第九章 再修羅場⑦
安奈は、あたしの引っかけた酒によってずぶ濡れの頭のまま……。
外を見て、立ち尽くした。
「今日は、あたし車だから。タクシーは捕まえなくていいわ」
そう言って、あたしは安奈に背を向けた。
運転席に勢いよく飛び乗ったあたしに、安奈は……。
「梨紗……このままで済むと思わないでよ?」
あたしの一生をぶち壊しておいて、まだそんなセリフが吐ける安奈。
「安奈。警察に突き出してもいいんだからね。殺人未遂でも傷害罪、覚せい剤所持でもね」
あたしは、呆然と立ちすくむ安奈を残して、車を発進させた。
気分は、爽快だった。
安奈のあの顔。
まさか自分が、ドラマや映画のワンシーンのようにグラスの酒を頭から浴びせる、なんて事をする時がやってくるだなんて、思いもしなかった。
不思議と、笑いが止まらなかった。
安奈のあの顔!
忘れられない。
帰宅すると、一哉が既に帰ってきていた。
「梨紗、珍しいね。出かけてたん?」
「うん、ただいま」
「何でわざわざオレのポルシェで?」
「今日は、イエローな気分だったの♪」
「何じゃそりゃ笑」
一哉とキスをする。
一哉を抱きしめて。
絶対に安奈には渡さないと、心に固く誓ったのだった。