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パブリッククラウドがSASEに及ぼすリスクについて

この記事は、2024年6月6日の Cato Networks の Product Marketing VP Eyal Webber Zvik の以下の記事を意訳したものです。

SASE Evaluation Tips: The Risk of Public Cloud’s High Costs on SASE Delivery
(SASE評価のヒント:パブリッククラウドの高コストがSASE提供に及ぼすリスク)

「Ruby on Rails」の作者で、Basecampの創設者である デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏(David Heinemeier Hansson)は、最近のブログ投稿でアプリケーションプロバイダーがクラウドを離れるべき経済的理由を説明しています。
これは、クラウドアプリケーションやSASEサービスを購入するITベンダーやIT購入者にとって重要な議論になります。

ハンソン氏は、プロジェクト管理ソフトウェアプラットフォームBasecampおよびメールサービスHeyを提供する37Signalsの共同所有者兼CTOです。彼の「簡単な計算」によると、37Signalsは、大規模なクラウドソフトウェアをパブリッククラウドで運用するのをやめ、ベアメタルハードウェアで運用することで年間150万ドルを節約できるとしています。

まだ読んでいない方は、ぜひご自身でその分析を読んでみてください。

クラウドのメリットを信じている人にとって、その数字は信じがたいものかもしれません。結局のところ、クラウドは物事を簡単にし、コストを削減するはずでした。どうしてその逆になるのでしょうか?

クラウドはベンダーのコストを削減するというより、市場に早く参入することを可能にします。ハードウェアコンポーネントの購入、出荷、設置に伴う計画や展開時間、投資を回避し、世界中のデータセンターを構築するための冗長計画を作成する手間を省くことができます。クラウドはベンダーに初日からインフラを提供し、その弾力性は厳格な計算計画を緩和し、必要に応じて計算能力を増やして需要の急増に対応することを可能にします。

しかし、これにはかなりのコストがかかります。ハンソン氏は、計画と経験豊富なチームがあれば、市場投入までの時間と弾力性要件を克服できることに気づきました。

「...ここでの主な違いは、新しいサーバーが必要になってからオンラインになるまでの遅延時間です。クラウドで強力なマシンを100台立ち上げることが数分で可能であることは本当に驚異的ですが、その特権のために高額を支払わなければなりません。そして、我々のビジネスはそのような予測不可能なビジネスではないため、このプレミアムは必要ありません。我々が独自のハードウェアを所有することで節約できる金額を考えれば、サーバーのニーズを大幅に過剰供給することができ、さらに必要になったときには、それでも数週間で到着します」

結果:巨大な資本節約(および他の利益)

生産性ソフトウェアから生産性の高いSASEサービスへ

ハンソン氏がアプリケーションソフトウェアについて言及していることは、SASEプラットフォームにも当てはまります。
SASEプラットフォームは世界中のPoPを必要とし、それらのPoPには通常時に24時間365日動作するための十分な計算能力と、スパイク、フェイルオーバー、およびその他の状況に対応するための追加の計算能力が必要です。

これは時間と計画を要する大規模な取り組みです。しかしながら、SASEの需要に応えるために、多くのSASEプレイヤーはその時間を持ちませんでした。彼らはパブリッククラウドインフラストラクチャ上にSASE PoPを構築せざるを得なかったのです。
例えば、Palo Alto Networksは2022年にGoogle Cloudとのパートナーシップを公表しました。CiscoもグローバルSD-WANサービスのためにGoogleと提携しました。そして、彼らだけではありません。クラウドインフラの購入により、これらの企業はハンソン氏が詳述したすべてのコストを負担しています。

ここでCato Networks についてお話しします。当社の創業者は、SASEが定義される4年前の2015年にCatoを設立しました。我々はSASE市場に応えたのではなく、SASEを発明したのです。

当時、私も幸運にも参加していたリーダーシップチームは、Catoクラウド(Cato SASE Cloud)の基盤としてパブリッククラウドインフラストラクチャを慎重に回避しました。クラウドでPoPインフラを構築することの長期的な経済問題を理解していました。また、インフラを所有することで、パブリッククラウドプロバイダーが提供していない地域にもCatoクラウドを提供できるという他の利点も認識していました

代わりに、我々は80以上の国にあるティア4のデータセンターでCato所有および運営のインフラ上にPoPを構築することに投資しました。現在もその哲学を続けており、供給チェーン問題を克服するためのサーバー供給を確保するために経験豊富な運用チームに依存しています。

高コストは顧客にとって3つの悪い結果を招く

通常、顧客はベンダーのコスト構造を気にしません。少なくとも最初は。
しかし、COGS(Cost of Goods Sold、売上原価)が高すぎてサービスが収益を上げていない場合、結果は3つのうちの1つであり、どれも顧客には好ましくありません。企業が倒産するか、損失を補うために価格が上昇するか、サービス品質が低下します。

