9/16日記:急に気付く

湯船の水面に鼻をつける。
みどり色の湯の中で髪の毛がゆらぁ~りとスローモーションで揺れるのを眺めていると、なぜか恐ろしくなってくる。自分がどざえもんになったような、むしろ前世で水死した時最期に見た光景だったような、変なリアリティがある。
唐突に高校時代の記憶がよみがえってきた。
高3のクラスの委員長だった、運動部でショートカットの背の低い子。眉毛が黒々としていて、いつも目の奥が明るくて、活発かつ利発そうな顔立ちだった。そして私によく声をかけてくれた。当時の私は全員と仲良くしたい人間だったので、何も考えずご機嫌に返事していたはずだが、人に話しかけてもらえるのってよく考えるとただではない。あの人はわざわざ私に話しかけてくれていたのだと、今更ふと気づいた。カメラロールの一番底に沈殿している画質の悪い思い出を見返すと、その人が写っている写真が思いのほか多い。課外活動かなんかではしゃいでいる写真。卒業アルバムの撮影で仮装した時の写真。卒業式の間近に皆で食事をしに行った時の写真。その後に撮ったプリクラ。人数がそこそこ居る時の写真にはけっこうな確率で彼女がいる。成人式の時ツーショットを頼まれて撮ったものもあった。
そういえば卒業後に2度か3度数人で集まって食事したことがあった。その時はおおむね皆のエンジョイキャンパスライフストーリーで盛り上がっていたのだが、「○○(私)はどうなの?」と聞かれてう~んと返したところ、その子に「○○(私)は、めっちゃワンナイトとかしてそうだね」と言われてびっくりしたのを思い出した。しかし今になって思えば私という人物を案外的確に捉えているのかもしれない、と思った。というよりはちゃんと見てくれているなという表現が正しいだろうか。愛も実利もとらず、孤独を選ぶ傾向を指摘されていると思った。それを優等生で人気者のその人が言ってきたということ。あの時のあの人は何を思っていたのだろう。そしてこういう事に数年遅れで気付くところ、私の最も悪い面かもしれないと思った。

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