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自己注射を乗り越える[トレーニング編]

体外受精の治療には、もれなく卵巣刺激や早発排卵防止のための自己注射がついてくる。血液検査やワクチン接種など注射をする機会は幼少期から度々訪れるが、世の中にはそれが「平気な人」と「苦手な人」に分かれると思う。

注射の記憶でよく覚えているのは、小学生の頃に学校で受けたワクチンの集団接種。当時同じクラスにA君という注射が大の苦手な男の子がいた。ワクチン接種の日になるとA君は保健室に並ぶ前からぐずりだし、注射器を持った先生の前に座るころには泣くわ叫ぶわの大騒ぎ。これはあくまでも噂だが、暴れに暴れたA君の腕に先生がうまく針を刺すことができず結局2回も打たれたとか。

A君ほど騒ぎはしなかったが、私も注射は大がつくほど苦手なタイプ。針を見ることなんてもっての外。大人になってからも採血がある度、注射を受ける腕とは反対側に顔を向け片手で目を隠し、その時が一刻も早く過ぎ去ることをただ願う。そんなわけで、体外受精に伴う自己注射が私にとってはかなりハードルの高いものであった。

私のクリニックでは自己注射のトレーニングを実施しており、基本的にはみな自宅で連日注射をする。もし看護師の方にどうしても無理だと判断された場合は、注射のために連日通院とのこと。

これまでの私であれば迷わず「通院」を希望しただろう。しかしこの先出産を経験するとなれば、相当な痛みを乗り越えることになる。「母になる」と決めたからには、ここで注射を克服してもっと強くならなくてはと感じた。

手始めに、採血のときに注射器から目を逸らさないようにしてみた。針が入る瞬間は息を飲んだが、そんなに痛くないことに気づいた。これまで恐怖心が勝って痛いと思い込んでたのか?

採卵周期に入る前の必要な検査も一通り終わり、いよいよ自己注射のトレーニングの日。準備する道具や薬など一通り説明を受け、生理食塩水を用いて注射器の中に「疑似薬液」を作ってみる。生まれて初めて手にする注射器だったが、あまり深いことは考えずに淡々と手順を確認しながら進めるよう努めた。

準備ができたところで実際に腹部へ針を刺す。深呼吸してゆっくりと針を入れる。(あ、全然痛くない!これはいける)

そして液を注入。「っっいっっっっったーーーーーい!」

思わず声がでてしまう。あまりの痛みに針を抜いてしまいそうになったが、咄嗟にだめだと手を止める。看護師さんが見守ってくれている。なんとか心を落ち着けて再度液を注入。

「うぅぅ…やっぱり痛い」とまた手を止める。

大きく息を吸い、吐くと同時に思い切って残りの液を注入。全て入れ終わったところで注射器を抜き患部の消毒、そしてブラッドバン(絆創膏)を貼る。

「よくできましたね!」そう言ってくれた看護師さんに「すごく痛かったです…」と半泣き状態の私。「皆さん乗り越えていらっしゃるので」と続ける看護師さん。

そうなんだよね。世の中にはたくさんの方がこれを乗り越えて頑張っている。こんなところで負けてはだめだ!と自分を励ましつつも、これから始まる自己注射が一気に憂鬱になってしまった。



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