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お話の前に

 町の外れに、一軒の古びたお屋敷があります。温かい色味の石造りの壁にはツルバラが這い、五月にはそれが一斉に花を咲かせるので、まるでお屋敷全体が小さなバラの花でできているように見えます。おもてには、小綺麗に手入れされた田舎風の庭があり、意匠を凝らして刈り込まれた生け垣や巨大な噴水がある代わりに、カエデやモクレン、トネリコの木立が伸びのびと茂り、小鳥たちを誘っています。
 すぐそこのコマドリの奥さんが歌っているのを聴いてみましょう。

ここはとっても素敵なお庭、素敵なお庭
私の赤い上着は
ひなげしのドレスよりきれい
薔薇のドレスより
それから、夕焼けよりもきれい
ほらほら、ここは素敵なお庭

 それに今日は日曜ですから、奥の木にとまっているミソサザイは、教会でお説教を聞いてきたのでしょう。覚えた言葉をそっくり繰り返しています。

野原の花がどのように育つかを
考えてみなさい
チチピ、チチピ、チチチチ……
今日は野にあって、
明日は炉に投げ込まれる草でさえ、
神はこのように装ってくださる

 庭をもっと奥に入ると、お屋敷の書斎の中を窓越しによく見ることができるシラカシの木があります。今から何十年も前、この木の枝に拵えられた巣で生まれた雀の若鳥は、お屋敷の中で起こった、ある小さな出来事について詳しく知ることになりました。そしてそのことを歌にして、朝から晩まで歌い続けたので、次第にこの庭に来る小鳥たちは皆、そのことをよく知るようになりました。小鳥たちは雛鳥に歌って聴かせ、雛鳥は大きくなると、さらにその子供たちにも同じようにしたので、庭の小鳥たちは今でも皆、この歌を歌うことができます。ほら、そこの垣根の上でも、ヒバリが清らかな声で歌っています。

あの娘はもう 戻ってはこない
この部屋に
寂しき日々を 置き去りに

さようなら、さようなら
乾杯を!
限りない 夢の国!


透明の ガラスの粒は
流れない
冷たい頬を もう二度と

さようなら、さようなら
楽しんで!
終わりなき 人生を!


春の風 恋人たちを
連れてゆく
ああ美しき キュ・ド・ランプ!

さようなら、さようなら
祝福を!
とこしえの 愛の鐘!

 もちろん雛鳥たちは、この歌を聴いただけでは、お屋敷の書斎で何が起こったのか、その美しく不可思議な出来事のすべてを理解することはできません。ですから親鳥は、この歌を雛鳥たちに教える時には必ず、お話を一緒に語って聴かせるのです。さあ、今からそのお話を、皆さんにもお聴かせしましょう。


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