ベンダーが利益を上げている場合、これらの結果は起こりにくいです。ベンダーは、マクロ経済やインフレ率に合わせて価格を調整するか、時間とともに大規模な運営の経済的利益を顧客と共有して価格を引き下げることができます。または、ベンダーは顧客のニーズにより良く応えるためにサービス能力や品質を進化させることができます。いずれにせよ、ベンダーはネットワーキングやセキュリティソリューションのために必要な長期的な解決策となる可能性が高いです。

ボトムラインはレッドラインであるべき

大規模なクラウドサービスのために、パブリッククラウドを使用することは、従来のレガシーベンダーが新しいSASE市場に迅速に参入し、企業の情報システム部が求めるもの、つまりSASEを提供しているかのように見せることを可能にしました。それは非常に耳障りのよいな話ですが、真実ではありません。

クラウドプラットフォーム上でSASEまたはアプリケーションサービスを構築することは、ハンソン氏が指摘したように、非常に高いCOGSをもたらします。最終的には、その種の赤字が企業に跳ね返ってきます。
確かに、企業はしばらくの間損失を隠すことができるかもしれません。そして、Palo Alto NetworksやCiscoのような大企業であれば、すぐに倒産する可能性は低いでしょう。

しかし、サービスを提供するコストがあまりにも高すぎる場合、どのベンダーもサービスを収益化しようとします。つまりサービス提供価格を引き上げるか、サービス品質を低下させるか、そのどちらかです。
そして、常にそれはサービスを利用する顧客の負担となります。インフラ購入時にこのような明白なリスクを無視し、大手ベンダーから購入することは「安全策」ではありません。それはむしろライオンの口の中に頭を突っ込むようなものです。そして、その結果がどうなるかは誰もが知っています。

以上が、Cato Networks の記事の意訳になります。

記事に関する考察

Palo Alto Networksは、2022年にGoogle Cloudとのパートナーシップを公表し、その後、AWSとも提携しています。
Ciscoや、Versa Networkは、グローバルSD-WANサービスのためにGoogleと提携しており、Fortinetについても、昨年2023年にGoogleとの提携を発表しました。

上記記事にて、シングルベンダーSASEは、SASEを言葉を生んだガートナーの定義においては、以下の8社ですが、VMware のSASEは(もともと Velocloud)すでにVMwareがBroadcomに買収され、先行きが不透明になっているので実質は7社になりますが、現時点でまともにSASEとして評価できるシングルベンダーSASEは、4、5社程度になると思います、と記載しました。

  1. Cato Networks(Cato Cloud/Cato SASE Cloud)

  2. Palo Alto Networks(Prisma Access)

  3. Versa Networks (Versa SASE)

  4. Fortinet (Forti SASE)

  5. Cisco (Cisco Secure Connect)

  6. Force Point(Forcepoint ONE)

  7. VMware(現 : Broadcom)(VMware SASE)

  8. Juniper Networks

その内、Palo Alto Networks、Versa Networks、Fortinet、Cisco は、GoogleやAWSと言ったパブリッククラウドインフラストラクチャを利用しているため、今後サービスの原価の高騰に悩まされることになり、サービス提供価格を引き上げるか、サービス品質を低下させるか、そのどちらかになると言う記事です。

特に問題なのは、Googleと提携しているということは、中国本土ではサービスを提供できないと言うことです。
アメリカ企業は、中国については、重要視していない傾向がありますが、日本企業は、中国に拠点がある企業が多く、SASEとして、中国でサービスが利用できないのは致命的と言えます。

中国接続については、Alibabaと組み合わせたイビツな構成をされている例もありますが、SASEの特徴である統一(Unification)と簡素化・シンプル化(Simpliciation)を諦めているため、ビジネスのスピード(Speed)と敏捷性(Agility)が無くなってしまっています。

パブリッククラウドのコストについては、随分前から話題になっています。Dropboxが、2015年にAWSから自社データセンター(オンプレミス)へ移行することによって、2016 年に 3,950 万ドル(約62億円)以上の節約ができた事例もあります

SASEではなく、SSEであるZscalerやNeskopeが、契約更新の度にサービス提供価格を引き上げていることはもはや周知の事実ですが、今後、ZscalerやNeskopeのように、パブリッククラウドを利用する Palo Alto Networks、Versa Networks、Fortinet、Cisco が契約更新の度に価格を引き上げることになるかどうかを注視する必要があります

いずれにしても、多くの顧客に支持された SASE のみが、生き残ることは間違いないので、正しいSASE(シングルベンダーSASE)を検討する必要があると言えます。

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