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感想

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#読了

『猫と罰』宇津木健太郎(著)

猫の一人称小説。タイトルが最高なので手に取る。 9つの命、本が湧いて出る書店、猫語を解す魔女、かつて文豪に飼われてた猫たち、店の常連、といった様子が主人公猫視点で語られる。 序盤から不思議要素がバンバンでてくるのでときめくのだが、お話的にはなんのつかみもなく、斜に構えた主人公の甘ったれた愚痴が続く。猫の孤高さとは対局でちょっとげんなり。 現在のお話とは別に、主人公の過去世のエピソードが語られるも、これがまた暗い。いかに不幸に死んだか、が続く。それだけに、かつて文豪に飼われ

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』R.P.ファインマン(著)大貫昌子(訳)

森博嗣のエッセイにユニークさを盛大にぶちこんだ感じの一冊。ファインマンの明るさがひたすら眩しい。 また、原著タイトルは『好奇心まんまん人間』というだけあって、好奇心が凄まじい。さらに行動力もともなってるので、とりあえずやってみる。性に合えば続けてレベルアップしてゆくので、エピソードに事欠かないのがすごい。前世は絶対ファーストペンギンだよ。 ノーベル賞受賞者だが、難しい学術的お話は皆無。だが、科学や教育のあり方については熱く語っている。応用力ゼロの暗記詰め込み教育を危惧してい

『恐怖を失った男』M・W・クレイヴン(著)山中朝晶(訳)

さすがクレイヴン、すさまじいページタナーっぷりで徹夜してしまった。絶妙な焦らし、引き伸ばし、蘊蓄、とどめの引き、これが短いサイクルで延々繰り返されるので、本当に本が置けなかった。お見事。 お話は、なぜか逃亡中の主人公が捕まるところから始まり(ジョーズの蘊蓄から始まる)、かつての上司から誘拐された娘を探してくれ、と頼まれ、この捜査と、主人公が今に至る経緯、それぞれの情報が小出しにされてゆく。 『ワシントン・ポー』シリーズとちがってティリーがいないが、大丈夫か? と思ってたが

『人類の知らない言葉』エディ・ロブソン(著)茂木健(訳)

主人公が粗野だしクスリもやるし暴力的だしで、かなりイマイチな出だしだが、異星人フィッツが殺されてからは、意外な展開ラッシュでかなり楽しめた。SFファンだとたどり着けない真相がお見事。 お話は、異星人とテレパシーで通訳する主人公が、自分の容疑を晴らすため、ボスの残留思念といっしょに捜査する、という超展開。 かすかな違和感を頼りに、聞き込みを続け、なんとか怪しい人間にたどり着くも、そこからも超展開で大満足。 正直、ミステリとしては、到底捜査と呼べるものでもないし、SFとして

『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』柞刈湯葉(著)

端的だがユーモラスな文章が楽しい。理系の森見登美彦という感じ。 ペンギン・ハイウェイの続編ぽい。 お話はタイトルそのもの。幽霊は信じないどころか、居ないことを知っているというスタンスの主人公が、幽霊とお話している不思議な女性(ひいおばあさんの同級生というが40代にしか見えない)のアシスタントをしつつ、町の不思議に気づいてゆく。 まず除霊風景がユニーク。安心させてから説得するスタンス。まず死の恐怖を取り除かないと説得どころではないらしく、自動車事故で死んだ霊に対して、エアバ

『指名手配』ロバート・クレイス(著)高橋恭美子(訳)

シリーズモノと知らずに読んだが、全く問題なし。構成とキャラが素晴らしいサスペンス。ラストが安易だけど、それ以外は最高なので、全体としては満足。 お話は、最近息子が分不相応な時計を身に着けてるし、多額の現金も部屋で見つけてしまった。犯罪に関与しているのでは? 調べてくれ。というシングルマザーからの依頼を調査する探偵パートと、殺し屋二人組が誰かを探しながら、関係者を殺してゆくパートが交互に描かれる。 探偵パートは、つてを使って、富豪宅への空き巣ですね、と速攻で解決するも、息子

『DV8 台北プライベートアイ2』紀蔚然(著)舩山むつみ(訳)

台湾ミステリの第2弾。あいかわらず本筋より雑談が多いが面白い。冒頭からノラ・ジョーンズの歌詞が転載されてて自由で笑える。 主人公は引き続き呉誠。前回の事件のせいで引っ越しを余儀なくされるが、新天地で良い感じのバー”DV8”の常連になり、友人にも恵まれ、仕事も舞い込んでくる。そしてロマンスまで! お話は、とある女性に依頼された人探し。パニック障害の原因は子供の頃、幼馴染が事件に巻き込まれ、引っ越しして会えなくなったからかも。再開したいので探してくれ、というのがメイン。20年

