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2021年8月7日(土)@熊本Denkikan・塚本監督オンライントークレポート

7年目の『野火』塚本監督オンライン行脚はさらに西へと向かい、熊本のDenkikanさんへ。毎年欠かすことなく『野火』を上映してくださっているDenkikanさんですが、はじめてのオンライントークでした。MCは熊本初公開時の『野火』や『斬、』でもお世話になりましたラジオパーソナリティーの政木ゆかさんです。

2021年8月7日(土) 18:00の回上映後
会場:Denkikan
MC:政木ゆかさん(ラジオパーソナリティー)

7年連続で『野火』を上映くださっている熊本のDenkikanさん。1911年創業の老舗映画館さんです。今年も1日限定のアンコール上映です。MCはこの日9回目のご鑑賞をされたというラジオパーソナリティーの政木ゆかさん。支配人の窪寺さんがはじめてのオンライントークが円滑に進むようオペレーションしてくださいました。

政木さんの呼び込みで迎えられた塚本監督。この日はじめて鑑賞されたお客様に挙手していただくとなんと会場の90%。塚本監督は「おつかれのことと思います」と声をかけました。

さっそくの会場からの質問タイム。2度目のご鑑賞というお客様からは「脚本などの文章を映像化する際に気を付けている点やこだわってる点を教えてください。」というご質問。塚本監督は「作品ごとにどうしようかなと考えます。『野火』に関してはやっぱり原作があまりに素晴らしい小説。描かれてるのが田村一等兵の主観の世界なので、小説からナレーションとして引用することも必要かなと思ったんですけど、せっかくの映画なので、いっそもう振り切ってそれらを全部やめてしまって、自分の中で大岡昇平さんに失礼じゃないという範囲の中ですべて映像に置き換えました。それが吉と出るか凶と出るか本当に最後までわからなかったんですけど、言葉はなるべくそぎ落として映像の方にシフトさせてもらって。実は最初基本的な設定くらいは文章で入ってたんですけど、それも説明的なのでとっちゃいました。映画では本当に不親切なまでに説明されてなくて、いきなりお客さんがジャングルの中に突き落とされたようなところから、もうどうぞご勝手にご推測ください、みたいな感じにすることにしました。大きな映画だったらきっと許されないんですけど、自主映画なので実験的なやり方をしました。ジャングルという巨大な場所なんですが、何かジャングルという密室の中で行われる密室劇みたいになったらいいなとつくらせていただきました。」と答えました。「何回観ても衝撃的で心をつかまれました。」とのご感想には「戦争体験者の方から聞いたお話から比べるとこれでもかなり恐ろしさが削られています。」と述べました。政木さんからも「肉体的に痛みを感じてしまうつくり。」という言葉が出ると、塚本監督は「映像を通して戦場に実際いるとこんな感じと体験していただきたいと思ってつくりました。音もこだわりましたし、カメラが田村の見える世界しか描いてないので、お客様がその場にいるような感じになってもらえたらなと思いました。」と述べ、政木さんは「田村と一緒にいるというか、田村の目線に自分もなってしまいますよね」と応えました。

はじめてのご鑑賞の方から「他の役者さんではなくて監督自身がが田村を演じた理由」についてご質問。最初は田村役が監督だと気づかなかったそうです。塚本監督は「他の自主映画では僕の頭の中の混とんとした世界を描くのに僕が演じるのが一番効果的と思って演じてるんですが、『野火』においては当初自分が演じることは全く考えてなかったんですね。というのは『野火』という素晴らしい原作があって、いつか多くのスタッフをフィリピンに連れて行って、信頼のおける著名な俳優さんに出ていただいて大がかりな映画にしようと思っていたんです。でも実際に今つくらなければと思ったときは自分の経済状況が一番といってもいいくらい悪い時期で、自分のフィルモグラフィーの中では一番大きな映画になる予定のものが一番小さな映画になったので、最初はセルフィーで撮ろうかなと思いました。カメラを三脚に据えて僕自身がスタッフで僕が演ずる。撮影に入るぎりぎりまでその感じでやってたものですから、だんだん手伝ってくれる方がふくらんでいってようやく今の最後のかたちになったということで、当初は自分が演じるのは本当にがっかりしていました。アニメにしようかとも思ったんですけど、それだと10年くらいかかっちゃうんでちょっとそれじゃ世の中悪い方に変わり切っちゃってるかもしれないと、とにかくこの映画が世の中に出ることが肝心ということで、セルフィ―の方ではじめて、やがて今のかたちになったというのが正直な順序です。」と語りました。また「このとき最も尊敬するマーティン・スコセッシ監督の『沈黙(―サイレンス―)』のオーディションに受かっていたのですが、5年もその映画がつくられないでいて、僕がその役をやれるかどうかもわかんなくなっていました。マーティン・スコセッシの映画絶対に実現する!僕も出るし映画も実現するんだ!って拳をふりあげるとともに、過酷な『沈黙』の役をやるにあたってはこの『野火』を1回通過点にしようという気持ちも実はありました。この過酷な役をやればまた『沈黙』に向かえるという、モチベーションを奮い立たせたということもあります。」ともうひとつの理由を明かしました。

