「男らしさ、女らしさって何だろう?」 生理用品のデザインを生み出す、若手男性デザイナーにインタビュー
「 #NoBagForMe プロジェクトのスタッフは女性だけですか?」と、お問い合わせをいただきました。プロジェクトを支える面々の、男女比率はほぼ半々。そして、今回パッケージデザインを担当しているのも、ユニ・チャームに所属する若手の男性デザイナーです。「幼い頃からずっと、男らしさ・女らしさって何だろう、と考えてきた」という入社6年目の彼。
実は、今年4月に発売した「ソフィ ORGANIC®オーガニックコットン」シリーズも彼が手掛けたもの。
#NoBagForMe プロジェクトメンバーの5人にとって、世に出す生理用品のパッケージデザインを考えていくのはもちろん初めてのこと。
同シリーズのデザインプロセスを共有してもらいながら、パッケージデザインについての理解を深めていきました。
「ソフィ ORGANIC®オーガニックコットン」シリーズが生まれるまで
デザイナー 今日は、デザインが決まる前の案を持ってきました。「私はこっちのほうがよかった!」など、どんどん言ってもらって大丈夫です(笑)
全員 (笑)
デザイナー 意図したのは、肌に優しいイメージを伝達するためにどんなデザインが良いか? ということ。
たとえばこういうアウトドアな感じ、中身を見せるクラフト系の方向性もありました。
(※企業秘密のため、あまり画像をお出しできません……。イメージしていただければ幸いです!)
これはシンプルな茶色です。
こっちはハワイアンなおみやげらしい感じ。
オーガニック・ファッションをイメージしたもの。
あと、リアルなイラストを使ったものも。
優しい雰囲気をバイカラーな感じだとか……。
(以下略)
……と、世に出なかったデザインを共有しつつ、ひとつひとつの案について、かなりの熱量で解説する彼。
瀧波 これだけ素敵なものがたくさんあるのに、売り場にはなかなかたどり着けないなんて衝撃です……!
デザイナー ありがとうございます。お店に出るまでにはだいたい10ヶ月ほど。その間、何度も何度も消費者テストのプロセスを踏んでいます。
……あとはこういう、無印っぽい感じ。こういうクラフト紙っぽい案もありました。
ゆうこす ナチュラルローソンで売ってそう!
デザイナー あとはこういう、ボタニカルなもの。これは最後まで人気高かったです……で、これが最終のやつの原型です。
全員 ああ〜!!!!!!!!
ハヤカワ やっぱかわいい、清潔。この写真がまた、インスタのフィルターかけたっぽい感じなのがいい。
ゆうこす このデザインのおかげで、タンポンに挑戦できる人も増えてそうですよね。これなら怖くない。
デザイナー コットンツリーの写真は大きいですね。写真の情報量はやっぱりすごいので。
塩谷 改めて、いま売っているもの、いいですね。
瀧波 これを見ちゃうと、確かにさっき見た他のデザインはちがうなって思いますね。同じ「オーガニック」でも、他のはオーガニックフードのパッケージみたいに見えちゃう。「何がオーガニックなのか?」が一瞬ではわかんないですよね。「綿がオーガニック」だってわかるには写真のほうがいい。
デザイナー おっしゃる通りです。やっぱり売り場では30秒以内で判断されてしまうので。一瞬で見て、一瞬でわかるようにしないといけないんです。
データによると、人が生理用品売り場に滞在するのは平均1分程度。その短い時間で、今まで自分が使っていた商品以外に目を向けさせるには、棚で目立たなければならない。
一般的な生理用品はマスの消費者へ向けて商品をデザインするので、どうしても目立つものにしなければいけない。それに加えて消費者リサーチの数字を見ると、一番人気なのは既存のピンクや、パステルカラーなどのやさしい色合いだったりします。
ただ一方で、もっとシンプルなデザインを求める方もいらっしゃいます。
このオーガニックシリーズでは、「女性だからピンク」というステレオタイプから離れ、「もっとシンプルにできないのか?」という声にお応えできるよう思い切りました。オーガニック商品を志向される方の、厳しい審美眼に耐えられるようなデザイン、買うことで幸せになれるようなパッケージを目指しました。
「男らしさ、女らしさってなんだろう」卒業制作で考えたこと
瀧波 それにしてもデザインって、女性がつくれば女性目線、男性がつくれば男性目線っていうのがすでに思い込みですよね。個人の感性と、両方のスタンスを考えられる想像力。
──そのあたり、どのように思いますか?
デザイナー そうですね……私ごとですが、美大の卒業制作では「デザインにおける性差」をテーマにしていました。たとえばゴシック体は男性的な印象、セリフ体は女性的な印象を受けますよね。いろんな製品のパッケージを分解して、それぞれの要素を抜き出して逆にしてみたり。そうすれば中性的に見えるのか? などと。
自分自身、幼い頃からかわいいものが好きで。それに対して周りの同級生からは、男らしくないと言われて傷付いた経験があり……ずっと、男らしさ・女らしさって何だろうと小さい頃から考えてる子供でした。
あっこ うわ〜!お仲間ですね!!!
デザイナー (笑)そうですね! で、たまたまこの会社に内定をもらえて、入社以来「センター・イン」シリーズや赤ちゃん向けの製品のパッケージを担当しています。毎日、もっとデザインで良くできることはないか? と考え続けて今に至ります。
──大企業の製品デザインならではの大変さがあると思います。差し支えのない範囲で聞かせてください。
デザイナー 消費者の声を親身になって聞き、それをしっかり形にできるようなパッケージデザインを作りたい! と思ってユニ・チャームに入社しました。
ですが現実では、たとえば20代女性の中でも当然それぞれの趣向があり、全員の意見を聞くことが出来ず、もどかしく感じてしまいました。
さらに100以上の商品が並ぶ店頭の棚でどう目立たせるのか、特徴を理解してもらい、好意を持ってもらえるのか……と。
より多くの人に届く、大多数の人に評価してもらえるデザインを考えるのはとても難しいですが、とても楽しいところでもあります。
ゆうこす ゆうこすもYouTubeのサムネイルについては、ちゃんと目立つことを意識しています。
瀧波 私も。漫画も部数を考えないと。売れないと意味がないからね。
塩谷 私は逆に「人数は少なくていいから、深く理解してもらいたい」と思ってしまう性格なのですが……。でも全国各地のドラッグストアに展開するとなると、生理がある人みんなの必需品ですし、そのニーズに応えていくのは本当に大変なことですね。
プロジェクトへの反響について、いま思うこと
デザイン発表後の反響を受け、後日、感想を聞くことができました。
──プロジェクトへの思いを聞かせてください。これだけ反響がある中、率直にどう感じていますか?
デザイナー SNSの方々からは、正直な意見が聞けて本当に参考になります。ネガティブなものでもポジティブなものでも、これだけ議論をしてくださっていること自体をうれしく思っています。メンバーのみなさんも真剣に取り組んでくれていることにも、強いやりがいを感じます。
今までの生理用品はどうしてもマスに向けてデザインをしなければならず、海外のパッケージのような、要素の絞られたデザインを作ることがなかなかできませんでした。ですがこれからは、女性らしいといえばピンクでしょ、みたいな世の中のステレオタイプを取り払って、本当に人の心に響くパッケージをつくりたい。メンバーはじめ、消費者のかたの声を聞き、選択肢を増やしていきたいです。
今回はその第一歩だと思っています。プロジェクトの最後まで、全力で取り組みます。
(聞き手・構成:村山佳奈女 写真:山口雄太郎)
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