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コロナは女性が直面する課題にどのような影響を与えた? | 「Women in Leadership」イベントレポート②

2021年3月、UN Women(国連女性機関)日本事務所の後援のもと、国際女性デーによせたオンラインイベント「Women in Leadership」を#NoBagForMe PROJECTが主導して開催しました。そのセッションの模様を全3回に分けてお届けします。 

第2回は、ふたつ目のセッションとなる「コロナ禍、女性が直面する課題と支援」。ここではソフィの野元世界がモデレーターとなり、UN Women日本事務所長の石川雅恵さんと、オンライン診察でピルを処方するアプリ「スマルナ」を手がける株式会社ネクイノの石井健一さんが語り合います。

 新型コロナウイルスの影響によって、女性を取り巻く環境はどのように変化しているのでしょうか。

コロナによって露わになったさまざまな課題

まずは「グローバルの課題と支援」について。コロナ禍においてどのような問題が起きているのかを石川さんが説明します。

石川:コロナによって問題化したというより、コロナが広がることで、すでにあった問題が浮き彫りになったと考えています。たとえば、企業の経営悪化によって仕事を失う女性が増えているのですが、これはそもそも非正規雇用で仕事をしている割合が男性よりも女性の方が多いことが起因となっています。また、家事や育児などの無償労働が増えているという報告もあるんですね。これも家事や育児は女性の仕事という認識が世界的に根強いことが明らかになったと思います。

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石川さんによれば、女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)が見落とされるケースも増えているそう。「コロナでそれどころじゃない」という認識が広がることで、女性特有の病気への意識が削がれていく。コロナによって女性を取り巻く環境が変化しているようです。

一方、石井さんからは「女性の健康面に理解を深める仕組みを」と題して、コロナ禍における国内の問題について紹介がありました。

石井:コロナによって企業と従業員の関係が大きく変化しましたよね。もちろん良い面もありますが、一方で日本は「何時間働いたらいくら」という社会構造になっているので、働く時間が減ることで収入が減ってしまうバックグランドがあったと思うんです。そのなかで胃がんや肺がんといった命に直結するものとは違って、リプロダクティブ・ヘルスはあと回しにされてしまう領域になっています。しかも、非正規雇用だと健康診断のために使う2時間が収入減に直結してしまう。そうやって医療との距離がコロナ禍で生まれてしまいました。

こうした課題を前提に、石川さんはさらに話題を掘り下げていきます。そのなかで石川さんが強調したのが「女性のリーダーシップと参画」。それは国会議員の女性の数が少ないといった話とは少し異なる、もっと身近なことに対する言及です。アルバイトのシフトに女性の意見が反映されているか、町内会で物事を決めるときに女性の意見が反映されるか。そんな場面で女性の参画ができていないと訴えました。

石川:女性が意思決定に関わることはグローバルな視点で見れば当たり前になっているのですが、それが日本ではまだまだ実現できていません。理由のひとつは、無償労働が多いこと。日本の女性は常に100点満点の母親であり、妻であり、嫁であり、娘であることが求められています。この仕組みを変えていかなければ、女性がリーダーシップを発揮することは難しい。
国連では「3つのR」と呼んでいるのですが、「Recognize(認識する)」「Reduce(減らす)」「Redistribute(再配分する)」が必要です。そうやって無償労働の負担を減らしていくことで、女性が外に出ていく機会が増えていくと思います。

また、石川さんが「女性のリーダーシップと参画」を拒むもうひとつの課題として取り上げたのが「暴力」。ハラスメントや痴漢などが女性の進出を阻んでいると説明しました。
続いて、石井さんからは、産業側からの問題提起が。

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石井:生物学的な体調の不良に対して、会社がケアしていく仕組みに投資していくフェーズになっています。なぜなら、人が長く働き続けられる仕組みを作った方が享受できるとわかっているから。北米の時価総額の大きな企業は、働く従業員のために会社の富の再分配を行なっています。

また、教育の場にも改革が必要だと石井さんは訴えます。

石井:中学・高校・大学といった、性に触れていく世代に声をかけられる環境を作っていく必要があると思います。北欧だと13〜25歳くらいの方を対象としたユースクリニックというものが存在しているんですね。それと似たような仕組みを私たちも作ろうとしているのですが、企業の収益をどう再分配してソーシャルグッドな仕組みを作っていくか。「こういうものがあったらいいよね」という声が上がると動きやすく、社会に還元されるものも増えていくと思います。

大切なのはアクションを積み重ねていくこと

では、こうした課題を解決するための「支援のスピード感を高めるためには?」。石川さん、石井さんが語ります。 

石川:UN Womenがひとつ危惧しているのがお金の問題。現在、経済状況が逼迫するなかで女性支援や福祉支援が切られる状況が世界的に生まれています。何をするにも、人やお金が必要なのは公的資金も同じなので……では、それを防ぐためには何が必要かというとデータなんです。たとえば、いまだに女性が診療してもらえないという途上国もあるのですが、それもきちんとジェンダーの視点を入れた情報収集をしないと課題が見えてこないんですね。この問題についてはUN Womenでも取り組んでいます。

 石井:私たちのようなスタートアップ企業は、テクノロジーをどう使うかが重要だと思っています。たとえば、スマホの普及率は人口に対して100%を超えているし、LINEを使ったことのない人を探す方が難しい。それなのに、困ったときの窓口が電話やFAX、さらには手書きの書類のこともある。こうしたものをDX(デジタル・トランスフォーメーション)していく必要があります。日本は「人間が寄り添うことが何より素晴らしい」という風潮が強いですが、それこそ石川さんもおっしゃるようなコストゼロの感覚なんですよね。なので、コストを下げながら、人に依存しない仕組みをテクノロジーの力を組み合わせて作っていく必要があると思います。

セッションの最後は、「社会全体で課題解決を目指すには?」と題し、アクションを起こしていく意義を掘り下げていきました。

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石川:いつも申し上げているのは、対決では問題は何も解決しないということ。大切なのは対話。男性と女性が向き合って話すことがとても大事だと思います。そして、一人ひとりが一歩前に出て声をあげると同時に、仲間づくりもしていただきたいんですね。社会を動かしていくためにはつながっていくことが大切だと思います。

石井:発信すること、行動すること、応援すること。有史以来、この3つが揃ったタイミングで世の中が変わっているんですね。発信することが難しい人は行動してみる、行動してみることが難しい人は応援してみる。そうやって自分ができることをしてみることが大切だと思います。個人的に、日本は会社だと思っていて。同じ時間を共有している仲間のなかで、文化を社会実装していく。そういうことに取り組む会社を応援することで5年、10年かけて問題は解決していくと思います。あと、私は今年で平均寿命の折り返し地点である43歳を迎えるんですけど、僕たちの世代で課題を解決すると決めなきゃいけない。そして、そういう意思のある人を私たちのリーダーにしていく。これは企業も、国も。その意思決定の組み合わせで世の中は変わっていくと強く思います。

大切なのは、自分にできることをひとつずつ積み重ねていくこと。自ら旗を振ってみる、旗を振る人を応援してみる。それぞれのアクションによって、課題解決の糸口が見えてくるかもしれません。

次回は、最後のセッションとなった「平等な未来へ。女性がリーダーシップを発揮するには」のレポート記事をお届けします。


文・村上広大
写真・山口雄太郎

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