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「リモート授業」その光と影(第1回)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。

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今回からの対談は、大阪工業大学 知的財産学部 准教授の、関堂幸輔先生にお願いしている。

前回までの花田先生の対談で、幼児教育における直接体験による学習の重点化によって、バーチャル体験のようなものは敬遠されるということはわかった。一方で学齢としては一番上の大学において、リモート授業の実際はどうなのか。今回の対談は、そういうお話である。

関堂先生は、今を去ること10数年前、MIAU(インターネットユーザー協会)が発足間近なときに我々の活動に興味を持っていただいて、お近づきになれた。著作権法と並んで我々の重要な課題である知財法が専門ということで、シンポジウムや勉強会を主催した際にはぜひご登壇いただきたいと思っていたのだが、なかなか実現しなかった。今回はその伝手をたどって、お話を伺うことができた。

前回に引き続き大学の先生のお話が連続するわけだが、実はお話を伺った順番としては、関堂先生のほうが先である。今回の対談は、春休み中のほうがお時間があるということで、3月18日にお話を伺っていたものである。

ご承知のように、大阪はこの春に感染者が急激に増加し、今もなお緊急事態宣言の最中にある。大学の授業も、文科省は対面授業を原則とするが、個人的には無理なのではないかと思っている。一方リモート授業は昨年1年間の実績もあり、メリットや課題も整理されて、今年度はさらにもっとうまくやれるのではないかと思うのだ。

昨年度1年をほぼリモート授業で実施した関堂先生のケースで、考えていこう。

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「リモート授業」その光と影(第1回)

小寺:まず昨年の4月、コロナ禍というものがいよいよ始まって、そこに新入生が入ってきて、というあたりから大学の状況を整理したいんですけども。もうその時から大学は登校禁止になっていた?

関堂:そうですね。最初に動きがあったのは、一昨年度の卒業式ですね。

小寺:ああー、3月。

関堂:卒業式も私のところは式典自体が中止になって。いわゆる学位記、卒業証書を渡さなきゃいけないので、時間を分けて、ゼミの先生がいわゆる担任みたいな形でちょっとずつ渡す、という形になりましたね。

それと前後して、就活もかなり影響を受けて。大学のほうで主催する説明会とか、ああいうのが大体2月終わりぐらいからバタバタと中止だという話になってきたりして。卒業式も結局全面中止で。あれよあれよという間に、4月の入学式もこれはできないだろう、という感じで。

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大阪工業大学 知的財産学部 准教授の、関堂幸輔先生

そもそも学期が始められませんでしたよね。私立の場合は4月5日前後ぐらいから毎年新学期が始まるんですけれども、結局それができない。オンラインの体制もまだその段階ではあんまり整ってなかったものですから、本当にもう、4月からは全然授業ができなくて。

本当に授業が始まったのはゴールデンウィーク明けでしたね。それまではまったく、何もできない、という状況でした。

小寺:それ、5月の連休明けにはもうオンラインでやる、ということは、4月の段階から決まってた話なんですかね。

関堂:大学によって微妙には違ってたんですけれども、ほとんど「オンラインでやります」ということは、4月の半ばぐらいに大体決まって、じゃいつからやる?ということになったら、多くの大学は5月の連休明け、という形になってましたね。

小寺:じゃ、もうその段階で、実際の対面の授業はちょっと難しいだろう、みたいな判断は、もう4月の半ばぐらいからはあった、ということなんですね。

関堂:そうですね。ご存知のように、緊急事態宣言の第1回目が4月に出されたので、そのタイミングもあったんだろうなと思います。あとは、小学校とか中学校とかが全面休校というのがありましたので、その流れを受けて、いわゆる通常の形での対面授業はもうできないだろう、というのはわりと早い段階で分かったんじゃないかなと思いますけれども。

小寺:小中高校と違って、大学って未だにあんまり対面で授業をしてないような状況になってますけども、これはやっぱり年齢が高いとコロナに感染しやすい、みたいなところもあるからなんですかね。

関堂:私個人の所感で言うと、やはり高校までとは、集まってくる範囲が格段に異なってくるので。通学に距離、時間を要するものというのがどうしても多くなりますよね。

あと、授業がやはり大規模なものというのが大学はどうしても多くなって。私が関わってる大学ではそれほど大きい教室で一堂に会する授業というのはないんですけれども、場合によっては100人を超える、150人とか、マンモス大学あたりになると200人とか、300人とか。そうやって考えていくと、わーっと人が集まるという状況が、高校までよりも格段に多い、と。

それともうひとつは、高校生までだと比較的クラス単位で動くとかということで、塊がわりと把握しやすいと思うんですけれども、大学の場合は授業であちこち移動したりとか、自分で授業を選択したりということになる。それだけ大学という組織の中で、ワーッと人が交錯すると言いますかね。交わり合う機会というのが非常に多くなると思うので、その点でどうしても、人との接触というのが高校までとは大きく違うんじゃないかな、というのは感じます。

小寺:昨年、第1回目の緊急事態宣言が終わって、登校するのもあり、ということになった時にも、登校が困難である、という生徒さんもいらっしゃったみたいなんですけど、そのあたりってどういう事情があったんですかね。

関堂:まず大学側の事情で言うと、文部科学省が、特に大学に対して「対面を原則としなさい」ということがあったわけですよね。ただ、大学側としては、強制的に来させるかというとそういうわけにもいかなくて。

私の関わっている大学では、「登学困難」という手続きをさせると。理由を述べて、一応決まった書式のものを用意させてですね、その学生所属学部と名前を書かせて、「こういう事情により登学が困難である」ということを申請させて。その申請に実態的な審査とかは別にしないわけで、これは合理的だろうということであれば、登学はしないでオンラインで授業を受けてもよい、ということなんですけども。

問題は、「登学困難」というのはどういう事情が当てはまるかですよね。学生の側から出てきたものを見ると、「高齢者と同居しているから」とか。あるいは親御さんに心臓疾患があるとか、そういったような事情があるということで、登学困難だと申し出てきているものが私の感覚では意外に多かったな、という感じはありますね。

小寺:それはやっぱり、大学がある関西圏独自の家族関係というか、ファミリー構成みたいなところも多少あるのかもしれないですね。

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