阪堺電車117号の追憶

何度か、このブログで取り上げた阪堺線(大阪の路面電車)を物語のテーマにした文庫を買った。

路面電車はそののんびり具合と、地元密着感が好きだ。
乗り心地はガタゴト揺れて快適とは言えないけれど、まっ平らとは言えない地面の上を走っているんだぞ、ていうダイレクト感が良いじゃないか。

そんな路面電車、それも私の好きな阪堺線がタイトルな物語。
読まねばなるまいて。

「阪堺電車117号の追憶 / 山本巧次・著」〜早川書房

大阪南部を南北に走る阪堺電車。
長い歴史がある。
その中でも戦前からの古い車両、117号に「なんらかの縁」のあった人たちの物語。

戦前、戦中、そして現在まで、117号が見てきたあれこれのエピソードをゆっくり順番に語ってくれる。

作者がミステリー作家ゆえに、ほのぼのだけでは終わらせてくれない二重、三重のヒネリがある。
でも、それはギスギスしたものではなく、文中の柔らかな大阪弁のセリフのせいもあって、読後に、ホッと一息つく…みたいな軽い緊張感。

読んでいて、頭の中に車内の様子が浮かぶ。駅の周辺の風景、走っているときの音、乗り降りする人たちの姿。

何度も乗ったし、あちこちの駅で下車もした。

活字の向こう側に、たしかにそれらが見えてくる。知らぬまに物語の中の乗客の一人になっているような臨場感。

活字の次元に自分を引き戻さないと、物語が読み進まない。

本の帯の「2018年 大阪ほんま本大賞 受賞作」の文字が光る。

鉄ちゃん、大阪旅行予定者に特にプッシュ。

もちろん、大阪に疎く、鉄道に全く無関心な人でも、間違いなく面白く読める。

また大阪に行きたくなる。
阪堺線に乗りたい。
読後、強烈にそう思った。






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