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国産No.1ヒット『神血の救世主』担当編集が語る、売れるWEBTOONに必要な4大要素とは 【WEBTOON勉強会レポート】

はじめに

はじめまして、ナンバーナイン広報のもりやです。今年からナンバーナインの魅力をnoteなどで発信するプロジェクトに参画させていただいています。

先日、ナンバーナインオフィスにてWEBTOON編集者向けの勉強会を開催いたしました。

今回のテーマは、「売れる企画の作り方」。

日本のWEBTOON業界はここ数年大きな盛り上がりを見せており、業界内で知見を共有しあう交流なども活発になってきています。そんな中、作品づくりに関してより実践的に意見交換ができる場を作っていきたいという想いのもと、今回の勉強会は企画されました。

講師を務めるのは、『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜(以下、『神血の救世主』)』『俺だけ最強超越者~全世界のチート師匠に認められた~』(以下、『俺チョー』)』などヒット作を連発している編集者の遠藤寛之さんです。

漫画編集者の遠藤寛之さん

勉強会当日は、配信初日にLINEマンガ「総合ランキング」第1位を獲得した『俺だけ最強超越者』の企画書初稿を公開するなど、”ここでしか聞けない”WEBTOON企画の考え方やノウハウをたっぷりシェア。その後の質疑応答や懇親会も盛り上がり、最後まで熱気冷めやらぬ雰囲気のまま勉強会は終了しました。

学びの濃度を高めるために、少数限定・編集者限定、かつオフラインで開催された本勉強会。このnoteでは、当日ご参加いただけなかった方にもおすそ分けできるように勉強会のレポートをお届けします。

国産WEBTOONが今後さらに盛り上がるには、ヒット作がコンスタントに登場することが不可欠。本noteがその一助となれば幸いです。

作品立ち上げは、”作家と座組み”がすべて

遠藤寛之さん(以下、遠藤)「Studio No.9編集者の遠藤です。よろしくお願いします。早速ですが、皆さんに紙を配っていきます。これは『俺だけ最強超越者~全世界のチート師匠に認められた~』(以下、『俺チョー』)の企画書初稿です。今日はこちらをもとにお話ししていきます」

10人ほどの漫画編集者が集まった今回の勉強会。遠藤さんの挨拶と同時に、参加者には配信初日にLINEマンガ「総合ランキング」第1位を獲得した『俺チョー』の企画書初稿が配られました。「そんな貴重な資料、公開していいんですか……!?」と参加者らが戸惑っている間も無く、勉強会はスタート。

遠藤「この勉強会のテーマが『売れるWEBTOON企画の作り方』ということで、今日はWEBTOON企画の立ち上げから売り伸ばしの方法まで『俺チョー』の事例をもとに話していきたいと思います。まずは立ち上げについてです。

“寿司の味はネタの鮮度で7割で決まる”と言われるように、漫画もどれだけ編集者が頑張っていいディレクションをしても、作家さんで8割が決まってしまうと言っても過言ではありません。だからこそ、立ち上げは重要です。立ち上げを失敗すると、その後の運用でカバーするのにも限界があるからです。私が立ち上げ期に考えることは、いい作家さんと座組みを作ること。これがすべてです。

現に『俺チョー』は座組みの時点でうまくいく確信がありました。原作者は『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜(以下、『神血の救世主』)』の原作者・江藤俊司さん。そして、ネーム担当に『送球ボーイズ』(裏サンデー/小学館)原作者のフウワイさん、線画担当に『とげとげ』(少年ジャンプ+/集英社)作者の土田健太さんという布陣です。つまり『俺チョー』はそれぞれが少年漫画誌で連載実績のある漫画家による共作とも言えます」

