意見書全文 金正則
2023年4月、杉並都議会議員選挙の選挙公報が届き、田中ゆうたろう候補(現議員)の記載内容を見て、これが隣の家に、そして杉並区のすべての家々に届いている異常な様子が浮かびました。偶然でも子供や学生が目にすることも、一人で暮らすトランスジェンダーもいるだろう。一瞬、「そうなの?いやだ、怖い」と思わせるイラスト。これがヘイトスピーチだと判断できない人もいるかもしれない【参考①】。選挙公報に載ることで、それが公に咎められない、認められた主張の一つであるという印象を社会に与えるとも思いました。
私は、トランスジェンダーではありません。しかし、今回の人権侵犯被害の申立代理人ではなく、申立人です。今回の申告は、杉並区民として、マジョリティとして行うべき、ごく当たり前のこと、ふつうのことと考えています。
人権は一人単独で成立するものではなく、他の人の人権と平等であることでその成立を支えられています。他の人の人権が侵され公平を失うならば、私自身の人権、公平な社会で生きる権利も侵されます。
社会に対して、特定のマイノリティ集団に対する恐怖心や不安を煽り、その集団への憎悪を伝染病のように広げるのがヘイトスピーチです。それが選挙公報の形をとって、私の生活の中まで侵入してきました。自分がこの社会で人間らしく生活を送る権利、その社会そのものが汚染されたと感じました。
また、差別する者と差別される者の間にニュートラルな存在はありえません。「自分は中立であり、どちらでもない」というマジョリティは差別への加担者になります。「知らなかった」も同様に加担者になってしまいます。今回のヘイトスピーチを見逃すことは、差別の加担者として生きること、それは私にとって自分の尊厳を失うことです。もちろん、ここでの私の尊厳は、存在そのものを否定され破壊されているマイノリティ被害者の尊厳とは比べられない程度の尊厳です。だからこそ決して見過ごすわけにはいきません。
立候補届け出の事前審査時、選挙管理委員会が立候補者全員に東京法務局「選挙運動等として行われる不当な差別的言動への対応について」の文書が全員に配られたのを聞いて、有難く思いました。しかし、残念ながらその注意は届きませんでした。
さらに選挙公報の区民からの抗議に対する返答にあるように、選挙公報掲載基準は「特定の個人の名誉を傷つける内容」でした。街宣やデモなどのヘイトスピーチが社会の努力で減少傾向にあるなか、選挙活動でのヘイトスピーチは衰えを見せないようです【参考②】。
「特定の属性集団に対するヘイトスピーチ」に対処できるようになっていただきたいです。
ほぼ同様のイラストは前年末から区内各所の街宣でも繰り返し掲示され、多くの場所で、抗議する市民の姿がありました。時にはヘイトスピーチを周りに聞かせないための対抗街宣も行われました。
区のパブリックコメント「(仮称)杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例(骨子案)に対する意見」及び「(仮称)杉並区パートナーシップ制度(骨子案)に対する意見」でも、『条例の説明会の当日区役所の前で抗議していた前杉並区議会議員の発言もヘイトスピーチであり、止めるべきものです。』など「ヘイトスピーチ」指摘の苦情が、私の見た限りでも6名から寄せられていました。
市民、区民は、ヘイトスピーチを止めるための出来る限りのことはやったと思います。
攻撃対象となったマイノリティへの人権侵害認定と救済によって、同時に、マジョリティである私への人権侵害も救済されます。当該ヘイトスピーチは拡散されたままになっています。速やかな対応をお願いします。
2024年2月3日 杉並区在住 金正則(署名)
【参考① 見えにくいヘイトスピーチ】
直接的な表現ではなく、「戦略的ヘイトスピーチ」と呼ばれる見えにくいヘイトスピーチが、2016年以降の日本でも増加しているという研究結果が発表されています。
【参考② 種類別ヘイト件数(全国)】
選挙活動におけるヘイトスピーチは2016年から観測され始め、街宣やデモにおけるヘイトスピーチがやや減少傾向にある中で、その勢いの衰える様子は見られません。より実効性のある対処を願っています。
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