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2021年8月7日(土)@高崎電気館・塚本監督オンライントークレポート

8月7日(土)の2か所目の塚本監督オンライン登壇は歴史ある高崎電気館さんでした。MCは映写技師としてフィルムからデジタルまで上映を一手に担う支配人の飯塚さんです。お客様からの質問を交えて約40分間の対話の時間となりました。

2021年8月7日(土) 14:30の回上映後
会場:高崎電気館
MC:飯塚元伸支配人

毎年8月に戦争をテーマにした特集をしている高崎電気館さん。今年も特集「終戦、76年目の夏。」上映の1本に『野火』を選んでいただきました。

はじめてご鑑賞されたお客様が会場の7割ほどということでまずは『野火』をつくることになった経緯から。「原作にめぐりあったのが高校生のころ」という塚本監督は「当時8ミリ映画をつくっていた映画少年でしたが、いつかは映画にしたいと考えていました。劇場映画をつくり始めた30代のころに本式につくり始めようと考えましたが、資金的な面も含め難しく先送りにしていました。40代になって本気でつくろうとフィリピンの戦争を体験した方にお話を聞き始めましたがこのときも難しく、最終的には戦争体験者がいなくなることで日本が戦争に近づいていっているのではないかという危機感から切羽詰まって、後がないという気持ちでお金がないながら多くの協力を得て何とかつくったのが戦後70年というタイミングで発表できることになりました。」と製作までの長い道のりを語りました。

飯塚支配人より「フィリピンの戦線を体験された方はおそらくもう100歳近くで今では生の証言を聞くことはほとんど難しいと思いますが、実際の体験談が生かされてるのはどういったところですか?」という質問。塚本監督がフィリピンの戦場に実際に行かれた方にお話を聞いたのは2005年。その当時ですでに85歳。「原作を読んでくっきりとイメージが浮かんだのでこれだけでも描けると思ったのですが、やっぱり実際の体験者の方のお話を聞いておかなければと。脚本に具体的なひとつひとつのエピソードが反映されているというより、自分の体に浴びたお話を聞いたときの感触がつくるときに自動的に反映され、このようなとても恐ろしい感じの映画になったと思います。水牛を寄ってたかって固い爪以外骨まで食べたという話を聞いて、その飢餓感を映画の中に反映させていったという感じです。」と述べました。

質問タイムではお客様にスクリーン前のマイクまでいらしていただきました。最初は「映画館で観たくて高崎まで1時間かけてきました」というお客様。大学生のころはじめて鑑賞されたのが映画館ではなかったので、映画館でどうしても観たいと駆け付けてくださったそうです。「自然と人間のコントラストもすごく印象に残ったが、戦争から生きて帰ってこられてお家で暮らしているのに戦場のトラウマが残っているように感じられるシーンがととても印象に残っています」とのご感想。塚本監督は「トラウマにどうしてもならざるを得ないことが多いです。戦争のその場が終われば終わるというわけではなく、終わってから一生苦しむことになるようです。戦場で人を傷つけたというトラウマはとても深く、働き盛りのときは一瞬忘れることができても、定年後に急に蘇ってきて夜中に絶叫したり、亡くなるまで苦しんだといったような話がたくさんありました。そのことを大岡昇平さんの小説にもきっと書いてあったんだなと思いました」と答えました。

昨年も高崎電気館で鑑賞されたというお客様。1年前に観てから現地の女性の叫びが描かれるふたつの場面が印象に強く残って何度も思い出したそうです。「その場面がどこからきたのか」とのご質問。塚本監督は「あのふたつの場面はどちらも原作に書かれていました。ただ原作のどこのところを強調して描くのかというのは監督が映画をつくるときに決めることになります。原作のたくさんのエピソードの中でその2つのポイントは殊更強調したいと確かに思ったところなんです。」と答え、続けてその2つの場面がどのように呼応しているかについても明かしました。

また飯塚支配人より「戦争の悲劇のひとつは若者からどんどん死んでいくこと」(順番に年老いて死を迎えるという自然の摂理に反して)という意見を受けて、塚本監督は「戦争は常にそういうものとして昔から累々とあったわけですが、何でこんなものが累々とあったのか、人間の本能の中にあったのかと思うと悲しさがある。未来がいっぱい詰まった、未来しかない若い人たちが戦争に行って肉体と精神をとても陰惨なかたちで滅ぼすことが、いいか悪いで言ったらどうしてもいいとは思えない。自分の子供がそういう風に死んでしまうというのは、その当時の親たちは大義的には喜ぶというかたちをとっていましたが、心の中では喜ぶ人はいないはずだと思います。」と答え、「そういう心配が伝わったのか、この『野火』をお母さんがお子さんを連れて見に来ることもあります。戦争に行くのはいつも若い人たち。今の若い人たちにもぜひ観てもらって、今後の世の中がどうなっていくのか注視してもらいたいです。」と思いを述べました。

最後はたっぷり記念撮影をして、拍手に見送られトークは終了。

戦後76年。戦争体験者の方のお話を直接聞ける機会はほぼなくなりつつあるかもしれませんが、『野火』を通じて今の若い世代の方へと戦争がどういうものだったのか伝わっていく様が垣間見れた時間になったように思います。

高崎電気館さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

高崎電気館
takasaki-denkikan.jp

7年目の『野火』上映概要
8/7(土),8/8(日),8/12(木)
8/7(土)14:30~ 上映後、塚本監督オンライントーク
8/8(日)12:30~
8/12(木)11:00~

特集「終戦、76年目の夏」
『葛根廟事件の証言』
『8時15分 ヒロシマ 父から娘へ』
『東京裁判』
『戦場のメリークリスマス』

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