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記憶の箱を開けてみると

3冊目の本を執筆していた半年間は、過去の出来事を思い出し整理することに多くの時間を費やしていました。今回の本のテーマは「本の本」けれど当然ながら書評ではありません。私にそんな大それたことはできる訳ない(笑)。内容はといえば、今までの人生で読んできた本とその時々どう関わってきたか、そしてそれらにまつわる自身の想いなどを綴ったもの。そんな訳でこのところずっと記憶の海を漂っていたのです。

前職であったインテリアコーディネーター時代の話も多く出てきますが、その時期の記憶はあるような、ないような、覚えているような、覚えていないような。

それはなぜか?その頃、体力的にも精神的にも仕事がきつすぎて「全てなかったことにしよう、箱にいれちゃえ」とばかりに思い出を封印してしまっていたから。そんなふうにやり過ごすうちに記憶のフィルターから本当に零れ落ちていたようです。もちろん誰にとっても仕事は辛くしんどいもの。私だけじゃないことは重々承知しています。ただその間、仕事以外にも色々なことが重なったことから結構大変な日々を過ごしていたのです。

しかし本を書くことになりいよいよ箱を開ける時がやってきました。2冊目の本でも、少しだけ開けているのですが、今回はフルオープン。思い切って開けてみたところ、私は整理整頓せずにいろんな出来事を箱の中にしまっていたようです。苦しい、つらい、もうやめたい、そんなネガティブな過去の感情やらそれにまつわるでき事の隙間から、自分でも思い出したら吹き出すようなあれこれも一緒に出てきました。

たとえば、一つ挙げるとこんな話。

インテリア、建築業界にクレームはつきもの。もちろん「やってしまった、、、」という場合もあれば、理不尽なクレーム、はたまたお客様の記憶違いといったものあり、一言でクレームといっても多種多様です。時には自分と関係のないクレームが火の粉のように飛んでくることもありましたが、それにも平身低頭謝らなければなりません。

そんなバリエーション豊かな?クレームの数々ですが、全身凍り付くようなお客様からの一言と言えばこれでしょう。

「イメージと違う」

これを聞くと卒倒しそうになったものです。その多くは現場途中を見て、つまり完成していない状態で、お客様がそう判断してなにかを言ってくる場合がほとんどだったりします。お客様の立場からすれば当然。プロではないのだから途中段階で完成までの全てをイメージするのは無理というもの。

白状すると自分の住まいを新築中に、私も関係者にこう言ってしまい周囲を凍りつかせました。

「なんかイメージとちゃうねん」

さてそんな場合の”鉄則1”は「現場に走る」それしかありません。

ある日緊迫した声で工事担当から連絡がありました。「○○さんが、イメージと違うっていってます」うわ、でた、、、、早速お客様にアポをとって現場で待ち合わせして、その場で確認することに。

現場でややこしい話になる場合の”鉄則その2”はお客さまより先に到着して、現状確認、そんでもって、なんらかの説明ができるよう、頭を整理し、深呼吸をして心静かに待つこと。

そして向かった現場。ご存じのように工事現場には外部からの立ち入防止のため柵がめくらされています。ダイヤル錠を開けようと、教えてもらった番号に合わせてみたところ、、、開かない。なんで?何度合わせみても開かない。工事担当に電話しても繋がらない。

しかし”鉄則2”を守るには中に入らなければなりません。仕方がない、柵を飛び越えるしか道はないと判断して、猿のようによじ登り、エイ!(飛ぶ)ドサッ!(着地)と、無事に敷地内に。ご近所さんがこの光景を見ていたら怪しいことこの上ない。

そしてコンスキー(工事中の鍵)を使って建物の中へ。予想通り全く問題なし。お客様の方で持ってたイメージがそもそも違う。しかしそれは口が裂けても言えません。さてと、これをどうやって説明するか、、、あれこれ頭をめぐらせつつ、外にでてお客様を出迎えます。

柵越しににっこり笑って立っている私を見てお客様はびっくり!クレーム問題も吹っ飛び、発した第一声は「奥村さん、い、いったいどうやって中に???」「あ、よじ登りました」と爽やかに?答えるとお客様は絶句。その本気さが心に響いたのかは定かではありませんが、その後無事にダイヤル錠も(私は間違った番号を教えられていた)開き、中に入ったお客様も私の説明に納得の上、クレーム解消となったのです。

本気、大事、、、

今回本を書くにあたり恐々開けてみた重い箱。
どんよりした出来事ばかりと思っていたら、出てくる出てくるこんな馬鹿げた私の行動。

なんか人生って恥ずかしい、って思いつつそれら全てが今では愛おしくさえ思えるのです。そして笑えてしまうってことは歳を重ねたことなんだな、なんて。

記憶の断片を天日干しして、箱の隅々まで綺麗に拭いて、もう一度しまい込み心の中で呟きました。

「いつ開けたってもう平気だ」


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