記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【七峰】一日に映画を三本見て咀嚼するには時間が足りなさすぎた

【日報】2024/9/5付

 ここ最近、9月は逆噴射小説大賞に向けた助走の時期であると同時に外気温と言う環境の変化と日々刻々と変わるTwitter(現X)のタイムラインに心をかき乱されることが多く、有り体に言ってSNSデトックスの必要があった。

 ほぼ日の學校に入会したのもその一環だが、先日のシン・ゴジラをプロットにするプラクティスに味を占め、またプラクティス9をやりたくなってTSUTAYAへ走った。

 そこで「僕らのミライへ逆回転」「チョコレート・ファイター」を借り、家では9年前に買った「世界の終わりのいずこねこ」のDVDを出してきてこれらを一日かけて見終わった。

 そしてnoteに下書きしたプラクティスを見て思ったのだが、どう見てもこれはファスト映画であり安易に公開するべきではない。

 いや「シン・ゴジラだってそれはそうだろ」という話だが、今回挙げた三作品はサブスク配信されていないので、これは……どうなんだろうな……と躊躇した。ふだんなんでも見せびらかしたいおれでも、そういう日はある。

 だから今回は映画については感想文にとどめ、プラクティスの総まとめとして「どんな感じだったか?」「90分~100分映画の感覚をつかめたか?」について語っていきたい。

僕らのミライへ逆回転

 逆噴射聡一郎の「パルプ小説の書き方」で紹介されていたので気になっていた。

 5点満点中☆3(誰かに勧めてもいい)はカタい。個人的には数々の迷惑行為で-2、古びたレンタルビデオ屋の店員マイク(モス・デフ)の人間味で+1、成り行きで仲間になったクリーニング店の女性アルマ(メロニー・ディアス)のかすがい的貢献度の高さで+1、常連客のファレヴィチ(ミア・ファロー)が吹き替え声優効果込みで美しくて+1という具合だ。

 ある理由でVHSの磁気テープがぜんぶダメになりレンタルビデオが見れなくなったため、リメイク映画と称した自主制作のビデオを撮って客に渡したら意外にウケてどんどん街を巻き込んでやることが大きくなっていくというコメディらしい筋書きなのだが、そのバカバカしい著作権ガン無視映画でも魂のこもった作品ではあって、終盤にそれが真っ向から否定されてしまう時、胸に切なさがこみ上げてくる。
 そしてマイクは最後には自分の心の支えになっているものを改めて見つめなおすのだ。それは悪友ジェリーと新作映画を待つ市民たちのおかげでもあり、ものづくりというものにおいていかに他者とのかかわりが重要で、大勢でひとつの作品完成に向かってやり遂げる血の通った仕事がどれほど楽しいかを思い起こさせてくれる。

チョコレート・ファイター

 別件でタイ人キャラを作る必要に駆られいろいろタイについて図書館で調べていたらこういう映画もあるのだと知った。

 5点満点中☆3(誰かに勧めてもいい)はカタい。主演のジージャー・ヤーニンがかわいくて+1、蹴り技や棍棒術で敵をしばき倒す音が気持ちいいので+1だ。
 しかし「この体格差とこの技のパワーではここで倒せないと思う」と脳内評論家が黙らなかったので、☆4より上にはしないという評価をつけている。おれはアクション映画には「アクションしているなあ」と漠然とした認識しかできないので、もっとアクション映画動体視力がある人向けという意味だ。

 そして、なぜかおれはこの映画を見ながら1971年の「仮面ライダー」を想起していた。それはノースタント・ノーワイヤーアクションであり、アクターが怪我をしても制作を中止しない体当たりな感じとか、殺陣がハイスピードで拳から足からバンバン当てていく感じとかを見て、そうしたアクションの精神的系譜について感じ入ったのだった。

世界の終わりのいずこねこ

 おれはこの映画を9年前に米子ガイナックスシアター(当時)で見て目を奪われ、その年にDVDをAmazonで買った。

実のところ「BELLRING少女ハートの6次元ギャラクシー」も物理メディアで欲しかったのだが、今となっては機を逸した感がある。あれはあれで「地下アイドル使ってこんなことまでしていいのか」と思うような内容だった。

 評価としては、5点満点中☆2(人には勧めない)をつける内容ではあると思っている。というか役者ではない西島大介氏(ミイケ先生役)のセリフ棒読みがつらく、大衆性を損ねている印象だ。

 しかし「2011年に東京が滅びて2035年の関西に巨大隕石が迫る」という世界観設定に、3.11以後があからさまにテーマでありつつも当時こそ耳慣れない「パンデミック(感染症)」の語でこれを隠喩し、この閉塞し行き詰まっていながらなおも日常生活なるものを続けるセカイ(あえてカタカナとする)の欺瞞、楽観主義を「そういうのもういいです」「みんな死ぬんです」と否定してみせ、まさに劇中で迎えた「世界の終わり」を、インターネット生配信という力場を借りてこの一回限りの映画の中に現出させてみせたところに、今からおよそ10年前という時代性のすさまじさを感じずにはいられない。

