見出し画像

つくられるものがつくるものをつくる ②

二. 鉛筆削り

私は鉛筆削り。私はずっとヒロ君に大切にされてきた。
ヒロ君は家に帰ると机に計算ドリルを開いて宿題をし始める。
私はそんなヒロ君をずっと見守ってきた。
ヒロ君は私のことが大好きでちょっとでも鉛筆が丸くなってくるとすぐに私を使ってくれた。

私はヒロ君をずっと見てきた。
学校のかけっこで一番になって嬉しそうに帰ってきた日。
友達や親と喧嘩して泣いていた日。
新しいゲームを買って早く宿題を終わらせようとしていた日。
誕生日でわくわくしていた日。

全部。全部。見守ってきた。ヒロ君の成長を。


気付けばヒロ君は中学生になっていた。
そんなある日の事こと。
「お!シャーペン使いやすいじゃん!なんで今まで使わなかったんだろうなー」

ヒロ君はその日から私を使わなくなっていった。
時々ヒロ君が絵を描くときに使われることもあった。
でもヒロ君が高校生、大学生になるにつれて鉛筆を使うことはなくなっていった。

けど、それでも私はヒロ君のことを見守ってきた。
机に突っ伏して寝ていた時も。一生懸命勉強していた時も。見守ってきた。

そんなある日、ヒロ君は部屋からいなくなった。
結婚して実家を離れることになったそうな。
私はずっと机の上にいた。ここでヒロ君の成長を見守ってきた。

『お、鉛筆削りかー。どうしよっかなー。ま、捨てるのもったいないし一応持ってくか。』

ヒロ君は私を持って行ってくれた。捨てられると思っていた。
けどヒロ君は私を捨てなかった。
うん?なんだかあったかいなぁ。なんでだろう?

新しい家に着いた。
私はまた机に置かれていた。
それから何年経ったろう?
よく覚えていない。

私が再び使われる日が来たんだ。
使ったのはヒロ君によく似たこどもだった。
うん。瞬時にわかったよ。ヒロ君のこどもだね。
そっか……もうそんなに時が経ったんだね……そっか……

「??? ママー!えんぴつけずりがちょっとぬれてるー」
「ん?ほんとだね。なんでだろうね?」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?