「肉体的にトラウマが残るような映画。観念とか頭でなくて本当に体で戦争を二度と起こしてはいけないとダイレクトに伝わる素晴らしい映画だと思っています。」という政木さんは「(今後)技術開発によってドローンで爆撃するような、戦地で生身の人間同士が戦ったりすることがなくなっていき、戦争の様相がかわっていくだろう」と指摘し、そんな中で、「毎年毎年この『野火』を上映し続けなければならない理由はどこに一番あると思いますか?」と問いました。塚本監督は「ドローン戦争になることによって攻撃する側は傷を負わないですけど、ドローンで攻撃される側で何が起こっているかというのはこの『野火』の世界であるということに変わりないです。この『野火』も、戦場でいきなり弾が飛んできてみんなぼろぼろになっていって、相手が誰だかわかんないっていう描き方をしているのですが、ドローンで攻撃されるのも『野火』の状況も同じじゃないかなと。戦争のかたちは変わってもその弾の被害にあうのは生々しい人間なので、そこでとくにこれから未来がいっぱいつまっている若い人が肉体と精神をもうこれ以上ないっていうくらい陰惨な形で破壊されることがいいか悪いかって言ったらこれはもうどんな理由があったとしても悪いとしか言いようがないので。そのことは描かれてます。これは第二次世界大戦であったことですけど、そこから何らかのことを学習して次の世代に受け渡すことがちゃんとできるのかっていうのが問題なのですが、これから新しい未来に向かってというよりなんか逆行して戦前や戦争をやってたころへのひとつの回帰願望みたいなものを強く感じることがあり、それが何だかきな臭い嫌な感じがしちゃうんです。75年間戦争をしなかったっていうのは完全にもうなくなって、戦争できる国のかたちに決まったレールの上を歩いてるのかのごとくそっちにはっきり向かっている。何とかそれは避けたい。映画であまりテーマ主義的に描くのはよくないのであくまでも大岡昇平さんの原作をありのままで描いて、これを通して戦場ってこういうことなんだけどみなさんどう思います?あるいはどうしていったらいいんでしょうね?ってことを考えていただく材料にしたらいいなと思うんですけどね。なんかもとの第二次世界大戦のころにみすみす戻るっていうことを避ける方法が人間の英知としてないのかな?っていうのが自分の考えなんです。」と語りました。

鑑賞後すぐは「頭の整理がつかない」と最後にやっと言葉を聞かせていただけたお客様からは「戦場のシーンもすごく怖かったのですが、(戦争から)帰って来てからの生活の様子を描いたシーンもすごく怖かったです。戦地から戻って来られた連れ合いさんを持つ女性もすごい状況だったのでは。DVとかも受けたんじゃないかなと想像しました。」とのご感想。「大事なところなんですけど、なぜそう思いましたか?」と逆質問をした塚本監督は続けて「それが実際多くあったんですよね。戦場って被害者でもあるんですけど、一方で加害者にもならないといけない。殺されたらそこで終わりですから、加害者になったから戻って来られるわけですけど。加害行為をされた方が日本に戻って来られた後にはPTSDがひどくて、因果関係ははっきりわかりませんが、家族とか奥さんに暴力をふるったりとか、そういう人がだいぶ多かったみたいです。PTSDで苦しむってことがものすごく多く実はあったという。定年まで一生懸命働いてるうちは忘れられたりするんですけど、定年を迎えて急にトラウマが戻って来て夜中に絶叫して起きたり。それが亡くなるまで消えないとか。戦争は戦場だけが苦しいんじゃなくて帰ってからがまたひどい後遺症を残すみたいですね。」と答えました。

ほかに「どうやってダイエットされたのか?」「ロケで一番過酷だったことは?」「次回作について」「配信で映画をつくることについてどう思うか?」「エンディングの意図は?」というご質問や、「凄まじい内容。」「(久しぶりに劇場で観たが)銃撃の音やジャングルの湿気など映画館ならではの体験と感じた。」「(はじめての鑑賞だが)まだ自分がフィリピンから戻ってこられない感じ。」といったご感想があがりました。

政木さんより改めて「戦後70年で封切られたとききな臭い時代になってきたと(監督が)おっしゃっていて、この6年後もきな臭いという言葉が出るとは。日本て本当どうなっていくんだろうっていう心配はありますよね。」と投げかけがあり、塚本監督は最後に「戦後70年の時点ですでにすごい危機感を感じてつくったのが、とっても恐ろしい状態にどんどんなっていっちゃうのがどうしたらいいんだろうというのはあるので、なんとか上映を続けていけたらなと思っています。表現者としては考える材料というか一般の人間としての実感みたいなものを訴えるしかないのかなと思います。」と述べました。

政木さんより「9回観ましたけど毎回違う発見や感想があります。毎年毎年上映してこうしてやっと観に来られたという方もいます。きっと来年もDenkikanでは上映があると思います。」との言葉に、会場の窪寺支配人は「はい」と答えました。

7年連続上映のDenkikanさん、政木さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

Denkikan
https://denkikan.com/

7年目の『野火』上映概要
8/7(土)1日限定上映 18:00~
上映後、塚本監督オンライントーク

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