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2020年11月の記事一覧

文化史の小ネタいっぱい!『会計の世界史』田中靖浩(著)

「会計ギライ」の方を悩ませる、数字および複雑な会計用語は一切出てきません。「世界史ギライ」の方をげんなりさせる、よく知らないカタカナの人や、細かい年号もほとんど出てきません。登場するのは偉人・有名人ばかり。冒険、成功、対立、陰謀、愛情、喜びと悲しみ、芸術、発明、起業と買収…波乱万丈、たくさんの「知られざる物語」が展開します。物語を読み進めると、簿記、財務会計、管理会計、ファイナンスについて、その仕組みが驚くほどよくわかります。 簿記の資格用勉強本をぱらぱらめくった事がある程

わたしがかんがえたさいきょうのヒロイン『宇宙(そら)へ』メアリ・ロビネット・コワル(著)酒井昭伸(訳)

1952年、巨大隕石が突如、ワシントンD.C.近海に落下した。衝撃波と津波によりアメリカ東海岸は壊滅する。第二次大戦に従軍した元パイロットで数学の博士号を持つエルマは、夫ナサニエルとともにこの厄災を生き延びた。だが、エルマの計算により、隕石落下に起因して、環境の激変が起こると判明する。人類が生き残るためには宇宙開発に乗りださなければならないが……。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞受賞の傑作! 硬派な表紙とタイトル、さらにはヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞受賞というこ

中国がテーマの大雑把なアンソロ『中国・SF・革命』

完売店続出の「文藝」春季号特集を大幅増補の上単行本化。 新たにケン・リュウ、郝景芳(ハオ・ジンファン)の初邦訳作品と柞刈湯葉の書き下ろし「改暦」を収録。 劉慈欣『三体』の世界的大ヒットに代表される中国SFの現在と、中国をめぐる想像力の先端に挑む、日中米の作家たちによるオリジナルアンソロジー。 ■小説 ケン・リュウ「トラストレス」(古沢嘉通 訳) *初邦訳 柞刈湯葉「改暦」 *書き下ろし 郝景芳「阿房宮」(及川茜 訳) *初邦訳 王谷晶「移民の味」 閻連科「村長が死んだ」(谷

『ウォーシップ・ガール』ガレス・L・パウエル(著)三角和代(訳)

星間紛争中のある重大事件にかかわり、心に傷を負った重巡洋艦のAI〈トラブル・ドッグ〉は、終戦後にみずから軍を辞した。その後艦の武装を下ろして人命救助団体に加わり、新たな艦長サリーらと共にレスキュー活動に勤しんでいた彼女は、あるとき遭難信号を受信する。すべての惑星がオブジェのように加工されている謎の星系・ギャラリーで、民間船が何者かに撃墜されたというのだ。急ぎ駆けつけた〈ドッグ〉は、銀河の命運を賭けた戦いに巻きこまれる。はたして14歳のAI は銀河を救えるか? 2018 年英国

濃密なヴォルコシガン・サガ外伝『名誉のかけら』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)小木曽絢子(訳)

ベータ星の女性艦長コーデリアは新発見の星を上陸探査中、見知らぬ敵に襲われる。彼女を捕えた男はヴォルコシガンと名乗った。辺境の星バラヤー軍の艦長だ。なんと彼は部下の造反にあって、一人とり残されたのだという。捕虜の身ながら、彼女は持ち前の機転で彼の指揮権奪還に協力することに……。マイルズの母コーデリアの若き日の活躍! ビジョルドのデビュー作、ヴォルコシガン・サガ的には外伝、マイルズの両親の馴れ初め話。 バラヤー人とベータ人の将校同士がどうやって出会ったのか気になっていたが、ま

『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー(著)大森望、中村融(訳)

設計技師にして発明家のわが友人ロドリックはある夜、自分は神を殺すことができると語った……。マッド・サイエンティストのあるまじき発明を描いた表題作、死んだ友人の蘇生を奇妙な異星人に託した男たちが目の当たりにした悪夢「ブレイン・レース」、不死の異星人とその秘密を追い求める男との長きにわたる追跡劇「邪悪の種子」など、英国SF界の奇才ベイリーの作品群から、単行本初収録の名品全10篇を収録した傑作選。 アイデアと世界の多彩さにさすがベイリーと唸る。地中に潜る船、蟹の青春ストーリー、海

設定は面白いのに…。『楽園とは探偵の不在なり』斜線堂有紀(著)

二人以上殺すとその場で天使に地獄に落とされる、という世界になったのに、そこで連続殺人が起きると聞いて手に取る。 天使システムをいかにバグらせるか、というお話かと思ったが全然違い、システムに則った普通の殺人だった。トリックも予想の範疇を出ず。おもしろ設定が全然活かしきれてない。 せっかく面白い設定なのだから、もっと掘り下げろよと思わずにおれない。誰が殺人の判定をしているのか? 刺したが即死せず後日破傷風で死んだらどうなるのか? トラップを使って天使が人を殺したらどうなるのか

堂々完結!『天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ PART1~3』小川一水(著)

メニー・メニー・シープという人類の箱舟を舞台にした、“救世群”たちとアウレーリア一統の末裔、そして機械じかけの子息たちの物語は、ここに大団円を迎える。羊と猿と百掬の銀河の彼方より伝わる因縁、人類史上最悪の宿怨を乗り越え、かろうじて新世界ハーブCより再興した地で、絶望的なジャイアント・アークの下、ヒトであるヒトとないヒトとともに私たちは願う、青葉よ、豊かなれと。天冥の標10巻・17冊、ついに完結。 パート1、いきなり救世軍いじめから始まるので気分が沈んだが、その後は竜との艦隊