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ファッションブランドと生理用品のコラボから考える。コロナで変わる「日常」と「デザイン」

私たちの平凡な“日常”が、変わりつつある。

リモートワークが導入され、授業はオンラインに。イベントごとは軒並み中止で、飲み会やショッピングさえも自粛を求められる。ようやく全国で緊急事態宣言こそ解除されたものの、いまだに予断を許さない状況は続く。

“不要不急”とは。本当の“生活必需品”とは何か。お気に入りのブラウスの、袖先に施されたレースは……?

「平凡な日常に少々のドラマチックを」

そんなコンセプトを持つアパレルブランド「MURRAL(ミューラル)」が、いま生理用品「ソフィ センターインコンパクト1/2」とコラボレーションするのは、もしかすると必然だったのかもしれない。

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5月下旬に発売した「ソフィ センターインコンパクト1/2 MURRALデザイン」全4種。同製品は、普通のスリムナプキンの1/2サイズ(※ユニ・チャーム製品比)と、ソフィブランドのなかでも、ポーチやポケットでの持ち運びやすさに特化したシリーズだ。

ユニ・チャーム所属の若手男性デザイナーと、MURRALの村松祐輔さんと関口愛弓さんという3人のデザイナーの対話から、異色のコラボレーション実現までの道のりを振り返りながら、コロナ禍の影響で起こっている日常やデザインの変化について探った(本インタビューは、緊急事態宣言の最中にzoomで実施されました)。

個性がせめぎ合う“ベストバランス”のパッケージ

──コラボパッケージは、まさにMURRALらしいレースと刺繍が際立つデザインですね。今回のコラボレーションは、どんなきっかけで始まったのでしょうか?

村松祐輔(以下、村松) ちょうど1年ほど前、これからアパレル以外の分野にも挑戦したいと思っていたタイミングでした。#NoBagForMeプロジェクトに共感したMURRALのスタッフが、ユニ・チャームの方とお知り合いだったご縁で、僕らにお声かけいただいたんです。

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MURRAL
村松祐輔さんと関口愛弓さんのデザイナーデュオによるウィメンズファッションブランド。2013年、同じ杉野学園ドレスメーカー学院出身の2人で発足。2020年春夏コレクションからリブランディングし、より日常に寄り添うブランドを目指す。ブランドネームは「壁画」に由来

ユニ・チャームデザイナー(以下UC) 入社以来「センターイン」シリーズのパッケージをデザインしてきた僕個人としては、以前からの流れを意識していました。今回のMURRALとのコラボで、ファッション性をもう一段高めたいな、と。

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2019年9月に刷新した現行品は、2017年のお客様を巻き込んだデザイン総選挙で消費者投票1位となったものを踏襲。個別ラップの花柄が、繊細で大人っぽい。

UC なので、今回さらにジャンプアップして、センターインがファッションリーダー的な立ち位置になることが裏目標でした(笑)

村松 僕らにとっては、ここまで大きなコラボも、パッケージのデザインも初の試みです。でも、すごく共感できたのが「店頭に並んだときに、華やかでわかりやすいデザイン」を追求している点。そこは洋服のデザインにも通じるな、と。

関口愛弓(以下、関口) 反対に、難しさと同時におもしろみを感じるのは、平面での表現ですね。立体になって初めて完結するお洋服と違って、パッケージという二次元の世界で、どう私たちの良さを伝えられるか。ユニ・チャームさんの知見からいろいろ教わりました。

村松 実は、最初のデザイン案に刺繍はなかったんですよ。たとえばスカーフ柄のような「コンパクトに持ち運べる」というセンターインの特長を表現したくて。やり取りを重ねるうちに、MURRALの得意とするものをもっとダイレクトに反映しようと、いまの方向性になっていきました。

過去案一覧_ぼかし+モザイク

デザインの過程で試された数々の試作案。試行錯誤を経て、刺繍をモチーフにした最終案へと絞られた。

UC 僕が考えていたのは、MURRALらしいデザインとグラフィックの組み合わせでした。プラスアルファでイラストモチーフを入れてみたり。そのとき、上司から「MURRALのお洋服を見て、なぜ『かわいい』と思うかを分解して考えて」と言われたんです。

 勝手な意見なんですけど、MURRALの魅力は、まず“粗密のバランス“。たとえば、密度のある描写の刺繍と、フラットな面とのバランスがすごくきれいだな、と。

 もう一つは“異素材感“です。MURRALのお洋服は、キラッとした刺繍とマットな質感の生地など、異素材を組み合わせているイメージがあったので、そこをパッケージでもうまく表現できないかと思っていました。

 しかし、ポリフィルム製のパッケージでは、なかなか表現しづらくて、刺繍のキラッと感を出そうと印刷で特色の銀を入れてみたり……これはテスト印刷で、かえって鮮やかさが失われてしまい、MURRALの刺繍の魅力を損なうので、断念しました。最終的には、MURRALらしくも、センターインの既存顧客が迷いなく選べるようなバランスに仕上がりました。

──改めてパッケージを見比べると、確かにシリーズ感がありますね。

UC そこは毎回とても気を使っています。ひと目で「センターインだ」とわからないデザインだけは、絶対に避けなければいけません。“生理用品らしさ”を無くそうとすると、一方で既存のユーザーさんが売り場で選べなくなってしまうリスクがあります。

 そういった要素を考えると、やはりこの最終決定のパッケージデザインこそ、MURRALらしさとセンターインらしさのベストなバランスだと感じます。

地道すぎる作業を経て、デザインに込められたリスペクト

──MURRALの村松さんと関口さんは、これまでの#NoBagForMeの活動についてどんな印象を抱かれましたか?