『夜の人々』エドワード・アンダースン(著)矢口誠(訳)

最初期のノワールモノの傑作。すでに完成形だよ。 積み重なる悪事、愛の逃避行、仲間と恋人の板挟み等々、逃げ切れるのか、堅気になれるのか、最後までヒヤヒヤの連続。そしてせつなすぎるラスト。最後の最後に明かされる真相に脱帽。言う事無し。 お話は脱走シーンから始まり、主人公と仲間二人が、仲間の親戚をたよりに逃亡してゆく。しかしこいつら、大人しく潜伏などせず、金が無いからと銀行を襲うような悪人。殺人も辞さない。 その逃避行中、主人公は仲間の親戚である少女キーチーとであい、惹かれてゆく

『ポケミス読者よ信ずるなかれ』ダン・マクドーマン(著)田村義進 (訳)

監督の解説副音声つきで映画をみてるようなメタミステリ。本筋をぶったぎって解説や蘊蓄が始まるので、作品にまったく集中できないが、途中から、本筋はこちらだと気づく。ミステリというより、ミステリエッセイだった。 解説でも「振り切れたバカミス」と言われており笑う。 ミステリパートは、会員制リゾートクラブに関する依頼を受けた探偵が、同級生をたより、週末をそのリゾートクラブで過ごし調査に励むも、湖で死体が発見され…。というベタなもの。探偵の調査で情報がちょっとずつそろっていく、かなりベ

『最果ての泥徒』高丘哲次(著)

最後のカタルシス、切なさは良いのだけど、肝心のゴーレムの設定がふわっとしすぎててのめり込めず。こんな技術あったら国家が血眼で囲うわ…と思っちゃう擦れっ枯らしには向かない、ジュブナイルファンタジー。 時は第一次大戦前、ゴーレム作りの師でもある父が殺され、一家の秘宝が盗まれる。その後消えた兄弟子3人を探し、真相を探ってゆくも、ロシアの政情が怪しくなってゆき…。というお話。 兄弟子3人をひっ捕らえて終わるのかと思いきや、2人目から様子がかわり、3人目からの展開はしびれた。終盤の風

『ゆうやけトリップ』ともひ(作)

女子中学生二人が学校帰りに住む町の心霊スポットを調査する事で仲良くなってゆくのが尊い、のだが、雨村さんは本当に存在するのか? という恐怖が根底に流れてるので、悪い意味でドキドキが止まらない。 各話の心霊スポットの謎解きはオカルトではなくミステリで、ちゃんと真相にたどり着くのだが(これもミステリとして普通に面白い)、学校の七不思議だけは、情報の断片がチラチラするだけ。そしてそれは雨村さんに当てはまるし、雨村さんは茜ちゃん以外だれとも喋ってないし…とめちゃくちゃ不穏。二人の絆が

『イズミと竜の図鑑』凪水そう(作)

わりとゴリゴリのファンタジー。とはいえ、スキルやレベル要素も出てきたり、さり気なくギャグも満載だったりで、かなり楽しく読める。宝石の国やダンジョン飯ロスの人々にオススメ。 お話は、わけあり獣人と呪われてる編集者が、竜の図鑑を改版すべく、取材に出かけ、土地ごとの文化、竜の生態にふれてゆく。 まず竜のオリジナリティがすごい。あの翼があってブレスを吐く爬虫類ではない。不条理が形を持ってるだけという感じ。 さらに各土地の文化もユニーク。文化人類学的な面白さも高得点。 それに馴染め

『母になる、石の礫で』倉田タカシ(著)

『あなたは月面に倒れている』が超好きなのでこれも読んでみた。『二本の足で』のスパムを3Dプリンタにした感じ。シリアスでハードSFで青春。 3Dプリンターが進化し、部品だけでなく、完成品も出せるし、食料や生体も出せる。なんなら人間を出せる時代のお話。規制の厳しい地球を飛び出した技術者たちが3Dプリンタに生成させた子どもたちが主人公。彼らはプリンタを母と呼びコロニーで好きに生きていたが、ある日接近する何かに気づき…。 逃避行と平行して、彼らの環境、技術、生い立ちがちょとずつ明

『ナッシング・マン』キャサリン・R・ハワード(著)髙山祥子(訳)

一家惨殺事件の唯一の生き残りが事件について本を書き、未だ捕まっていない犯人が読む、という設定が素晴らしい。そして、本の内容が微妙に真実と違い、犯人が疑問を持ち始めるというのがさらに良い。 が、本作はそれをまったく活かしきれてない。ラストは、え? そんだけ? という感じ。本と真実のギャップでなんかできたでしょ! とやきもき。ギミック不発のまま終わった感があり、かなりもったいない。 ナッシングマンのキャラがしょぼいのも辛い。この本のテーマの一つが、シリアルキラーは特別な人間じゃ