100案から3案へ絞り込み。その過程と、5人それぞれの思い
女性たちが、自分自身の身体について気がねなく話せる社会を目指す#NoBagForMe プロジェクト。運営スタッフには、「私はこんな生理用品が欲しい!」という声を、本当に多く頂きます。
プロジェクトの反響から痛感したのは、これまで生理用品に関して、「これが欲しい」「これは嫌だ」という声を伝えられる場所が、本当に少なかった、ということ。今もなお、解決すべき課題がそれぞれに、山のようにあると改めて感じます。
当事者であるメンバー5人にとっても同じ。各々が解決したいこと、求めるものも、年齢や環境、価値観によって異なります。
・ハヤカワ五味
「ジェンダーフリーな生理用品が欲しい」という友人の声がきっかけで、生理用品の選択肢の少なさに違和感を抱き、自らもilluminateという事業を立ち上げる。
・塩谷舞
生理痛や、女性特有の病気のことを気軽に話し合える未来を目指して、まずはパッケージのデザインから話題作りしていきたい。ストーリー性があり、やさしくシンプルなデザイン推し。
・瀧波ユカリ
娘が生理になったとき、親子で楽しく買い物に行けるデザインが欲しい。気分が下がる期間だからこそ、少し笑顔になれるような要素を入れたい。
・あっこゴリラ
重度のPMSで悩んできたので、気分がアガるパッケージで生理週間を少しでもポジティブに楽しみたい。カラフルでPOPな世界感が好き。
・ゆうこす
アイドル時代、グラビア撮影の思い出から、「タンポンは怖い」というイメージに。現在はそのトラウマを克服したけれども、「怖くないイメージ」を訴求したい。
それでも、「これまでにない生理用品のパッケージをつくりたい!」という共通の目標に向けて、議論を重ねてきた5人。
投票期間も終盤となりましたこのタイミングで、100を超える案の中から3つに絞り込むに至った経緯を、ダイジェストでお送りします。
消費財デザインの重要キーワード、「メリコの法則」って?
左:ユニ・チャーム デザイナー 右:ユニ・チャーム プロジェクト担当者
──まずサンプルを見ていただく前に、生理用品を含む日用消費財のデザインの考え方について共有したいと思います。「メリコの法則」ってご存知ですか?
全員 知らないです。
──「目立ち度・理解度・好感度」の頭文字をとってそう呼ばれているもので、ユニ・チャームに限らず、日用消費財のデザインの前提として重要視されています。生理用品は、ドラッグストアなど小売店で棚が大きく割かれているわりに、売り場滞在時間がすごく短いのが特徴です。平均1分、多くの人は30秒程度で商品を決めています。
ハヤカワ そんな短い時間でどうやって決めるんだろう。瞬発力がすごいよね。
瀧波 マラソンの給水所みたい(笑)。
塩谷 でも、どれを買うかってほぼ決まってるから、それを手に取るだけなんじゃない? 私も30秒くらいだと思う。
──そうなんです、一瞬で決まることがほとんど。そうなると、この「メリコの法則」がすごく大事になってきます。
今回のタンポンでも、従来の生理用品にないデザインにしたい! という考えはもちろん大事にしながら、「メリコの法則」も踏まえると、店頭でより伝わるものになると思います。勉強会でもお話しした通り、今も9割の方がお店で買われるものなので……。
デザイン案を絞り込むまで
デザイナー では改めて、みなさんにいただいたアイディアを形にしてきました! それぞれがまったくちがう方向性なので、話し合いながら膨らませたり、絞り込んでいければと思います。
メンバーでディスカッションした選定のポイント
3つに絞り込むにあたって、メンバーで話し合ったのは以下。
・視認性が高いものに。色弱の方にも配慮する。
・男性も抵抗なく買えるデザインに。
・タンポン初心者が手に取りやすいものに。
・商品のタイプ(レギュラー、スーパー、スーパープラス)、それぞれのちがいもわかりやすいように。
・「メリコの法則」を意識する。
ユニセックスでシンプルなもの、鮮やかな色合いなもの、かわいらしいもの……どのデザインであっても、これまでにない、新しい選択肢になり得るように。話し合いを何度も重ねながら、残す3つの中にも幅が生まれるよう選定しました。
ここで、ボツになったアイディアの一部をご紹介。
100案を超える中から、惜しくも落選したアイディアたちを一部、ご紹介します。(全てはお見せできず、残念です……!)
