【企画参加】 塩の一枚
幼い頃の話。
夏休み、毎年恒例の祖父の家がある愛知県に帰省した。
色々と教えてくれたり、体験させてくれたりする祖父に会うのが楽しみだった。あと、着陸するために低空飛行する飛行機を、家にいながら眺められるのも。
その年は、皆で遠出する事になった。電車に揺られて向かった先は浜名湖。
幼少の頃の電車好きの僕が、初めて乗る電車にどれ程ワクワクしていたのだろうと思うけど、それが全く思い出せない。
ひとつだけ記憶しているエピソードはある。
祖母と散歩に行ったのか買い物に行ったのか、名鉄小牧線に乗った時の事だった。車輌に乗り込むや否や長椅子に登って膝立ちし、流れる景色を眺めていたそうな。目的地に到着しても降りようとせず、まだ乗っていたいと駄々をこねて泣き叫んだとのこと。
祖母が「誘拐犯かなにかと間違われそうな勢いだった」と、帰省する度に笑いながら僕に聞かせてくれたからよく覚えている。
少し大きくなった僕は、目的地についても駄々をこねず電車を降りれるようになっていた。
目的は浜名湖でアサリの潮干狩りだった。潮干狩りと言っても、ここは干潟ではなく、干潮でも水深は大人の腰付近まであり、現地にはボートに乗って行く。小さかった僕には喉の少し上くらいの水位になる。溺れるかもしれないという恐怖のためボートから降りられなかった。降りたくないと駄々をこねる乗り物が電車から船に変わった。
それでも何とか水に浸かりアサリを採った。え?そんな水深でどうやってアサリを採るかって?うろ覚えであるが、水に潜ってアサリを探すのではなく、目で見ずに足で砂底をあさってアサリを探し、足の指で挟んで持ち上げて手で掴む感じだったと思う。
成果は上々。ネット袋に一杯採れた。
撮っ……
採ったのに撮っ……
採ってない
帰りの電車ではさぞ盛り上がったことと思うが、その時の記憶は全くない。
大人たちも話に夢中だったのか、疲れきって居眠りしていたのか。
家に帰り着いて気がついた。
あれ?採ったアサリは何処?
そう、電車の中に忘れてきたのであった。
何しに浜名湖まで行ったのか……
潮干狩りに行ったのに、帰路の電車内に置き忘れるという
『貝を採りに行った甲斐がない』というお話。
こちらの企画に参加するつもりで書きましたが、恒例のパターンになっております。
採用するかしないかはお任せします。
書いた甲斐がありますように。