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なぜ小さいスピーカーで重低音が出せるのか (2)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。


低音の秘密を探る対談の2回目。ソニー株式会社の音響デバイス技術開発部 関 英木さん、ULTの商品企画を担当した滝本 菜月さんにお話を伺っていく。

2000年代前半ぐらいから世界的な低音重視傾向というのが始まり、それは音楽シーンの変遷ともリンクするわけだが、同時に技術開発も遅滞なく行なわなければならない。

スピーカーは未だアナログの世界なので、それこそ試行錯誤のノウハウのカタマリなわけだが、低音の革命は専用機である「サブウーファ」の登場以降、ドーンと革命が起きたわけではなく、ジワジワとやってきていつの間にか当たり前になったという印象がある。

このあたりの経緯について、深掘りしていく。


小寺:ソニーとしてはアメリカ市場ってかなり大きいマーケットだと思うんですけど。アメリカ音楽が低音重視になってきた、あるいは黒人アーティストが作るラップ、ヒップホップのような音楽がアメリカでメインストリームになってきた、というような時代背景と年代的に合致するんですかね。

関:僕もそこまで詳しくはないですけど、合致はしてるんじゃないかなという気はしますね。もともとR&B、ヒップホップ自体は2000年から始まったものでもないですけど、アーティストがこうフィーチャリングされたり、楽曲のトレンドとしていろいろなアレンジができたというのはその頃になるでしょうね。それまでにあったものと何かフィーチャリングされて、融合されたものが一気に花開く、みたいな。それは製品作りにも通じるものは感じますね。

小寺:具体的に、アメリカのマーケティングを担当してる方から、「今度のスピーカーはこんな感じにしてほしい」みたいなリクエストみたいなのって、まあまああるんですか? 「これがアメリカでウケるから」みたいな。

滝本:そうですね。リクエストはアメリカだけというわけではないので。ただ、全世界的に結構低音が効いたような楽曲のトレンドというのはありますし、アメリカでも今、アメリカ人のアーティスト以外のいろいろな国の音楽を楽しむカルチャーみたいなところもすごく上がってきていると認識しています。

ULTの商品企画を担当したソニー株式会社 パーソナルエンタテインメント商品企画部の滝本 菜月さん

製品作りの際は、アメリカももちろんですが、ヨーロッパだったり、ラテンだったりアジアというさまざまなところから意見を聞きながら、どういう製品にしようかという検討はさせていただいてますね。

小寺:低音が出る、低音が聴きたい、というニーズは、具体的にリスナーは何を期待してるというか……やっぱりパワー感とか、そういうことでしょうかね。

滝本:実際のお客様の声も聞く中で、ライブだったりとかフェス、クラブみたいなところってとても大きなスピーカーがあって、全身でバイブレーションが感じられますよね。そういうものを家庭でも感じたい、みたいな言葉で私たちに伝えてくれたんですね。なのでULTシリーズでは、そこの「全身で感じるような、体に響くような低音」みたいなところが、コンセプトとしてあるかなというふうに考えています。

小寺:なるほど。もともとでかいスピーカーを使って鳴らしてた音場を、小さいスピーカーでできないかと。

滝本:そうですね。そういう世界観、臨場感のある世界観みたいなところは、小さくコンパクトである中でどこまでできるか、というところを検討いただいてます。

関:これは非常に難しい質問でしたね。

滝本:難しいですね(笑)。

■バスレフからパッシブラジエーターへ

小寺:御社の中では、前々からショルダー型スピーカーというTV事業部が作ってる製品があります。あれはスピーカーを実際に肩、体にくっつけるので、バイブレーションが感じやすいというボディソニックの傾向があったと思うんですけれども。

体から離して聴くスピーカー製品で、振動とか空気感を感じるということは、やっぱりそれだけ空気の量をいっぱい押さないといけない。

御社は結構パッシブラジエーターのほうへぐっとシフトしていった時期があると思うんですけど、そのあたりのタイミングとか、なぜそういうふうに振ったのか、みたいなお話を伺えますか。

関:まず、最初にお話をさせていただくと、今我々がリリースしているプロダクトって、僕がもともと担当していた領域である、フィールド型のいわゆる持ち運びができるアクティブスピーカーに関しては、おっしゃるように、あるところからパッシブラジエーター化に全振りしています。

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