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GLOCOM豊福先生に聴く、「どうなる? AIと教育」(2)

毎月専門家のゲストをお招きして、旬なネタ、トレンドのお話を伺います。


前回からの対談は、国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主幹研究員の豊福 晋平先生にお願いしている。

7月3日に文科省からAIを学校に導入する場合のガイドラインが提示された。とりあえず禁止とは謳われなかったが、現段階ではパイロット的な利用に限定、というか、やれる先生は限られますよ、といった格好になっているものと読める。

・「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の 作成について(通知)

https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf

それはもちろんそうなのだが、学ぶ子供の側にも当然資質だったりベーシックな知識だったりというものは必要になる。そうした下地は、どのように考えればいいのだろうか。

(全5回予定)


小寺:話をちょっと戻しまして、GIGAスクールのお話をもうちょっとお伺いしたくて。

今、宮崎県の片田舎に住んでおりますけれども、こちらの中学校でGIGAスクール構想によって端末が導入されたのは、2021年の6月ぐらいなんで、東京とかよりは1年ぐらい遅いんですよね。いわゆる後出しじゃんけんなので、ノウハウがある程度たまっているかなと期待したんですけど、なんかあんまり、そんな期待したほどの成果というか…。まあ使ってはいるんですけど、それを使ったことによる効力、効果というのが、保護者側にあんまりわからないんですよね。

豊福:ああー、なるほどね。

小寺:その子が今高校に入って、宮崎県では高校以上の端末は保護者負担と決まってますので、それなりの金額を出して端末を買い与えて使っているわけなんですが、僕らが高校の時よりも「へー今は勉強ってこういうふうに進んでんだね」みたいな感触が得られないんですよね。

豊福:うんうん。そこはちょっと込み入った説明になっちゃうんですけど、いいですか。

小寺:はい、お願いします。

豊福:こういうのって、昔から議論が実はあって、コンピュータを使うと成績が上がるんです、って、そんな単純な話じゃねえよということですね。マジックワンド、魔法の杖とか、あるいは試薬実験、ドーピングをすると、いきなり結果がよく出ます、という話ですけど、人間の学習ってそんな単純なものじゃないですよ。

小寺:はい。

豊福:なので直接的には、コンピュータを使うから成績が上がるかというと、あんまり違うような気がします。上がりやすいものもある。英単語覚えるとか、歴史の年号を覚えるとか、そういうのは繰り返しただけ覚えるので、リハーサルの効果ってのは絶対あるから、それでは点数が伸びるんですよ。だけど学力ってそれだけじゃなくて、思考力、判断力、表現力と言われてるように、複雑なものになってる。で、複雑なものになったが故に、コンピュータが直接そこに影響したかどうかというのは、ファクターとしてはあり得るんだけど、検出はできないんです。

まずこれが1つ。

小寺:うん。

豊福:2つ目は、実はメディアの性質が150年前と今では大幅に変わっていて、コンピュータとかネットワークを使うことで、なんでも情報を得られるようになってるという状況が、学校の制度とか、教え方とか、授業のスタイルに、結構影響を与えてきてます。僕らの世代でやったように、先生がバーッと教えてきたものを必死にノートで書き取って、それをテストで吐き出して点数を取るって、今ね、そのやり方は流行んないんですよ。

小寺:なるほど。

豊福:むしろそういったものを組み合わせて、何かものを作ったり、発表したり、パフォーマンスをする、というところに変わってきてる。そうなってくると、求めてる学力像というものが、我々の持ってる常識とはちょっとずれてきてます。

小寺:うんうん。

豊福:特に大学の入試が結構変わってきてて、ペーパーテストで入学試験を受ける人って、もう半分に満たないんですよ。AO入試とか推薦とか、いろんなタイプの入試が行われていて、知識を溜め込んで吐き出すタイプじゃない子供でも、大学に入れるようになってきてると。

そうなってくると、やっぱりコンピュータとの付き合い方も変わってくるんじゃないですかって話ですね。本来。

で、ここで第3の問題があるんですよ。小学校は担任の先生が全部の教科を持って教えてくれるので、その先生がこういう教え方がいいな、子供中心にやりたいなと思うと、全教科をそういう形で構成できるんですね。そうするといろんなものが作れたり、発表できたりというところにも労力をかけることができるんです。

でも中高って教科別じゃないですか。しかもカリキュラムは結構過酷ですよね。いっぱい教えることがあって、詰め込みをやらなくちゃいけない、という状況があると、先生方の教え方のスタイルが変えられないんですよ。で、僕らもGIGAスクールへ向けていろんなところに教えに行ったりとか、人を出したりするんですけど、小学校はわりとちゃんとキャッチアップしてる気がするんだけど、中高はね、結構厳しい。

小寺:まあ、そこはそうですよね。中高では受験もう迫ってきてる中で、これまでのやり方でそれなりの成果は上がってきてる。じゃあそれをガラッと変えて成果が出なかったら、教わる子たちはどうなっちゃうんだろうと考えると、やっぱり怖くて変えられないっていうのはあるんでしょうね。

豊福:まあ、入試を理由にする人は、いっぱいいます。

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