一分で読めるクソ小説「命、そして輝ける命」

 ドミノとラーは絶句した。そのあまりの陰惨な光景に。

 2人の冒険者はバディを組んで日が浅いとは言えいくつかの依頼(クエスト)を解決してきた。ドミノに至っては冒険者になる前は傭兵だった。いくつかの紛争を得てこの職を選んだ。それなりに危険な仕事もしてきた。それでも所詮は人間だった。こんな光景を想像したことすらなかった。こんな邪悪が存在することすら頭に思い描けなかった。

「招かれざる客が2人も…これはどういうことだね?」

 ウーバイツ、この一帯を治める領主、爵位を持つ貴族だ。整った身なりに豊かな髭を蓄え、どっしりした体つきからは威厳すら感じた。それは以前の話だ。この惨状のなかで悠然と構える姿に2人は恐怖すら覚えた。

「これはいったいどういうことだ?」

 ドミノは震える声でようやく口にした。小鬼の住む洞窟に乗り込むときも、4度の夜襲を凌いだ砦の籠城戦の時でも感じたことのない感情。そう、恐怖だ。横目でラーを見る。青ざめた顔で口元を必死に抑えていた。

「質問しているのは私だ。私の私室にいきなり乗り込んできて刃を向けているのだ。無礼をとがめる前に事情を知る必要がある。衛兵どもは何をしておったのか、申してみよ」

「…お前はいったいなんなんだ… こ、これはいったいなんだ?」

 ドミノは切っ先をウーバイツからそらして、そこらじゅうの机を指した。緑の美しいテーブルクロスの上には、耳。おびただしい数の耳。無残に引きちぎられた耳が、テーブルクロスの上でシミを作っていた。一つや二つという数ではない。無数に散らばっていた。

「…なぜ私が人に食事をとがめられなければならない?」

 ラーが吐しゃ物を床にまいた。ドミノもその言葉を疑った。食事? 何を言ってるのか、想像もしたくなかった。すがるようにつかんだテーブルクロス、引き寄せるとぼたぼたと耳が地面に落ちてきた。彼女は耐えられず悲鳴を上げた。

「貴様…」

 それでもわずかな勇気をもって剣を構えなおす。

「何か問題があるか? まさか私の食事にケチをつけにこのような無礼を働いたわけか?」

「食事、これがか…ふざけるな!!」

 怒りを恐怖で押さえつけ、剣を構え、一歩を踏み出した。悪、おぞましい悪、ここから逃げるわけにはいかない、その気持ちだけで踏みとどまった。

 ウーバイツはそばにあったベルを鳴らしながら叫んだ。

「この無礼者たちを下がらせろ!」

 そういいながら手元のピザをとって、かじりつき、投げ捨てた。「耳」を!!!!!

「きさまあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ドミノの斬撃を傍らの長槍で止める。

「これを全部、食べ残したっていうのか? ピザの?! 耳を?! 貴様それでも人間か!!」

「なぜ私のような大貴族がピザの味のしないところをたべねばならん」

 ウーバイツの膂力に負け、壁まで押し戻される。

「味が!! するだろ!! 耳だって!!!! それ以前に食べ物を粗末にするなってお母さんに教えてもらわなかったのか!!!」

「そもそも私は食パンに耳があることすら知らなかったが!!」

「このぉ~~~~!!」

「噂では下男下女が切り落とした耳を上げて食ってるらしいが」

「は?!?!? お前あれたべたことないの??!?!?! あんなにおいしいのに?!」

「ないよ」

「ふざけやがってぇ~~~~~~~~!!!」

「この間初めてローストビーフの赤くない端っこ見た。気持ち悪いから残した」

「あそこが一番おいしいだろ!!!!」

 ラーが突然切れた。手持ちのメイスで思い切り殴りこんできた。一閃、槍の思い打撃に弾き飛ばされる。

「ドミノ!」

「ああ、ラー、こいつだけは絶対に許せない… だがひとつだけ聞いておきたいことがある…」

「なんだ?」

 ドミノが震える手で指差した…

「まさか…そこのカステラの一番下のザラメがいっぱいついた茶色い部分は…」

「ふかふかじゃないから嫌い」

 二人の心から一切の迷いが消えた。絶対にこの邪悪を打つ。二人同時に、前に踏み出した。

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