村松 「男らしさ、女らしさって何だろう?」 というインタビュー記事を読ませてもらって、僕も女性のデザインを手掛ける立場として思うのは、やっぱりどうしても性差は越えられないじゃないですか。

村松 でもそこに寄り添うというか、男性・女性の境界を一旦なくして、1人の人間として相手を尊重する姿勢がデザインにとってすごく大事だと思っています。このインタビューで語られていた思いには、深く共感する部分がありました。

関口 実際のお仕事ぶりにも、その想いが反映されていますよね。私たちのお洋服を自分なりに捉え直してくださったり、パッケージデザインというお仕事の、その手前から誠実に取り組んでくださるんです。

 インタビューを読んで、「こんなふうに考えられる人だからこそ、このパッケージが作れるんだな」と腑に落ちました

UC ありがとうございます。僕も、お二人のことをすごく尊敬しているんです。MURRALのアトリエにも何度もお邪魔して、MURRALに込められた熱い想いを聞くうちに、刺激を受けて「もっとちゃんと作らなきゃ!」って、どんどんモチベーションが上がっていきました。

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UC 最終決定した個包装はこちらなんですが、実は、社内で「MURRALのコンセプトの“Day in Dramatic”って、すごく素敵な言葉だよね」と盛り上がって、勝手にデザインに組み込もうと目論んでしました(笑)
 
村松 嬉しいですね(笑)。そういえば、完成したパッケージですごくよかったなと思えたのが、レースの生地や縁取りまで落とし込んだこと。刺繍のベースがよく表現できているな、と。ただの花柄じゃなくて、レースのリアルさが伝わってきました。

UC 僕が一番こだわった部分です。そこを省略するだけで、せっかくの本物の刺繍にしかない立体感が失われて、ただのグラフィックみたいになってしまう。デザイン用にデータ化するには、細部まで収めたチュールの写真の背景を、すべて手作業で抜かなければいけないんです。

村松 チュールの穴を全部!? すごく大変な作業じゃないですか!

UC サポートしてもらったデザイナーさんからも、「ほとんどの作業時間を背景を抜くことに費やした」と言われましたね(笑)。でも、どうしてもこだわりたかったポイントなので、気づいていただけてものすごく嬉しいです。

関口 その一つひとつの穴にこそ、私たちのようなファッションブランドとコラボレーションする意味があるように思います。

UC ちょっとずつ出るムラが、本物のレースを生かした表現につながったと思っています。刺繍風デザインならいくらでもあるので、「MURRALの刺繍にしかない、あの美しさを絶対に再現するぞ!」と決めていました

生理用品が“自由”になっていく未来

──村松さんが異性に向けたデザインを手がける上で大切にしていることはありますか?

村松 MURRALのお洋服には、なるべくポケットをつけるようにしているんです。僕らデザイナーにとってはある意味オプションで、ないほうが服のラインを美しく作りやすい場合もある。大前提として、洋服が美しくあること。かつ、そこに実はポケットが存在するという、美しさと機能性のバランスを大事にしています。

 僕は、自分の作るお洋服を身につけることができません。だからこそ、仕立てや素材、ボタン一つにも、妄想が膨らむこともあります。逆に、一緒にデザインしている関口の日常生活を客観視して「ここが足りないんだろうな」という気づきや、2人のやり取りからも自然とアイデアが生まれます。

関口 ポケットへのこだわりは、センターインコンパクトとMURRALの共通点ですよね。

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「生理の日でも明るい気分で、おしゃれも楽しみたい女性を応援したい」との想いから、持ち歩きやすいポケットサイズやデザイン性を追求する「ソフィ センターインコンパクト1/2」

今回、生理用品のデザインに携わって改めて感じたのですが、既存の製品には、わかりやすく「生理用品」というデザインが多いですよね。#NoBagForMeプロジェクト限定デザインのパッケージは、素直にかわいいと思えました。

 これまでになかった選択肢が世の中に浸透していくと、少しずつ生理の概念や価値観も変わっていくんじゃないかと期待しています。

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多彩な5人のメンバーと共同開発し、SNSや街頭での人気投票で決定した#NoBagForMe限定デザイン。生理中でも猫のようにゆったりと過ごしてもらいたいという思いを込めたタンポンと、うつろいやすい生理中の体調を空の色で表現したナプキン。

村松 空間表現も含めた新しいアプローチも楽しそうですよね。店頭で他社製品と並んで売られてるのが当たり前だからこそ、いい意味で敷居を上げたり。製品の質はもちろん、どう見せていくかも重要ですから。

UC イベントなども何か挑戦できたらいいですよね。今はこのような状況なので、特設サイトをもっと充実させるとか、オンライン上のアプローチを変えるといった工夫はできそうです。

──新型コロナの影響で、いろいろな日常、買い物の仕方も変わり始めています。作り手であるみなさんから見て、購買体験の変化がデザインにどう影響すると考えますか?