【コーヒー案】、【ティー案】
デザイナー これは、ゆうこすさんから提案いただいていた、「ほかの何かに見える」という方向性です。紅茶やコーヒー、お菓子のパッケージをイメージしています。
「『◯◯に見える』シリーズって好みの差が激しいかもしれませんね」
「生理用品のパッケージって考えると、ちょっと違うのかな」
「かわいいですが、今までとあんまり印象が変わらないかも」
【線形案】
デザイナー こちらは瀧波さんからご提案いただいていた「ジェンダーレス」系、モノトーンの方向性です。線やドットをモチーフにして検証。それぞれの量やサイズで吸収量を表現しています。これは、色を変えるだけでかなり印象が変わるかと思います。
「モノトーンで綺麗だけど……新しさがあまりないかも?」
「縞模様やドット柄は、ちょっと重たい雰囲気ですね」
「『メリコの法則』で考えると、好意度が少し低いかもしれません」
「店頭で目立つのも難しいのでは。自分だったら見逃してしまう気がします」
【シャドウ案】
デザイナー 写真の影を活かして、テイストを崩さないように吸収量を表現できないかと。影の濃度を吸収量に合わせて変化させたり、世界観を崩さないようにしながら、機能性についても言及しました。
「一見すると何の商品なのかわかりにくい。他と比べると印象が薄いかも」
「webサイトだと、細かな字が見えなそう。いくら、生理用品が買われるのが97%店頭だとは言え、ネット利用者は今後増えていくはず。サムネイル(縮小画像)で概要がわかる必要があるのでは」
「確かに。綺麗だけど読みづらい、見えづらい気がしますね」
長時間の議論の末、残った3案の原型はこちら
【SKY案】について
デザイナー これは、あっこゴリラさんからアイディアをいただいた「グラデーション」方向です。縦組みにしたり、グラデーションを変化させたり、白の面積を変えたりしてパターンをつくりました。
「体調のゆらぎを、空模様で表しているのがいい。どうしても憂鬱になりがちな時期も、少し気分が明るくなりそう」
「「怖くない」、そして「安心感」。初めてタンポンを使うなら、高そうでも安心感があるものを買いたいです」
「この英語の文字の部分は何でもいいんでしょうか? ここに、生理で気分が落ちるときも元気になるような、#NoBagForMe に込める想いとか、私たちがつくる意義のあるメッセージ、言葉を書きたい」
【SIMPLE案】について
デザイナー こちらも、瀧波さんにいただいた「ジェンダーレス」方向です。性別のらしさを感じさせない、色やシンプルさをベースに。要素を絞り、落ち着いた書体やカラーリングを施してやや男性的な印象にしました。もう少し背景の色を検証すると、見え方が変わるかなと思います。
「色で見分けやすそうですね」
「フォントはもう少し検証できるかも? ゴシックの印象が強すぎると痛そうな感じがする。多少は丸みがあってもいいのでは」
「シンプル&ジェンダーレスなデザインは、世の中の流れや社会問題と一緒に語れるのがいい。”女子感”がほしくない人に届けたい」
「フィルムじゃない素材に印刷すると、もっとかわいいんだろうけど……!」(※今回は残念ながら、変えられず)
【CAT案】について
デザイナー 続いて……こちらも、瀧波さんからご提案いただいていた「ネコ」です。
「かわいらしいものが好きな人は、猫のデザインがいちばんだと思う。ただ、#NoBagForMeとして出す意味を考えたらちょっと違うかも?」
「買うのが恥ずかしくないという意味ではまちがってないと思う。今、14歳だったら手に取りやすい」
「娘に生理がきたら、これを一緒に使いたいな」
アイディア出しや複数回のディスカッション、勉強会を経て、3つの案まで絞り込んだメンバーたち。1人ひとりの嗜好の違いを認識し、それぞれの主張を持ちながら話し合いを続けてきました。
ブレイクスルーがあったのは、「全員が納得するひとつの正解はない。それでも、世の中に選択肢をひとつ増やすことは正解ではないか」「正解はひとつじゃない。増やすもの」と、誰からともなく意見が出てきたときでした。
こうした経緯で、選ばれたのが以下の3案です。
今回、目指した「これまでない生理用品デザイン」が、新しい選択肢として、世の中を良い方向へ変えていく第一歩となるように願いつつ。
投票終了まで、あとわずか。
いよいよ8/16(金)23:59までです。
最後まで、みなさんの参加をお待ちしております!
※投票について※
以下を足し上げて、合計数の多かった1案が選ばれます。
・公式Twitterアカウントからの、それぞれのデザインについての投稿についたいいね!数とRT数
・公式Instagramの各投稿へのいいね数
(構成:斎藤岬、村上広大、村山佳奈女 写真:山口雄太郎 イラスト:荒木智子)