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2021年8月7日(土)@シネマ尾道・塚本監督オンライントークレポート

7年目の『野火』この日の塚本監督オンライン行脚3か所目は広島のシネマ尾道さんです。MC河本支配人の進行でオンライントークを行いました。『野火』公開時に大林宣彦監督との対談も行われた映画館。お客様との有意義な時間となりました。

2021年8月7日(土) 16:05の回上映後
会場:シネマ尾道
MC:河本支配人

今夏、「戦争と平和特集2021」と題し、戦争をテーマにした国内外の名作12作品をそろえた大々的な企画をされているシネマ尾道さん。その大きな特集上映の中の1本として、また同日のヒルコ/妖怪ハンター』との塚本監督特集として『野火』を上映いただきました。

河本支配人の呼び込みで大きな拍手で迎えられた塚本監督。毎年自ら劇場のみなさまに1館1館上映のお願いをされます。「毎年塚本監督からメールが来るとそろそろ『野火』の季節だなと思います」という河本支配人は「2015年にはじめて『野火』で塚本監督が訪れた際、大林監督と戦争をテーマに対談をされたのはシネマ尾道の歴史に残る日」だったと語り、一方の塚本監督も「あの日は本当に素晴らしい日。それぞれの映画を上映いただいたことも、大林監督とお話できたことも、いくつかある人生のピークのうちのひとつくらい」大切な一日だったことを述べました。

まずは河本支配人より「2014年の製作から7年経ち『野火』という作品が今の時代にどう映っているか」という質問。塚本監督は「僕自身もどういうふうに映っているのかみなさんに逆に伺いたいところでもあるのですが、最初ははっと気づくと日本がだんだん危険な方向に向かっていってるんじゃないかという危機感でつくったんですけど、その後毎年毎年不安は募るばかりで、(最初に上映した)戦後70年から丸で数えると6年経ったんですが、(日本が)“戦争をする国”に向かっているのを避けるのは難しいのかなっていうところまで来ています。そしてそれをあまり強く感じさせないようにぬるぬると進んでいってる。恐いと感じています。」と語り、「ますます『野火』のようなものを観ていただいて考えるきっかけにしていただけたら」と答えました。河本支配人は毎年の『野火』の上映、また今回企画された戦争映画特集について「戦争をダイレクトに止めることはできなくても戦争をテーマにした映画を上映して地域の方々に平和や戦争について考えるきっかけにしてもらえたら」と述べました。

質問タイムではお身内の方がニューギニアで戦死され遺骨も帰ってこなかったという貴重なお話をしてくださったお客様がいらっしゃいました。一通の通知だけでどのような思いをしてどのように亡くなっていったのかもわからないその方のことをずっと思いながらご鑑賞されたそうです。「昔観た市川崑監督の『野火』は人間の原罪というかどこまでも堕ちてしまえる人間というようなことを感じましたが、今日は戦争の加害性と被害性、そんなことを感じながら観させていただきました。塚本監督は市川崑監督の作品との違いをどんな風にお考えですか?」とのご質問。「貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございます」と応えた塚本監督は「僕自身も原作を高校生のときに読んで、ほぼ同じ時期に名画座で市川崑監督版の『野火』を観て、非常に感銘を受けて強く影響も受けました。ただ『野火』に関して言うと僕が原作を読んで感じたつくりたいなと思った映画とは違う感じの映画だったので、やっぱり自分でもつくりたいなというモチベーションはそこからずっと消えませんでした。先ほど(質問者さんが)おっしゃったように市川崑監督の『野火』は人間の原罪とか心理描写にカメラがずっと注目してるのですが、自分はフィリピンの美しい自然と人間がこんなにちっぽけでぼろぼろという対比を通して人間の愚かしさみたいなものを表したいと思ったので、そこのところが大きな違いかなと思います。」と答えました

最後に戦争をテーマに描くことについて「戦争のやり方が下手だったからダメなのか、うまくやればいいのか。例えば反戦映画で負けて苦しい思いをしたから(戦争が)ダメということを描くのが本当に戦争がダメって言ってることになるのかと思っています。その点についてどうお考えでしょうか?」というご質問。塚本監督は「いくつかの描き方があると思います。僕自身は(『野火』は)反戦映画という以前にまず大岡昇平さんの原作を映画にしたいという思いがあって、僕のオリジナルの(戦争の)描き方をチョイスしたのではなく、あくまでも原作ありきです。その原作を通して戦争というのは嫌だな近づきたくないなと思ったということです。実際の戦場で亡くなるというのがもちろん嫌なことなんですけど、そのうち飢餓で亡くなってしまったのが70パーセントと圧倒的な人数。もちろんやり方がダメってこともあるのかもしれませんが、僕もこれを通してその後のヴェトナム戦争やいろいろな戦争のドキュメンタリーを全部観ました。結局そこで描かれてるのは圧倒的なある力を持ってる人たち、その人たちは戦争には行かないのですが、その方々が決めたことによって、戦争に行くのは自分たち、とくにこれから未来のある若い人が戦場に行って、精神と肉体をかなり恐ろしいかたちでぼろぼろにしていく。それがどうしてもいいと思えないし、そういうことで綿々と人類の歴史が続いてきたということはもしかしたら本能的なもので消せないものなのかなと思うかもしれないのですが、第二次世界大戦のときにそのことを散々やってもう嫌だってつくづく思ったのに、体験した方がいなくなることによって、また時となればやらなきゃしょうがないんじゃないかと思うことは人類として学習してないんじゃないのかという感じが僕としてはしてしまうので、それが嫌で描いたところはあります。」と答えました。

この日は塚本監督特集としてトークのあとにレストア&リマスターした『ヒルコ/妖怪ハンター』の上映もあり、こちらの作品についても少しお話をしてトークは終了しました。

シネマ尾道さん、ご来場のお客様、ありがとうございました!

そして『ヒルコ/妖怪ハンター』8/11(水)から13(金)まで上映も再びありますので、こちらもぜひご覧くださいませ。

シネマ尾道
cinemaonomichi.com

7年目の『野火』上映概要
8/7(土),8/8(日),8/10(火) 連日16:05~
8/7(土) 上映後、塚本監督オンライントーク

『ヒルコ/妖怪ハンター』上映日
8/7(土),8/11(水)~8/13(金)

<戦争と平和特集2021>
『白痴』7/31~8/6
『ヒロシマへの誓いサーロー節子とともに』7/31~8/6
『東京裁判』8/8 1日限定上映
『野火』8/7,8/9,8/10
『おかあさんの被爆ピアノ』8/21~8/27
『8時15分 ヒロシマ 父から娘へ』8/28~9/3
『映画 太陽の子』8/28~10/1
『東京物語』8/28~9/3
『カウラは忘れない』9/4~9/10
『ハンバーガー・ヒル』9/12,9/14~9/17
ほか追加作品あり

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