村松 急速にネットでの購入がスタンダード化しています。そんな状況で求められるのは、画面越しの表現をいかに多彩にできるか、ということ。InstagramやTwitterのようなSNSはもちろん、ブランドサイトのコンテンツにもバリエーションを増やし、1アイテムに対して10の表現が求められると想います。

 ブランドのアイデンティティや情熱が明確でないと、埋もれてしまうからです。たとえば、MURRALには何を買いに来ているのか。「このブランドだったらこれ」とめがけて買いにきてもらう。店頭でのコミュニケーションが当たり前の世代としては、少し寂しさはあるんですけどね。

関口 私も同じことを考えています。シンプルな写真1枚に、洋服に込めたこだわりを詰め込んで、自分の着ている姿をイメージしてもらう。どういう素材で、ステッチはどんな色か。そもそも、1着の中にいかに愛情を込められるかがカギかもしれません。

UC 画面越しが前提だと、無地の素材感のようなこだわりを伝えるのが本当に難しいですよね。触れば違いがわかるけど、悲しいかな、今はそれができない……。

関口 ブランドの個性をどう表現するかは、もっと工夫していかなければならない部分ですよね。素材を生かしたシンプルなデザインについてきてくれるお客さんも必ずいます。どんなブランドらしさや強みであれ、いかにレベルを上げて発信していけるかだと思います。

UC 生理用品の場合、ECサイトでの購買がメインになると、パッケージの自由度が上がっていくはずです。

 お洋服は店頭の販売スタッフさんが説明してくれますよね。我々の場合、そこをパッケージが担わないとならなかった。ECでの購買がメインになれば、今度はそういった必要な情報はサイト上に載せて、パッケージから引き算できます。すると、“生理用品らしさ”が、ある意味で必要なくなってくる。

 購買体験の場がEC上に切り替わっていけば、生理用品を選ぶ基準も大きく変わってくると思います。それに合わせてパッケージのデザインも変えていかなければならない。日本では、生理用品のネット購入率は10%程度(※ユニ・チャーム調べ)と、まだ低いんですけど、徐々にEC専用デザインは増えているので、今後ますます忙しくなるかもしれません(笑)

変わりゆく日常のなかで、デザインにできること

──MURRALのリブランディング後のコンセプト「平凡な日常に少々のドラマチックを」は、この状況下にしっくりくる言葉です。

村松 1年前から構想し始めて、2020春夏シーズンにリブランディングを発表しました。展示会を開いた3月半ばには大変な騒ぎで、来る人みんなに「現状に重ねてこのテーマにしたんですか?」と聞かれましたが、もちろん予期していませんでした。

 ブランド立ち上げから7年経って、改めて僕らが自然体で表現できることを考えた結果、今のコンセプトにたどり着きました。“少し手を伸ばせば届くラグジュアリー”を僕らになら作れるんじゃないか、と。 

 奇しくも“日常”をコンセプトを掲げたからには、より一層そこにアタッチしていかなければと思って、ブランドとして新たな試みも始めています。デザインデータを活用して、期間限定の壁紙や塗り絵の配布といった画面越しのコミュニケーションを増やしました。

村松 プレイスマットとコースターという生活雑貨のセットも初めて作りました。日常の価値観もガラッと変わりだしているので、そこにどう寄り添いながらMURRALからどんなアプローチが提案できるか、改めて問い直していこうと思います。

UC まるで現状を予見していたかのような展開ですね。

村松 今まで以上にデザインやクリエイティブの担う役割が大きくなりつつあります。今回のコラボデザインのセンターインが発売するタイミングで、世の中がどうなっているかはわからないのですが、きっと、日常的に使うものとして受け入れられて、ほんの少し気分を上げるアイテムになってくれるんじゃないかな、と期待しています。

UC そうですね。センターインはソフィの数あるブランドのなかでも、どんどん挑戦していく立ち場。世の中の変化を捉えて、デザイン性で生理用品の業界を牽引していけるように、もっとチャレンジしていきたいです。

──店頭で目立つためではなくて、所有する喜びにつながるデザインは、ファッションにも生理用品にも共通して大切になる気がします。MURRALコラボデザインの「ソフィ センターインコンパクト1/2」を、たくさんの方に手に取っていただきたいですね!

(聞き手・構成:中道薫 / 商品撮影:玉村敬太

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