7(土),8/8(日) 16:50~ hスタジオ
8/9(月・祝) 14:00~ fスタジオ
8/9(月・祝) 上映後、塚本監督トーク


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?