遠藤さんは特に原作、ネームの重要性を指摘します。編集者はここに全力を注ぐべきとのこと。では、一体それぞれに何を求めるのでしょうか。

遠藤「まず、原作者に求める要件についてですが、連載経験の有無が挙げられます。私たちが大事にしているのはWEBTOONに関係なく、そもそも王道の少年漫画やバトル漫画を描けること。WEBTOONについては、作家さんがこの時点で詳しくなくても構いません。

ネームに求めることも、横読みの漫画で演出力があるかどうかが大切です。ここでもWEBTOONの文脈は後から作家さんにインストールしていけばいい、という考え方に基づいています。

そもそも、横読みの漫画で勝負できる技量があるかどうかは重要です。なぜなら演出、キャラクターの描き方を後から磨くのってすごく難しいから。一方、WEBTOONについては一年ほど時間があれば感覚がわかってくるものだと思っています」

漫画でもWEBTOONでも、おもしろいものはおもしろい

WEBTOONの盛り上がりが過熱する一方で、遠藤さんは、WEBTOONと横読みの漫画が分けて考えられることに疑問を感じると言います。

遠藤「読者にとって最も大事なのは、読んでおもしろいかどうか。『WEBTOONだから読もう』とか『紙コミックだから読もう』というふうに読者は作品を選んでいないと思うんです。WEBTOONであれ紙コミックであれ、おもしろいものはおもしろい。なのに、時に作り手はWEBTOONと横読みの漫画を完全に切り分けて考えて創作してしまうこともあります。個人的にはそのやり方には納得していない部分があります。

もちろん両者で違う部分はありますし、踏襲すべきエッセンスはあります。また、よく『WEBTOONはスナックコンテンツ』なんて表現されることもありますが、だからといって読み味を出さなくてもいいとはまったく思いません」

スナックコンテンツとは、隙間時間にスナック菓子のようにサクッと簡単に楽しめる文化として受け入れられていることを指す表現です。

たしかに、これまでもWEBTOON界隈ではスナックコンテンツ(あるいはスナックカルチャー)にまつわる議論がメディアやSNSで展開されてきました。遠藤さんが指摘するように、コンテンツのフォーマットベースで作品を選ぶ読者は少ないように思います。

フォーマット以上に大事なのは、作者にファンがいることや作品のおもしろさ。当たり前のことかもしれませんが、意外と忘れてしまっている人もいるのではないでしょうか。

売れるWEBTOON作品に必要な“4大要素”とは

立ち上げの際の座組みやマインドなど、ここまでは企画フェーズの序盤における遠藤さんのナレッジがシェアされてきました。では、おもしろい作品、つまり、売れる作品にはどんな共通点があるのでしょうか。

遠藤「WEBTOON作品で売れるために必要な4大要素があります。サービス、キャラクター、ドラマ、目的設定ですこの4つの要素が入ってないとWEBTOON作品として売れないと私は思っています。とくに作品の序盤で意識しなければいけないのが、サービスとキャラクターです。

サービスとは、読者が求めていることを提供すること。例えばWEBTOONのファンタジー作品の要素で欠かせないのは、主人公がアクションシーンを通じて認められていく、成長していく過程です。『神血の救世主』『俺チョー』でも、主人公の活躍にすべてを集結させることを序盤から徹底しました。これは少年漫画のヒット作品にも通ずる部分があります。

しかし、サービスだけを提供し続けていても読者に飽きられてしまいます。そこで、考えるのがキャラクター。私たちはキャラクターにファンがつくと長期連載に繋がると考えているのでいろんなキャラクターを登場させて、読者にいかにキャラクターを好きになってもらうかを考えます。キャラクターを好きになってもらうために、役割や外見、内面、最初の印象と後からの行動でギャップを生ませることも意識しています」

その後は遠藤さんが手がけてきた『神血の救世主』『俺チョー』のドラマや目的設定も含めて、ここでは書き切れない、書けない具体例がさまざま挙げられながら解説が続きました。

