【七峰】シン・ゴジラをプロットにするプラクティス
おれだ。おれはやった。それだけだ。
第1幕:【A】
東京湾を漂流しているプレジャーボートに海上保安官が乗り込む。中に人はいないが、テーブルに置かれた本と赤い折り鶴、揃えられた革靴などどう見ても何らかのメッセージ性を持った痕跡が残っている。
同じタイミングで突如噴出した熱水によってアクアトンネルに浸水事故が起こり、日本政府が危機管理や災害対策などといった対応を始める。具体的に対応とは会議に始まり、会議に終わる。つまり会議だ。
観客は「よくわからないがどうやら人が少なくとも一人は死んだようだ」「日本が舞台で、災害現場で逃げ惑う民間人ではなくその情報をスマホで収集するような若い政府の官僚が主役のドラマなんだな」と想定する。少なくともシャーロックホームズやスパイダーマンが出てくる話ではないし、ディカプリオが株価を操作してメイクマネーする話のジャンルではないとわかる。
デカい出来事1
ゴジラ(第1形態)が(第2形態)に移行しながら呑川を遡上して蒲田に上陸した。この時点で学者や政府の見解から外れた想定外の事態となり、現場は避難の対応に追われ、都庁でも会議が、防衛省でも会議が始まる。
ようやく対戦車ヘリコプター隊が向かうが、すでに(第3形態)となっていたゴジラを住民の避難完了を待つ間に取り逃がしてしまう。
駆除すれば終わるはずだった巨大不明生物による災害が、次も起こりうる危機となった。緊張が高まったほか、マニュアルが無いとか弱音を吐いたり自衛隊が出動しただけで安心したりする国の対応の問題点もいくつか見つかった。
また、ここまでで観客は「この映画会議ばっかりだな」と次の会議シーンを待ち構える体勢になった。その予想が裏切られることはない、というのがこの映画の独特な個性でもある。
第2幕:【B】
世間は非日常から日常へゆるやかに戻りつつあるが、政府のゴジラ再上陸への備えが始まる。
備えとは具体的には会議に始まり、会議に終わる。つまり会議だ。そこにゴジラ関連情報を最初から隠し持っていた米国の思惑も差し挟まり、ドヤ顔が妙に胡散臭いバイリンガルの石原さとみが新情報を持ってくる。そこへ日本の警察や研究機関もバカではないので牧 元教授とかゴジラのデータとかを取ってくる。あたかも山札から手札が配られるように次々と情報が開示される。
巨大不明生物の名前はゴジラだ。ゴジラは未知の放射性元素を持っていて、体内に原子炉と似た器官を有している。その血液流を凝固剤で止めて体内炉を冷却するという矢口プランが示される。しかしこの時点では未だ自衛隊の総火力の方が勝ちそうに見える。
そうこうしている内に時間が経って(ここまでに2、3回くらい早口で圧縮された長めの会議を挟んでいるため、観客もなんとなく同じくらいの時間を過ごしている気分になる)矢口も巨災対のメンバーと打ち解けてなんだかいい気持ちになって寝ていると、ゴジラ(第4形態)が鎌倉に上陸する。
デカい出来事2
ゴジラは多摩川防衛ラインを突破してふたたび都心へ侵攻し、東京駅で活動を停止する。
自衛隊の総力戦が通用しなかったので米軍もやって来るが、ゴジラの侵攻を阻止できないばかりか強力な放射線流によって被害が増大する。街が燃えて、総理ほか閣僚も大勢しぬ。
第3幕:【C】
どうにか立川の予備施設へ逃げ延びた矢口と巨災対が矢口プランの完成を目指す。
具体的には血液凝固促進剤の選定にもう少し時間がかかるし、牧 元教授の遺品の謎も解かねばならない。
その間にも世界では東京で熱核兵器を使用してゴジラを滅却する案が通っており時間がない。
それでも各国へ交渉をしたり、国や官民を問わず支援を呼びかけたりしてあらゆる力を合わせ、ゴジラを凍結する「ヤシオリ作戦」を立案、遂行する。
後記
このテキストの下書き作成日時は2023年7月10日だった。
毎年一回以上はブルーレイディスクで見ているからと第2幕:【B】まではノリノリで映画のあらすじを緻密に書いていたが、いわゆるタバ作戦のあたりから情報量が増えすぎてどこをどう書いたものかわからなくなっていた。
あと、これは好きな映画をプロットに書き下すプラクティスなのかおれが逆噴射文体でシン・ゴジラの内容をおもしろおかしく紹介する記事なのかコンセプトが曖昧になってもいた。
先程改めてプラクティス9の記事を読み、もっと大雑把に書いても大丈夫だということが腹落ちしたためゴジラ再上陸によって未曾有の被害が出たというところに焦点を絞り、あとはだいたいこんな話だったという記憶で書いた。
このあたりの熱量の違いは「ヤシオリ作戦前後は矢口の白昼夢みたいなものだから……」という一種の与太話も足枷となったかもしれない。
おれは三幕八場とか序破急とかさっぱりわからず書き出しヨーイドンで失速するようなテキストばかり書いてきたので、長編の山あり谷ありを感覚だけでも掴みたい。そのため、このプラクティスを公開する。
以上だ。
(終)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?