 と同時に、ラストには2014年当時の新宿が映り、観客は現実世界に帰るという工夫が(おれの見解では)なされているところに、どこかほっとする気持ちを覚えたのだった。

 あのラストカットがなければ、おれはこの作品がいつでも見れるようにしたいとは思わなかっただろう。なぜなら「世界の終わりのいずこねこ」は閉塞したセカイの内側に閉じたものではなく、この現実世界へ開かれた扉であることが、おれには理屈を介さずとも伝わるからだ。

んで「どんな感じだったか?」

 ざっくりとプラクティス9の成果を振り返ると、まず第1幕:【A】パートの説明にはどれも300文字数近い長文を要した。

 なぜ300文字数かといえば、例文とする逆噴射聡一郎のテキストがそれくらいだったからだ。

 映像作品としての冒頭部分を文章に書き起こすのも難しく、また「観客はこれを見て何をどう想定するのか」「ディカプリオが株価を操作してメイクマネーする話とかのジャンルではないとわかるのはどうしてか」も300文字数以内におさめる(作法ではない)のが、むずかしかった。

「たぶん客はこう思う」というところを強調した部分を抜粋すると、

僕らのミライへ逆回転:「店長が留守の間にこの二人がビデオ屋で何かおかしなことをしでかすんだろうな」「特にお調子者のジェリーが危険だな」

チョコレート・ファイター:「ゼンは過酷な運命に立ち向かっていくんだな」

世界の終わりのいずこねこ:どう見ても舞台は近未来の日本であり、しかも荒廃が進んでいる。

 となる。

 これがなぜ「ざっくりわかる」のか? というとそれはナレーションでいちいち説明されるわけではなく、基本的には登場人物たちの行動とその反響、すなわちアクションの連鎖によってなされる。
「逆回転」ではマイクとジェリーがくっちゃべり、「チョコレート」ではヤクザのマサシとタイ人マフィアの情婦ジンが駆け落ちしてゼンが生まれる。

「いずこねこ」は年代設定をイツ子宅の壁掛けカレンダーや配信画面、通信機器といったガジェットで説明し、旧東京の荒野とか廃工場とか関西新東京市の新宿(看板などが関西仕様になっている)といったビジュアルを添えて設定を補強していた。

 デカい出来事1→第2幕:【B】パートは当然ながらすべてに存在し、だいたいは「【A】パートの流れが事象A’によって【B】パートへ変わる」とでも言うような具合になっていた。

「逆回転」は比較的それがわかりやすかったが、「チョコレート」はゼンの成長を幼少期から描いているため導入部分が長く、そのうえデカい出来事1としたところから先は格闘アクションの連続になるためプロットとしてはもっとも短くなった。

「いずこねこ」の【B】パート書き下しは長いほうで、ここに次の伏線を仕込みつつミイケ先生とイツ子との間で楽観主義と実存的ニヒリズムとの対立を起こしていたことがわかった。

 デカい出来事2→第3幕:【C】パートはどうなるかというと、「チョコレート」「いずこねこ」はどこをデカい出来事2の要点とするかで悩んだ。「デカい出来事」は確実に起きており、【C】パートへの流路はあるのだが、「ここだ!」という感じがしなかった。

ここでいったん、【B】で展開した事象の決着がつく。

 とする逆噴射聡一郎の定義に沿うならば、「逆回転」は自主制作ビデオ、「チョコレート」は借金の取り立て、「いずこねこ」は「イツ子といずこねこの関係」がそれにあたると思われる。

 ネタバレ抜きでそれぞれの【C】パートについて語るのはそうとうむずかしいが、つまるところ決着した事象について「お前はどうする?」という問いへの答えであり、主人公は全員それを体現する。

 マイクとジェリーは映画を撮るし、ゼンは戦うし、いずこねこは歌うのだ。
 どんなキャラクター創作論を読んでも、結局はこのシンプルな「答え」に収束していくのだろうと思った。

なるほど、満足だ……!

 おれはもう少しであおむけに寝ようとする。

「ちょっと待て! 話はそれで終わりなのか? おまえはこれから逆噴射小説大賞に出す800字パルプやそれに続くパルプ小説の構想を練る、そのために映画を見てプラクティスしたんじゃなかったのか?」

 というおれ自身の内なる声がする。

 いまが21時半過ぎでなければ反論もしただろう。

 だが、一日に映画を三本見て咀嚼するには時間が足りなさすぎた。

 おれは寝る。

 まだ初秋のインプットは始めたばかりだ。

 PRACTICE……EVERYDAY……!!

(了)

いいなと思ったら応援しよう!