ヒットにつなげるために、「負けない」企画を作ることが大事

実際の企画資料を眺めながら進行されてきた勉強会も終盤へ。当日はこれまでヒット作を連発してきた遠藤さんの編集スタンスについても明かされました。

遠藤「『俺チョー』はちょうど一年前ぐらいから企画し始め、すべての工程において緻密な研究を重ねてリリースしました。すでに連載、ヒットしている少年漫画誌作品の中からベンチマークとなりうる作品も集めましたし、それらの作品を抽象化して要素を分析することもしました。また、いろんな方に意見を伺ったり、読者の全コメントから何がウケて何が刺さっていないのかを考える『コメント分析』を行ったりしました。

ですが、もっとも大事にしていたのは、なぜ『神血の救世主』がうまくいったのか、打ち切られていないのかを徹底的に分析したことです。当時『神血の救世主』は40話ぐらい連載していて、今ほど数字として売れていたわけではなかったのですが、少なくとも打ち切りされておらず、”失敗”はしていませんでした。

冒頭で『立ち上げを失敗すると、その後の運用でカバーするのにも限界がある』と言いましたが、言い換えれば、打ち切られなければ運用でカバーできる部分もあります。私が考える”売れる企画”というのは、ヒットではなく打ち切られないということ。勝つことよりも外さない、失敗しない、負けないことが大事だと思っています」

コンテンツがあらゆるところに飽和する現代において、なぜ今その作品が受け入れられているのかを見つめ直すこと。とってもシンプルなことですが、この積み重ねの過程にこそ次にヒットする作品のヒントが隠されていると言えそうです。

止まらない漫画編集者からの質疑応答、この熱量をぜひリアルでも!

遠藤さんからのレクチャーが終わると、参加者との質疑応答タイムに。漫画編集者同士だからこそ分かり合える、さまざまなぶっちゃけ話が飛び交った質疑応答の一部をご紹介します。

参加者「作家さんの中には初めてWEBTOON作品に関わる方もいらっしゃると思います。そんな作家さんにWEBTOONに慣れてもらうために、何かしていることはありますか?」

遠藤「Studio No.9では『WEBTOONに慣れるための必読リスト』を独自に作成しています。これを読めばWEBTOONにはじめて関わる作家さんでも、WEBTOONあるある、具体的には主人公の活躍のパターンであったり、ネームを書く上での表現だったりを掴んでいただける内容になっています。WEBTOON慣れしてもらうために、作家さんにまずはこちらをお渡しし、全部読んでいただくようお願いしています」

参加者「作品としてのおもしろさが重要であることはよくわかったのですが、レーベルやスタジオそのものにファンをつけるには何をすべきなんでしょうか?」

遠藤「その点はまさに私たちもチャレンジしている真っ最中なんですが、重要なのはフラッグシップになるような作品を創り出すことだと思っています。『神血の救世主』『俺チョー』を立て続けにリリースすることで、読者に『Studio No.9の作品おもしろいの多いじゃん』と認知されやすくなっていると思います。

また、オリジナル以外にも受託で制作している作品にもクレジットを記載させてもらっているので、一つひとつの作品の質を担保することで、結果的にレーベルの質に繋がるのではないでしょうか」

また、その後に開催された懇親会も大いに盛り上がった今回の勉強会。ここまでレポートをお届けしましたが、会場の熱量をテキストで伝えるのには限界もあります……。このレポートを読んで興味を持っていただいた方は、ぜひ次回は現地でご参加いただけたら嬉しいです。

次回のWEBTOON勉強会は、7月頃の開催を予定しております。開催情報はナンバーナイン公式SNSで発信しますので、お楽しみに!

<告知>Studio No.9『神血の救世主』紙コミックス発売決定、予約開始中!

そして、『神血の救世主』がなんと紙のコミックスになることが決定しました!発売日は5/27(月)です。現在、各種サイトで予約も受付中ですので、楽しみにお待ち下さい!

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編集・構成: ころく@ナンバーナインCXO
執筆: Moriya Ayuka

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